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2018年4月19日(木)

「先軍政治」の旗は下ろされるのか―音無しの構えの「朝鮮人民軍」

軍人が除外された4月15日の錦繍山太陽宮殿「参拝」


 朝鮮労働党中央委員総会が急遽20日に開催されることになった。

 南北・米朝首脳会談を前に、また朝鮮中央通信が「革命発展の重大な歴史的時期の要求に応じ、新たな段階の政策的問題を討議、決定するため」と伝えたこともあって、重要な決定が行われるとの憶測が流れているが、重要な決定は国務長官に内定しているポンペオCIA長官の訪朝(4月1日)後の9日に召集された党中央政治局員・政治局員候補拡大会議ですでに下されているので、中央委員総会はその決定を満場一致で採択するための単なる儀式に過ぎない。

 最大の関心は、非核化に向けて路線転換するのか、核開発と経済開発の「並進路線」を修正するのか、先代の金正日政権から引き継いだ「先軍政治」の看板を下ろすのかの一点にある。金委員長が党及び軍の全面的な支持を取り付けているならば、路線転換は可能であるが、軍の動向は不透明だ。

 金正恩委員長は4月15日、祖父・金日成主席生誕日に際し、遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿に恒例の「参拝」を行った。参拝には金永南最高人民会議長、崔龍海党副委員長、朴奉柱総理ら3人の政治局常務委員を筆頭に政治局員、政治局員候補ら党幹部らがこぞって同行したが、軍人は除外された。

 過去3年間の「4月参拝」をチェックすると、2015年と2016年は軍幹部らだけを引き連れていた。昨年(2017年)は党幹部らと共に軍幹部らも随行していた。

 異変の兆候は新年の「元旦参拝」からで、軍人だけが外されていた。軍指揮官らだけの集団参拝もなかった。極めて異例のことであった。

 過去3年間の「元旦参拝」を調べてみると、金正恩委員長の参拝には2015年は軍総政治局長、人民武力相、軍総参謀長をはじめとする軍幹部らだけが、2016年と昨年の参拝では党幹部らに交じって軍幹部らもこぞって随行していた。今年の参拝に限って言えば、明らかに軍人だけが錦繍山太陽宮殿参拝から除外されたことになる。

 軍関連ではもう一つ奇妙な現象が起きている。金委員長が今年になって一度も軍部隊を視察してないことだ。北朝鮮では12月から冬季訓練が実施されているが、今年は軍事訓練も参観してない。どれもこれも異例で、金正恩政権発足(2012年)以来、一度もなかった現象だ。

 部隊視察については過去3年間の統計をみても、2015年は1月に5件、2月に5件、3月は4件と合計で13件の視察があった。また、一昨年(2016年)は1月に2件、2月に2件、3月には7件もあった。

 昨年(2017年)も1月は人民軍第233軍部隊と第1314軍部隊の視察に続きタンク装甲車歩兵連隊による渡河攻撃戦術演習の指導があり、2月は中距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射に立ち会っていた。また3月も第966大連合部隊指揮部の視察、戦略軍火星砲兵部隊の弾道ロケット発射訓練の視察、それにロケットエンジン噴射試験の指導もあった。4月も13日に特殊作戦部隊による渡河訓練を視察していた。

 金委員長が新年辞で「北と南は情勢を激化させることをこれ以上やるべきではない。軍事緊張を緩和し、平和的環境を作り出すため共同で努力しなければならない」と言った手前、南北首脳会談や米朝首脳会談のため軍人を前面に出すのを自制し、自らも軍事活動を自粛しているのか、それとも単に「普通の国家」へのイメージチェンジを図ろうとしているのか今一つ不明だが、どうやら党が軍を掌握する北朝鮮版「シビリアンコントロール」を徹底させようとしているようだ。

 その証左として、金正恩委員長は昨年11月に軍No.1の黄炳誓軍総政治局長を解任すると同時に党最高幹部の位である政治局常務委員からも下ろしているが、後任の金正角軍総政治局長に政治局常務委員の地位を与えていない。金正角次帥は政治局常務委員どころか、まだ政治局員にも、政治局委員候補にも選出されてない。

 初代の金日成政権から二代目の金正日政権に至るまで「軍三役」(軍総政治局長、人民武力相、軍総参謀長)のうち誰か一人は政治局常務委員には入っていた。北朝鮮の体制は党と政府と軍の3本柱で成り立っているからだ。しかし、朴英植人民武力部部長(武力相)も李明秀軍総参謀長も政治局員にはなっているものの政治局常務委員には選ばれていない。

 また、今月11日に開催された最高人民会議の人事をみると、金正角軍総政治局長は前任者の黄炳誓氏が兼ねていた三つしかない国務副委員長(残りは朴奉柱総理と崔龍海党副委員長)のポストも引き継げないでいる。一介の国務委員とまりだ。

 人民武力部副部長時の2002年に大将に進級し、5年後の2007年には軍総政治局第一副局長として病床の趙明禄局長に替わって軍総政治局を統括していた今年76歳の金正角次帥は金正恩政権下の2012年に人民武力相に起用されたものの1年もしない2013年に更迭され、金日成軍事総合大学学長に左遷されていた。

 金委員長は一昨年2月には当時61歳だった李永吉軍総参謀長を更迭し、後任に2013年に人民保安相を解任され、国防委員からも外されていた前任者よりも21歳も年上の長老の李明秀大将を据えていたが、今回も同様にリタイアしていたロートルを軍トップに起用したことになる。OBを起用する理由は不明だが、いずれにせよ若返りとは無縁の人事であることには変わりはない。

 朝鮮中央テレビが4月11日に放映した「金正恩最高首位推戴6周年」記念報告大会の映像に2013年5月に人民武力相に抜擢された張正男大将の姿が映し出されていた。軍服の肩に付けられていた階級章をみると、大佐に格下げされていた。

 張正男氏は2014年6月に人民武力相を解任され、野戦軍の5軍団長に左遷され、階級も上将(中将と大将の間の階級)に格下げられていたが、今回はそれよりも2階級降格したことになる。金正恩政権下では将軍らの階級が上下するのは決して珍しいことではない。

 粛清や降格などの懲罰人事や論功行賞人事を駆使し、軍を掌握した金委員長が今後「先軍政治」の旗を下ろすつもりなのか定かではないが、「先軍政治」の金正日政権下で恩恵を与えられてきた最大の既得権集団、特権階級の軍がそれに従い、「宝剣」の核戦力を手離すことができるのか?

 「先軍政治」の国にあって国家予算は軍事優先である。かつて故金正日総書記は「我が国では軍事が第一で、国防工業が優先だ。我々が苦労しながら国防力を強化したから良かったもののそうしなかったら、帝国主義者らにとっくに食べられていた」と語ったことがある。

 人民軍の動向が注目される。



2018年4月17日(火)

なぜ、この時期に在韓米軍家族らの「国外退避訓練」が行われるのか

昨年実施された米軍輸送機による在韓米軍家族の国外退避訓練


 北朝鮮がミサイル発射など軍事挑発を止め、米韓両国に対して首脳会談を呼び掛け、これに米韓当局が春の恒例の米韓合同軍事演習の規模と期間の縮小で応じたことで朝鮮半島の情勢は一触即発の軍事的緊張状態からデタントの方向に流れている。

 こうした状況を反映してか日本は昨年3月から秋田県男鹿市を皮切りに全国の地方自治体で実施されていたミサイル避難訓練は今年1月22日の都内(文京区)での訓練を最後に行ってない。北朝鮮がミサイル発射実験を凍結したこともあってJアラート(全国瞬時警報システム)も今年は一度も作動してない。

 ところが、米軍による朝鮮半島有事を想定した在韓米軍家族らの退避訓練が昨日(16日)再開され、在韓米軍当局によると、20日まで実施されるようだ。

 在韓米軍は「退避訓練は春と秋に行う恒例訓練の一環である」として、朝鮮半島情勢や米朝関係に影響を与えるものではないと説明しているようだ。確かに一昨年も10月から11月にかけて、昨年も6月(5〜9日)と10月(23〜27日)に2度実施されていた。

 一昨年の避難訓練には60人が参加して行われ、対象者は避難の際に一人当たり最大で27キログラムの所持品の持参が許され、ソウル市龍山区にある米軍基地で身元確認の腕輪を渡され、保安検索の手続きが行われた。その後、一行は生物・化学兵器による攻撃を12時間防止することのできるマスクの着用方法に関する訓練を受け、大型輸送ヘリで南方の京畿度・平澤に移動した後、大邱にある米軍基地で一泊して翌日C―130輸送機で釜山にある金海空軍基地から日本の沖縄に向けて飛び立っていた。

 昨年6月の訓練には驚いたことに1万7千人以上が参加していた。韓国に居住している米国人は約20万人だが、およそ、十数人のうち一人が参加する計算となった。トランプ政権が北朝鮮の核とミサイル開発を阻止するため軍事オプションも辞さないと、公言したことが影響したようだ。

 当時の駐韓米第8軍のフェイスブックによると、訓練は朝鮮半島有事の際「旅券など書類を持ってソウルの龍山基地など韓国全土に散在している集結場所や退避統制所に集まる非戦闘員(米軍兵士の家族など民間人)らを航空機や鉄道、船舶で安全に日本に退避させる」ことを目的としていた。実際にこのうち、約100人以上が航空機に搭乗して、国外に出る訓練を受けていた。一方、10月の訓練は参加人数も規模も明かにされなかった。

 今回の訓練には米兵家族ら約100人が参加するようだが、計画では参加者らを軍用機で一旦、日本(在日米軍基地)へ運んだ後、米本土に移送することになっている。第三国を経由して米本土まで運ぶ退避訓練の実施は今回が初めてである。

 朝鮮半島有事の際に米国国籍の民間人を韓国から米本土まで実際に脱出させることを「非戦闘員退避活動」(NEO=Non-combatant Evacuation Operation)と米軍は呼称しているが、これまではコンピューター・シミュレーションや韓国国内に限定され実施されていた。

 ところが、北朝鮮が一昨年9月に5回目の核実験を強行し、緊張が高まったことで2か月後の11月に米軍輸送機に乗せて日本に輸送することになった。韓国からの脱出訓練は実に2009年以来7年ぶりのことであった。

 思えば、2009年という年は4月の北朝鮮による人工衛星と称した長距離弾道ミサイル・テポドンの発射をめぐってゲーツ米国防長官(当時)が「発射すれば、迎撃も辞さない」と警告し、これに対して北朝鮮人民軍参謀部が「(米国が)我々の人工衛星に迎撃行動をとれば、発射手段(イージス艦)への攻撃だけでなく、根拠地への報復打撃を開始する」と威嚇し、軍事的緊張がピークに達していた。

 米国が軍事攻撃を仕掛ける場合、先制、奇襲攻撃が成功の前提条件となるが、米国は軍事攻撃を開始する前には必ず自国民の被害を最小限にするため前もって紛争地域から非戦闘委、即ち民間人を疎開させる。クリントン政権が1994年6月に北朝鮮への核施設への先制攻撃を決断した際にも事前に駐韓米大使を通じて米国人の国外避難指示を出していた。

 在韓米軍が韓国在住の米民間人を米国に移す訓練を実施するのは、トランプ政権が来る米朝首脳会談を決して楽観視してないこと、米国が求める条件なしの非核化、それも完全で検証可能で不可逆的な非核化に北朝鮮が応じない場合は、次の段階(軍事攻撃)に移るかもしれないとの証とみる向きもある。

 韓国の軍消息筋は「南北・米朝首脳会談を前に、北朝鮮の非核化に対する期待感が高まっているが、米国は最悪の状況にも備えている」と韓国のメディアに語っているようだが、米朝首脳会談を前にシリア空爆に続く今回の在韓米軍家族らの退避訓練を金正恩政権がどう受け止めているのか、北朝鮮の反応が注目される。



2018年4月15日(日)

核を手離すべきか、保持すべきか、シリア空爆が米朝首脳会談に臨む金正恩委員長に及ぼす影響

シリア攻撃を発表するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)


 トランプ政権が昨年に続き、再びシリア空爆に踏み切った。

 昨年の第一次攻撃は空軍基地1か所に限定され、地中海に待機していた艦船から巡行ミサイル59発が撃ち込まれたが、今回の第二次攻撃では英仏両国も加わり、首都ダマスカス近郊や中部ホムスの化学兵器関連施設など3箇所に向け巡航ミサイルが100発以上発射された。

 トランプ政権がシリア攻撃を再度決断した理由は一にも二にもアサド政権が反政府派勢力を駆逐するため化学兵器を使用したということに尽きる。

 トランプ政権は昨年も「化学兵器で民間人を殺害したのは人類に対するこの上ない冒涜であり、無垢の子供や幼児らを殺害したのは一線を越えた」と攻撃を正当化させていたが、今回も「残忍な蛮行」である化学兵器の使用への対抗措置として「正義の力を行使した」と主張している。

 結果として、トランプ政権のシリア空爆は今回もまた、米国にとって越えてはならない一線を越えたら、軍事力を行使する決意を行動で示したことになった。同時にイランや北朝鮮に対しても核・ミサイル開発を放棄しなければ実力行使も辞さないとするメッセージにもなった。こうしたことから北朝鮮の反応が注目されるところだが、15日午後5時現在、まだ公式反応はない。

 シリアは北朝鮮にとって数少ない友好国であるだけに昨年同様に米国の攻撃を非難する声明か、談話が外務省から発表されるものとみられるが、今回の件で金正恩委員長が心変わりして、トランプ大統領との史上初の米朝首脳会談をドタキャンすることはなさそうだ。それでも今回の米国のシリア攻撃は金委員長の心境に少なからぬ影響を与えることになりそうだ。

 北朝鮮は昨年、米国の攻撃を「主権国家に対する侵略行為である」と断罪する外務省談話(4月8日)を出していたが、その中で「シリアの事態は我々に帝国主義者らへの幻想は絶対禁物である」との警鐘を鳴らしたうえで「今日の現実は力には力で対抗し、核武力を常時強化してきた我々の選択が千万回正しかったことを立証した」として「核兵器を軸とした自衛的国防力を引き続き強化する」ことを強調していた。

 シリアは核兵器を保有してない。それにもかかわらず「化学兵器の拡散と使用を阻止することが米国の安全保障にとって死活的な重大な問題である」との理由で叩かれた。仮に北朝鮮が外務省談話で言及しているように「米国は核を持ってない国だけを選んで攻撃している」ならば、北朝鮮はトランプ政権を相手に米朝首脳会談に応じたとしてもそう簡単に核を手離そうとはしないだろう。

 しかし、その一方で、米国のシリア空爆が「国際的な規範や合意に違反したり、約束を守らなかったり、他者を脅かしたりすれば、いずれ対抗措置がとられる可能性が高いという警告」として受け取っているならば、トランプ政権との首脳会談で非核化を宣言し、体制保証を確約してもらったほうが得策であるとの結論に達するかもしれない。

 「シリアのアサド大統領の態度を変えさせようとする過去の試みは全て失敗し、そのせいで地域の不安定化が進んだ。我々は前政権から悲劇的な外交政策の災難を引き継いだ」というのがトランプ政権のシリア空爆の理屈となっている。それをそのまま「問題児」の北朝鮮に当てはめれば、仮に米朝首脳会談で非核化に応じなければ、次の攻撃対象にされかねない。何よりもトランプ政権が「北朝鮮は全世界の脅威であり、世界の問題である」と主張しているからだ。

 「これまで北朝鮮に対して言うべきことは言った。もうこれ以上、言うことはない」としているトランプ大統領にとって金委員長との首脳会談は北朝鮮核問題の平和的解決に向けた最後の外交努力と位置付けている。トランプ大統領曰く、「北朝鮮はならず者国家だ。(核放棄に向けた)合意ができれば最高だが、できなければ何かが起きることになる。今に分かる」とツイートしていたが、要は「後は行動するのみ」という意味のようだ。

 米国が求める完全で検証可能なかつ不可逆的な非核化に応じなければ、叩かれ、さりとて核という「抑止力」を手離してしまえば、核放棄後に米英仏によって攻撃され、崩壊したリビアのカダフィ政権の二の舞になるかもしれないとのジレンマを抱える金正恩政権がどのような選択を下すのか、早ければ来月その結果がわかる。

(参考資料:南北首脳会談は公表、米朝首脳会談は未公表―金正恩委員長の思惑 )  



2018年4月12日(木)

米韓首脳を介しての拉致問題の解決は!?

拉致被害者家族らと面談したトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)


 日本の頭越しに南北首脳会談と米朝首脳会談が決まったこともあって梯子を外された感のある日本政府の動きが俄かに慌ただしくなってきた。

 核やミサイルの他に拉致問題などの懸案を抱える安倍政権は河野外相を韓国に派遣し、文在寅大統領に金正恩委員長との首脳会談で拉致問題を議題に取り上げるよう要請する一方で安倍総理自らも今月17日訪米し、トランプ大統領と直談判し、拉致問題の解決に向け協力を求めるようだ。

 日本の要請に対して文大統領は直接的な回答を避けつつも「拉致問題を含め、北朝鮮と日本の間の懸案解決と関係の改善のため、(日韓)両国で協力していこう」と応じ、トランプ大統領もまた、金委員長との会談で日本人の拉致問題を提起することを約束するようだ。

 拉致問題への協力要請とは米韓両首脳が拉致被害者を全員日本に帰すよう金委員長に決断を促してもらう、あるいは拉致問題解決のため日朝政府間協議を速やかに再開するよう働きかけてもらう二点を指すが、こうした第三者を介した働きかけは側面支援とはなるが、根本的な問題解決に繋がるかは何とも言えない。

 日本政府が拉致問題で第三国に協力を求めたのは何も今回が初めてではない。

 北朝鮮と友好関係にあった中国への協力要請は一、二度ではない。胡錦涛前政権時代には再三協力を要請してきた。

 中朝両国間では胡錦涛主席の訪朝(2005年10月)と温家宝首相の訪朝(2009年10月)があり、金正日総書記もまた、2006年から死去する2011年まで計4度訪中し、首脳会談を行っているが、拉致問題が議題になったことは一度もなかった。

 米国に対してもしかりである。ブッシュ政権時も、クリントン政権の時も、またオバマ政権時も拉致被害者が大統領や国務長官などに直接会って、訴えてきた。しかし、米朝首脳会談が開かれなかったこともあって米大統領が金総書記に直接働きかけることは一度もなかった。

 トランプ大統領と金正恩委員長による首脳会談は米朝歴史上、初めてである。トランプ大統領が金委員長に直に拉致問題の解決を求めることができる。仮に米国が同盟国の日本の拉致問題が解決されなければ、核とミサイル問題が解決しても、国交正常化はできないとの厳しい条件を北朝鮮に突き付ければ、話は別だが、トランプ大統領が拉致問題への北朝鮮の考えを聞くことだけに終始すれば、過去の南北首脳会談ではすでにその回答が出ている。

 一回目の南北首脳会談は金大中政権下の2000年6月に行われたが、当時はまだ北朝鮮が拉致の事実を認めてなかった。北朝鮮が拉致を認めたのは2年後の2002年9月、小泉総理が訪朝し、金正日総書記と日朝史上初の首脳会談を行った時だ。従って、小泉政権が直接、金大中政権に拉致問題への協力を求めることはなかった。

 しかし、二回目の盧武鉉政権下の2007年10月の南北首脳会談では拉致問題が膠着状態に陥ったこともあって、当時福田康夫総理は盧武鉉大統領に金正日総書記宛のメッセージを託していた。当時も今と状況が似ていて、ジュネーブでの米朝関係正常化実務者会議で北朝鮮の核施設の年内不能化と全面申告で合意した直後で、米朝和解ムードが漂っていた。

 当時の報道によると、盧大統領は金総書記に福田政権で対北朝鮮政策が変わる可能性について言及し、遠まわしながら拉致問題の解決を促していたが、金総書記は「福田政権に代わったので日本の状況を見守っている」と答えただけだった。

 しかし、その後、金総書記は南北首脳会談で「拉致日本人はもうこれ以上いない」と語っていたことが判明した。また、南北首脳会談から10日後に共同通信社社長と会見したNo.2の金英南最高人民会議常任委員長も金総書記と口を合わせるかのように「拉致問題はすでに解決した問題である」と語っていた。

 二人の発言はこれまでの北朝鮮の公式見解、立場を繰り返したに過ぎないが、トップツーがここまで「断言」したとなると、日本が求めるような形の拉致問題の解決は容易ではないこともわかる。実際にこれ以降、拉致問題は全く進展が見られず、誰一人生存者は戻って来てない。

 「拉致問題は未解決」との立場の日本が求める拉致問題の解決とは、ずばり「死亡した」と発表された8人を含む12人の政府認定の拉致被害者の生存と、拉致された疑いの高い特定失踪者らの存在を北朝鮮が認め、日本に帰国させることだが、3年前の日朝ストックホルム合意に基づき、北朝鮮は拉致被害者の再調査を実施し、その結果を日本に通告することを約束していた。

 再調査は北朝鮮による核実験やミサイル発射によって中断したままとなっているが、安倍政権としては最終報告書を受け取る前に米韓首脳らを通じて金委員長に「勇断」を促したいところだ。米韓との一連の首脳会談で金委員長が日本人拉致問題についてどう言及するのか大いに注目されるところである。



2018年4月10日(火)

南北首脳会談は公表、米朝首脳会談は未公表―金正恩委員長の思惑

初の米朝首脳会談に臨むトランプ大統領と金正恩委員長


 昨日(9日)、北朝鮮は労働党中央委員会政治局会議を開いた。最高人民会議開催開催(11日)を前に予想されていた政治スケジュールの一環である。

 政治局会議では最高人民会議に提出する来年度国家予算について協議されたほか、金正恩委員長から最近の朝鮮半島情勢に関する報告があったようだ。

 北朝鮮は金委員長の報告の中で南北首脳会談が4月27日に板門店の韓国側地域にある平和の家で行われることを初めて国民に知らせていた。

 南北双方は3月29日の高位級会談で首脳会談を「平和の家で4月27日に行う」との共同報道文を発表していたにもかかわらず北朝鮮メディアは「共同報道文には南北首脳会談の時期と場所が明らかにされている」とだけ報道し、会談の日や場所については国民に一切伝えてなかった。

 南北首脳会談の開催は政治局会議で了承を得たことになるのでこれにより、三度目の南北首脳(文在寅大統領―金正恩委員長)会談は4月27日に行われることが確定したが、歴史を振り返ると、過去2度の南北首脳会談は合意どおり当日に行われたことは一度もなかった。

 一回目の2000年6月の南北首脳(金大中大統領―金正日総書記)会談は合意では金大中大統領が6月12日に訪朝して行われることになっていたが、北朝鮮側の事情で1日延び、13日に金大統領は平壌入りせざるを得なかった。

(参考資料:18年前の第一回南北首脳(金大中―金正日)会談の議題と攻防 )  

 二回目の2007年10月の南北首脳(盧武鉉大統領と金正日総書記)会談もまた、韓国の国家情報院院長(金万福)と北朝鮮の統一戦線部部長(金養建)が8月5日に協議し、3日後の8日に「8月28−30日に平壌で行う」と同時発表したが、これまた北朝鮮側が延期を要求し、10月2−4日に変更されてしまっている。

 「二度あることは三度ある」か、それとも「三度目の正直」で合意どおり今月27日に行われるかは、これまた当日になってみなければわからない。

 世界の関心は前座の南北首脳会談よりも、本番の米朝首脳会談に向けられているが、金委員長の昨日の報告では「米朝対話展望について深度深く分析評価した」とだけしか触れておらず、トランプ大統領との首脳会談の開催についてはまだ国民に伏せたままである。

 史上初の米朝首脳会談については金委員長自らが平昌五輪後の5月3日に訪朝した韓国特使を通じてトランプ大統領に「早い時期にお会いしたい」と要請し、それを受けトランプ大統領が「5月までに会談を行う」意向を示したことから今では既成事実化している。

 実際にトランプ大統領は以後、金委員長との首脳会談について「何が起こるかなんて誰も分からない。私はすぐに立ち去るかもしれないし、そのまま席に座って世界にとって最高のディール(取引)を成し遂げるかもしれない」(3月10日)「私は我々の会談に期待している。昨夜、習近平主席から金委員長が私との会談を期待しているというメッセージを伝えてきた」(3月28日)等など米朝首脳会談について再三言及しており、昨日(9日)もホワイトハウスで開かれた閣議の冒頭、首脳会談の開催時期について触れ、「5月か6月初旬になる」と述べたばかりだ。

 しかし、北朝鮮は依然として公式的には米朝首脳会談に関して一言も言及してない。金委員長は訪中(3月25-28日)した際、習主席との会談で米朝首脳会談への意気込みや米国が求める非核化の条件などを提示していたが、北朝鮮の国営放送は「朝鮮半島情勢管理問題を含む主要事案については深みのある意見交換を行った。会談は虚心坦懐で、建設的で、真摯な雰囲気の中で行われた」との表現に留めていた。

(参考資料:米朝首脳会談は実現するか?北朝鮮の「本気度」を占う4つのチェックポイント )  

 米朝会談の日時や場所、議題が何一つ決まってないことから公表は時期尚早と判断しているのかもしれないが、昨年の国連総会でのトランプ大統領の「北朝鮮を破壊する」演説に金委員長自らが激怒し、トランプ大統領を「火遊び好きな放火魔」「チンビラ」呼ばりし、「老いぼれた狂人を必ず、火でしずめる」と啖呵を切った相手との直接会談だけに南北首脳会談とは違い、対内的な説明に相当腐心しているようだ。

 何よりも「米国が推進する我が国の核問題の外交的解決には一かけらの期待も持たない」(労働新聞)と言っていただけに手のひらを返して米朝首脳会談を求めたとなると、それなりの国民向け言い訳が必要で、そのためにも北朝鮮は会談場所をできることならば平壌、悪くても板門店にしたいところだろう。「トランプが白旗を掲げてやってきた」と「外交勝利」を謳うことができるからだ。

(参考資料:北朝鮮が前代未聞の声明を発表! 究極の「トランプVS金正恩バトル」 )  



2018年4月8日(日)

「分かっちゃいるけど止められない」金正恩委員長の喫煙

どこに行ってもたばこ欠かせない金正恩委員長


 金正恩委員長が3月5日、韓国特使団と会食した際、特使団団長の鄭義溶大統領府国家安保室長から禁煙を勧められる一幕があったと、朝日新聞が複数の南北関係筋の話として報じていた。

 同紙によると、72歳の鄭氏が息子ほど歳の離れた34歳の正恩氏に「たばこは体に悪いので、お止めになったらどうですか」と勧めたところ、同席していた李雪主夫人が「いつもたばこを止めて欲しいと頼んでいるが、言うことを聞いてくれない」と手を叩いて喜び、正恩氏は笑っていたとのことだ。

 金正恩委員長が名立たる愛煙家であることは周知の事実である。金正日総書記の料理人で知られる藤本健二氏の話では、金正恩委員長は10代半ばから親に隠れて喫煙していたそうだ。従って、喫煙歴は足掛け17年となる。お気に入りは外国のイブ・サンローランと国内産では「7.27」(「7.27」とは朝鮮戦争戦勝記念日の7月27日を指す)という銘柄である。

 祖父の金日成主席も父の金正日総書記も愛煙家であった。金主席は還暦過ぎたあたりからはキューバのカストロ議長に勧められたのか、時たま葉巻のようなものを吸っていた。金総書記は外国製のダンヒルにマルボロを好んで吸っていた。

 金正日総書記の生存の頃のドキュメントフィルムをみると、たばこを手にした場面が頻繁に出てくる。面白いのは、側近が灰皿をもって金正日委員長について回っていたことだ。

 金正日総書記は2001年に訪中した折、中国の幹部に「健康に悪いので禁煙した」と語っていた。当時、北朝鮮のメディアは「喫煙は心臓を打ち抜く銃と同じだ」との金総書記の言葉を紹介し、国民に禁煙を奨励していた。

 しかし、金総書記は2009年に再びたばこをふかし始めた。同年4月14日、平壌の中心を流れる大同江の辺で行われた金日成主席生誕97周年を祝う花火大会を鑑賞した際に金総書記のテーブルの前に灰皿が置かれていたことから判明した。この年の9月にロシアの文化使節団を率いて訪朝し、金総書記と面会した音楽家のパーペル・オフシャンニコフ氏が「米国のマルボロを吸っていた」と証言したことで決定的となった。

 金総書記が長年禁煙していたたばこを復活したことについては「太り過ぎないため」の説と激務による「ストレス軽減のため」の説が交錯していたが、理由はどうであれそれから2年3カ月後に金総書記は父・金日成主席同様に心臓発作を起こして急死してしまった。

 祖父も父もいずれもヘビースモーカーであったが、それでも喫煙の際は場所柄を弁えていた。ところが、ヘビースモーカーのDNAを引き継いだ金正恩委員長の場合、TPOに関係なく、喫煙する。どこに行っても、たばこを離さない。歩きながらでも、また座っていてもテーブルには必ず灰皿が置かれていた。

 最も驚いたのは、2015年2月に元山の愛育院を視察した際、幼児らが集まっている愛育院で右手にたばこをくわえていたことだ。音楽会や舞踏会でも、妊婦の李雪主夫人が隣に座っていても、また元老らの前であろうが、おかまいなしに平気で吸っていた。

 この年の9月3日、モランボン楽団の公演では両脇には黄炳誓人民軍総政治局長(当時)と金基南党政治局員(当時)が座っていたが、黄炳誓局長は76歳、金己男政治局員に至っては87歳だった。当時31歳の若輩の金委員長からすれば、二人は父親、祖父のような存在であった。ところが、場内でたばこを吸っていたのは金委員長一人だけだった。いかに部下とはいえども、長老らの前での喫煙は朝鮮半島の礼儀作法として許されるものではない。結局、金委員長だけは別格として喫煙が許されていたことになる。

 そんなヘビースモーカーの金正恩委員長も一度は禁煙を試みたことがあった。

 一昨年(2016年)の労働新聞(4月24日付)に「たばこが人体に与える影響」との記事が掲載された。記事には金委員長が「革命をやろうとするな、体も健康でなければならない」と言ったと書かれてあった。

 労働新聞にはその後、喫煙が原因による肺癌発生に関する記事が掲載され、平壌を中心に全国各地に禁煙研究所が設立されるなど禁煙を本格的に奨励している事実も判明した。喫煙研究所は喫煙者の相談窓口となっており、喫煙者に対しては世界保健機構(WHO)が認定した禁煙栄養錠剤や禁煙パイポなど禁煙に関する健康製品や喫煙によって発生する疾病を治す医薬品などが補給されていた。

 禁煙キャンペーンは金委員長の許可なく勝手には始められない。ということは、金委員長が自ら音頭を取って禁煙したことになる。実際に金委員長が手にたばこをくわえている写真は2か月以上にわたって配信されなかった。たばこを手にしている姿は2016年3月15日の弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験に立ち会った時が最後でそれ以来、その種の写真は公開されることはなかった。金委員長は5月30日かその前日に行われた中朝バスケットボール親善試合を観戦していたが、テーブルには灰皿が置かれていなかった。

 ところが、3か月もしない6月4日に新たに建設された万景台少年団野営所を視察に訪れた際にはたばこを手にしていた。約80日ぶりの喫煙写真の公開であった。それもよりによって子供らが集う少年団野営所での喫煙であった。

 金委員長は今月1日、平壌で行われた韓国歌手らの公演を夫人と共に鑑賞したが、北朝鮮の映像を細かくチェックすると、実際に吸っていたかどうかわからないが、横のテーブルに灰皿が置かれていた。

 「ハナ肇とクレージーキャッツ」の植木等の爆発的なヒット曲「スーダラ節」の歌詞に「これじゃ身体に いいわきゃないよ分かっちゃいるけど やめられねぇ」とのフレーズがあるが、今の金委員長の心境を表しているのではないだろうか。ストレス発散や肥満防止のため手離せないのだろう。



2018年4月2日(月)

韓国芸術団の平壌公演は10年前のNYフィルハーモニの平壌公演の再現

韓国芸術団の平壌公演会場に姿を現した金正恩委員長


 昨日、平壌市内で開かれた韓国芸術団の公演に金正恩委員長が突然、李雪主夫人を連れ立って現われ、韓国側を驚かせたようだ。

 金委員長夫妻は韓国歌手らの歌に合わせて拍手をし、公演後は出演したアーティストたちと握手を交わしたほか記念撮影もしていた。

 金委員長は韓国側の引率者に「私が(アイドルグループの)レッド・ベルベットを見に来るかどうかに関心が多かったようだが、もともと明後日(3日)に来る予定だったが、日程を調整して今日来た。南北が共に行なう合同公演も意義深いが、南側だけの公演を見るのも意味がある」と語ったとのことである。

 文在寅大統領が平昌五輪の際に北朝鮮芸術団のソウル公演を鑑賞していたことから当然、予想されていたこととはいえ、それでも鑑賞するなら南北合同公演ではないかとみられていただけに、初日に訪れるとは意外だったようだ。金委員長曰く、「単独公演でも見るのが人情」だと述べたとのことだが、金委員長が鑑賞したこともあって韓国スーパスター、チョ・ヨンピルら韓国歌手11人による平壌公演は大いに受け、盛り上がったようだ。

 金委員長が昨年まで喧嘩相手だった「敵国」から芸術団を招くスタイルははやり、父・金正日総書記のDNAを受け継いでいることの証でもある。「蛙の子は蛙」と言われているが、明らかに金委員長は父のスタイルをそのまま踏襲している。

 というのも、今回の講演は金正日政権下の10年前の2月26日に平壌で行われたニューヨーク・フィルハーモニックの公演を連想させるからだ。

 公演会場の舞台の両袖には、米国と北朝鮮の両国旗が掲揚されていた。米国からは公演の仕掛け人であるグレッグ元駐韓米大使とペリー元国防長官が会場の中央で李根外務省対米局長と並んで座っていた。

 公演は両国の国歌演奏で始まったが、北朝鮮の国歌に続き、米合衆国国家が演奏された時も北朝鮮の機関、団体幹部らから成る観客は起立したままで、演奏が終わると、熱烈な拍手で応えていた。

 ワーグナーの「ローエングリン」第3幕への前奏曲、ドボォルザークの交響曲第9番「新世界より」が次々と演奏された。各曲の演奏の合間に指揮者のローリン・マゼール氏の簡単な解説があったが、ジョークを交えたり片言の朝鮮語を駆使したり、彼の話術も完全に観客を虜にしていた。

 ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」、そして最後はバーンスタインの「キャンディード」序曲で締めくくったが、会場はアンコールの大合唱。これに応え、アンコール曲として管弦楽「アリラン」を編曲、演奏した。観衆は完璧に魅せられていた。会場はるつぼに化し、「ブラボー」の声とともに握手がしばらく鳴り止まなかった。

 それでも、この時は、音楽好きなのに最高指導者の金正日総書記の姿は会場にはなかった。

 金総書記が出席しなかった理由は朝鮮人民軍最高司令官の立場上、国交のない敵国の国歌に直立不動で敬意を表するわけにはいかなかったことである。米韓合同軍事演習が3月2日から行われることに備え、全軍に「高度の警戒心をもってあたれ」とはっぱをかけている最中に最高司令官が「星条旗」の演奏を聴くわけにはいかなかった。軍の士気にかかわるからだ。

 公演が行われた昨日、韓国では米韓合同軍事演習が始まった。それでも、金正恩委員長は公演会場に姿を現した。父親よりも度量のあるところを見せたかったのだろうか?



2018年3月30日(金)

容易ではない中朝関係の完全修復――映像からチェックした中朝首脳会談

首脳会談を前に握手する習近平主席と金正恩委員長


 金正恩委員長の訪中に驚いたのは安倍総理だけではない。韓国の文在寅大統領とトランプ大統領もしかりだ。

 冷え切った中朝関係を考えると、この時期の訪中はあり得ないとみていただけに内心受けた衝撃は測り知れないものがあったのではないだろうか。

 金委員長の訪中は早い段階から計画されていたとの見方もあるようだが、そうだろうか?おそらく、即断即決し、中国側に通告したのは、中国入りする3〜4日前あたりではないだろうか。

 そもそも、北朝鮮の平昌五輪参加も南北首脳会談も、そしてトランプ大統領との史上初の首脳会談も中国に事前通告すらしなかった。それもこれも、米国と一緒になって制裁と圧力を掛けてきた中国の鼻を明かしたいがためだ。実際に、金委員長の南北首脳会談と米朝首脳会談の提案を訪中して、習主席に伝えたのは、金委員長と会った韓国特使であった。

 それが、一転訪中を決断したのは、やはり予測不能の交渉相手であるトランプ大統領が17日から22日にかけて対話派のティラーソン国務長官とマクマスター大統領補佐官を解任し、後任に金正恩政権のレジームチェンジや軍事オプションによる解決を公然と主張する強硬派のポンペオCIA長官とボルドン元国連大使を指名したことによるところが大きい。

 金委員長は晩さん会でのスピーチで2度にわたって「電撃訪問」という言葉を使っていた。自身の電撃的訪問を習主席が多忙の中、快く承諾してくれたと感謝の意を本人の前で述べていたが、韓国に昨日(29日)入った中国の楊潔チ・共産党政治局員(元外相)は当初、25日に韓国を訪問する予定だった。そのことを本人自らが3月中旬に公表していた。結局、金正恩訪中で延期となったが、元外相の楊政治局員ですら直前まで把握できなかったということはまさに急遽決まったからに他ならない。

 金委員長は全人代閉幕(20日)の際に再選された習近平主席に祝電を送ったが、疎遠な中朝関係を反映してか、中身は短く、実にそっけないものであった。詰まるところ、金委員長の訪中はポンペオ、ボルドンの両タカ派の起用に危機感を覚え、急遽セットしたのではないだろうか。

 新体制下における中朝初の首脳会談で中朝関係は改善され、往来や交流は活発になることが予想されるが、以前のような蜜月の関係に回帰するとは考えにくい。その理由の一つは、トップ同士の心のわだかまりが完全には解消されてないことだ。

 ▲慣例のハグの挨拶がなかった

 初対面であろうが、再会であろうが、中朝首脳は挨拶する場合、ハグするのが慣例となっていたが、映像を見る限り、今回は、一度も抱擁することはなかったようだ。

 習主席はベトナムの共産党書記長と会った時をはじめ何度か友好国の指導者らとハグをしており、また金委員長も訪朝したキューバの要人と接見した際にやはりハグをしていた。いくら疎遠な関係にあったとしても、社会主義友好国の指導者らの挨拶はハグが付き物である。まして、晩餐会の宴会場で先代の指導者らの出会うシーンが映像で流れ、金正日総書記と江沢民、胡錦濤の元・前国家主席らが頬を合わせるように抱擁していたわけだからなおさらのことである。

 結局、晩さん会終了後も、翌日の夫人だけを同席させた午餐会の時も、また最後の別れの時にも抱擁することはなかった。金委員長がそのつもりで手を差し出していたようにもみえたが、抱きかかえる側の習主席にその気がなかったことから実現しなかった。

 もう一つは、首脳会談で完全な意見の一致がみられなかったことだ。

 ▲「完全な意見の一致をみた」との報道がなかった

 中朝双方の報道では戦略的意思疎通を強化し、交流と協力を深め、両国の親善・友好関係をさらに発展させることでは意見の一致をみたとされているが、肝心の主要懸案については、北朝鮮の報道によると「朝鮮半島情勢管理問題を含む主要事案については深みのある意見交換を行った。会談は虚心坦懐で、建設的で、真摯な雰囲気の中で行われた」との表現に留めていた。

 父・金正日総書記は亡くなる半年前の2011年5月に訪中し、その際、胡錦濤主席ほか当時副主席だった習近平氏らと首脳会談を行っていたが、北朝鮮のメディアは「共通の関心事である重大な国際及び地域問題について虚心坦懐に意見を交わし、完全な意見の一致をみた」と伝えていた。

 また、その前年(2010年8月)にも金総書記は訪中していたが、やはり「共同の関心事となる重大な国際及び地域問題について深く話し合い、完全な見解の一致を見た」と、北朝鮮のメディアは報じていた。

 朝鮮半島の非核化をめぐる問題、北朝鮮が9月の建国70周年に向けて準備している人工衛星の発射問題、中国が賛成した国連安保理の制裁措置をめぐる問題、駐韓米軍をめぐる問題を含む対米認識などで見解、立場が異なっていたとしても何ら不思議なことではない。

 今回の首脳会談の結果、中朝が朝鮮半島の非核化問題で、あるいはトランプ政権への対応で共同戦線を張ることはなさそうだ。

 中朝関係が完全修復するかどうかは、習主席が9月9日の北朝鮮の建国70周年記念式典に訪朝するかが一つのバロメータとなるだろう。

(参考資料:「金正恩電撃訪中」の狙いー「18年前の金正日訪中」の再現 )   

 

2018年3月27日(火)

「金正恩電撃訪中」の狙いー「18年前の金正日訪中」の再現

昨年訪中した北朝鮮の李スヨン党副委員長(前外相)と握手する習近平主席


 金正恩委員長が中国を電撃訪問したようだ。

 まだ、確認されてないが、訪中が事実ならば、衝撃的だ。金正恩政権が2012年に正式に発足してから初の訪中となるからだ。

 それにしても、来月予定されている南北首脳会談にしろ、韓国を介しての米中首脳会談の打診にせよ、そして今回の電撃訪中もいずれも18年前に父・金正日総書記が取った外交手法である。まさに、歴史は繰り返されたのである。

 今回同様に、金正日総書記の今から18年前の2000年5月29日の電撃訪中にも世界は唖然となった。

 その理由は、金日成主席が死去(1994年7月)してから、また党総書記のポストを喪に伏せていた3年後の97年10月に継承してからの初の外交訪問であったこと、加えて非公式、それも隠密訪問であったことにある。特に、金大中大統領との首脳会談(6月13−15日)を直前に控えていただけに様々な波紋を呼んだ。

 今回、金正恩委員長の滞在期間は不明だが、金正日総書記の時が3日間と短期だった。一応は中国側の招請という形式を取ったものの、実際は北朝鮮側が裏で働きかけて実現したものであった。

 外交慣例からすれば、対外的な元首格である金永南最高人民会議常任委員長が前年(1999年6月)に訪中しているので、本来ならば中国側から李鵬全人代常任委員長か、江沢民国家主席が訪中する番であった。

 しかし、そうした外交上の「相互主義」の慣例を無視し、金正日総書記自身が直接、それも1983年以来実に17年ぶりに北京に赴いたのは、南北首脳会談や秋に予定していた米朝首脳会談を前に中国首脳との間で是非協議しておかなければならない重要な懸案があったからに他ならなかった。そのことは金正日訪中が南北首脳会談合意(4月8日)後に急遽計画されたことからも窺い知れた。今回も同様におそらく北朝鮮側が先に動いたのだろう。

 中国の最高指導者の訪朝は2005年10月の胡錦濤主席が最後で、この13年間、胡主席も、後任の習近平主席も北朝鮮を一度も訪問してない。ましてや2013年3月に就任した習近平主席にいたっては、これまでの中朝外交慣例を無視し、韓国を先に訪問(2014年7月)する有様だった。

(参考資料:中国はなぜ、北朝鮮を説得できないーその5つの理由 )   

 一方、北朝鮮はこの期間、金正日総書記が2010年5月に訪中し、8月もロシア訪問の帰途中国に立ち寄っている。また、死去(2011年12月)する半年前の2011年5月にも訪中していた。

 「相互主義」や「シャトル外交」に則るならば、また、中国が南北とのバランスを取るならば、今度は、習近平主席が訪朝してしかるべきだが、結局は北朝鮮の方から中国詣でする羽目となった。

 金正恩政権は米国が主導する国連安保理制裁決議に習近平政権が同調したことに反発し、「米国への盲従で体質化された安保理事国らがかかしのように(決議賛成)に手を挙げた」(国防委員会声明)と中国を「米国のかかし」と罵り、また「反共和国制裁決議のでっち上げに共謀した国々」(労働新聞)と「米国の共犯」扱いにし、さらには「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」(朝鮮中央通信)と敵意すら露わにしていた。ところが一転、中国詣でをせざるを得なかったのは、父親同様に南北・米朝首脳会談を前に中国の支持を取り付ける必要性が生じたからであろう。とりわけ史上初のトランプ大統領との米朝首脳会談を前に中国を後ろ盾にする必要性があったものとみられる。

 米朝首脳会談を前にトランプ政権が対話派のティラーソン国務長官とマクマスター大統領補佐官を解任し、後任に米朝首脳会談が不発に終わった場合、軍事オプションによる解決を公然と主張する強硬派のポンペオCIA長官と「ネオコン」の代表であるボルドン元国連大使を据えたことに危機感を覚えていることは言うまでもない。

(参考資料:中国が想定していた知られざる「第二次朝鮮戦争シミュレーション」 )   

 もう一つは、食糧支援や経済支援を取り付けることにあるようだ。

 北朝鮮としては食糧、経済事情が苦しいこともあって、南北首脳会談で予想される韓国側の切り札、「経済カード」の効力を弱める策として中国からの経済援助を事前に取り付けておく必要性もあるのだろう。

 中国が求めていた核実験とミサイル発射の凍結に踏み切る一方で、金正恩政権は非核化についても言及した。また、韓国の文在政権との対話にも応じた。習近平政権の要求を、訪朝受け入れの前提条件をクリアしたことで訪中の障害が取り除かれたことになる。

 中国もまた、金正恩政権が核実験とミサイル発射を凍結し、非核化を宣言すれば、伝統的な友好関係の復活を待望しているところであり、また、北朝鮮へのテコ入れは貿易戦争を仕掛けてきたトランプ政権への報復(対抗)措置にもなる。

 今回、中朝双方の思惑が一致した形で金正恩委員長の訪中が実現したものとみられるが、金正日総書記の18年前の訪中では趙明禄人民軍総政治局長と金英春人民軍総参謀長の軍トップ二人と、外交、統一分野の責任者らを同行させていた。

 今回は、随行者が誰なのかも注目される。

  

2018年3月25日(日)

韓国の歴代大統領はなぜ哀れな末路を辿るのか?

ソウル拘置所に護送される李明博元大統領


 李明博元大統領が23日深夜、ついにと言うか、予想とおり逮捕された。

 大統領在任中の収賄額は100億ウォン(10億円)単位、不正資金の造成が300億ウォン(30億円)単位。逮捕は当然だろう。

(参考資料:朴槿恵前大統領の次は?逮捕寸前の李明博元大統領 )   

 前職大統領の逮捕は1995年の全斗煥と盧泰愚、そして昨年の朴槿恵に続き4人目となる。歴代大統領が裁かれるという歴史が途切れることなく、繰り返されるのが韓国である。

 振り返れば、韓国の大統領の末路は、亡命、暗殺、自殺、逮捕・収監、身内のスキャンダルなど決まって不孝に見舞われる。

 建国の父である初代大統領の李承晩は学生革命で倒され、ハワイへの亡命を余儀なくされた。その政治空白のスキを突き、クーデターで政権を奪取した朴正煕大統領も側近中の側近である韓国の情報機関「KCIA」部長によって射殺されるという悲惨な末路を辿った。そして、その娘である韓国史上初の女性大統領となった朴槿恵大統領も国会で弾劾、罷免され、今は収賄容疑などの罪状で懲役30年を求刑され、収監の身である。

(参考資料:朴槿恵前大統領に逮捕状が請求された5つの理由 )   

 朴正煕亡き後、政権の座に着いた全斗煥大統領とその後任の盧泰愚大統領の二人も、反乱(1979年のクーデター)と内乱(1980年の光州事件)、秘密資金の疑いで1995年に逮捕され、1997年にそれぞれ死刑と無期懲役が求刑された。

 全斗煥―盧泰愚と2代続いた軍人政権の後に登場した文民政権の金泳三大統領も次男が逮捕され、次の「民主政権」の金大中大統領も3人の息子が収賄容疑で枕を並べて逮捕されている。

 「非業の死」を遂げた大統領は朴正煕氏だけではない。金大中政権の後、2003年から2008年まで大統領の座にあった盧武鉉氏もまた退任後、収賄容疑で兄が逮捕され、夫人と本人自身にも容疑が掛けられ、最後は崖から身を投げて自ら命を絶っている。これほど光と影のコントラストがくっきりと分かれる権力者ばかりが続く国は他にはないだろう。

 韓国の大統歴史はまさに前任者が後任に裁かれるという歴史でもある。後任者が支持率を上げるために、あるいは自らのクリーンさをアピールするために前任者をダーティなイメージとして血祭りにあげる。換言すれば、前職大統領は後任大統領のスケープゴートになっていると言っても過言ではない。

 問題はこの伝統、慣習を韓国国民が寛容していることだ。その理由は、国民が票を投じて直接、大統領を自ら選ぶという大統領制にある。

 韓国の大統領制は、国を率いる人間を成人した国民が一票を投じて選ぶと言うシンプルなものである。

 韓国の憲法は大統領に国政の最高責任者として絶対的な権限を与えている。大統領は何よりも憲法(第67条)に基づき国民の代表機関としての地位を有する。外国に対しては国家を代表する元首としての地位も有する。また、国軍を統帥する権限も有しているので最高司令官として軍に対して最高指揮・命令者としての役割を担う。さらに国家の財政に関するあらゆる権限も有している。

 韓国の大統領はさらに憲法裁判所長と憲法裁判所裁判官、大法院長、監査院長と監査委員、国務総理と国務委員(閣僚)の任命権を有している。中央選挙管理委員会の構成でも韓国の大統領は委員9人のうち3人を任命できる。

 このように韓国は国のリーダーに権力を与え、国の平和と繁栄のために任期の間、働いてもらう。その一方で、絶対的な権力を与える代わりに、その権力を国民に返した時にはその5年間をきっちり清算しなければならない。

 任期が終わり、大統領府を去った時に権力を振るって私利私欲に走ったならば、そのツケを払わなければならない。自分とその家族、親戚、側近たちがやってきたことまでひっくるめて責任を追及されることになる。その結果が、毎回のように繰り返される大統領とその親族、そして側近らの収賄、不正蓄財、権力乱用といったスキャンダルとして表に出てくる。

 良くも悪くも、このシステムが韓国人のメンタリティーに会っているのかもしれない。



2018年3月13日(火)

李明博元大統領がついに検察に出頭!朴槿恵前大統領同様に逮捕、収監へ!

李明博元大統領(写真:ロイター/アフロ)


 李明博(イ・ミョンバク)元大統領が明日(14日)午前9時30分、被疑者身分で検察に召還され、1年前に朴槿恵前大統領が取り調べを受けたソウル中央地検1001号室で取り調べを受けることになった。

 容疑は国家情報院特殊活動費の流用および民間から不法資金の授受、自動車部品メーカー「ダース」(旧、テブ機工)を通じた秘密資金の造成等などだ。収賄額はおよそ100億ウォン(10億円)、裏資金の造成は300億ウォン(30億円)と推定されている。

 大統領の検察への出頭は1995年の全斗煥と盧泰愚、2007年の盧武鉉、そして昨年の朴槿恵前大統領に続き、5番目となる。

 全斗煥と盧泰愚両大統領は死刑と無期懲役を求刑されたが、その後それぞれ減刑(無期懲役と懲役12年)されている。それでも、全斗煥氏の場合は追徴金が2,259億ウォン(225億円)、盧泰愚氏にも追徴金が2,838億ウォン(約283億円)も課せられた。

 盧泰愚以後も金泳三大統領の場合は次男が逮捕され、後任の金大中大統領もまた3人の息子が逮捕、裁判に掛けられたものの大統領本人らが検察に召還されることはなかった。

 しかし、盧武鉉氏の場合は、兄が逮捕され、妻にも容疑が掛けられ、また本人も賄賂授受の容疑で検察に出頭する羽目なった。前途に悲観したのか、逮捕を恐れたのか定かではないが、取り調べを受けた直後に自殺してしまった。そして、朴槿恵前大統領は賄賂授受、職権乱用など13の容疑で逮捕され、公判で30年の懲役刑と罰金1、185億ウォン(118億円)が求刑され、来月に判決を迎える。

 李明博元大統領に掛けられた主な容疑には「国家情報院特殊活動費授受疑惑」や「ダース関連疑惑」に加えて「仮名不動産取得疑惑」や「ダース地下倉庫の青瓦台文書疑惑」等がある。

 「国家情報院特殊活動費授受疑惑」とは情報機関の国家情報院が大統領秘書官らを通じて判明しただけでも20数億ウォン(2億円)の「裏金」を渡していたとの疑惑である。裏金の一部は李政権に批判的な民間人の査察に使われたり、選挙での不法世論操作に使われたり、金大中・盧武鉉前任大統領らのあら探し(ゴシップ)の費用に使用されたり、さらには夫人のブランド品購入に使われたと囁かれている。

 「ダース関連」では株価を操作し、投資資金を横領したとして逮捕され、服役した在米韓国人の金敬俊氏の投資顧問会社「BBK」(1999年設立)に李明博氏が大統領府を動員して「BBK株価操作事件」に介入した疑惑が中心となる。

 検察は李元大統領の指示で設立されたとされる「ダース」の秘密資金120億ウォン(約12億円)の造成経緯や「ダース」が「BBK」への投資金140億ウォンを金敬俊氏から回収する過程で大統領府が介入したと睨んでいる。さらに「ダース」が投資金回収のため米国で起こした訴訟の代金(370万ドル)をサムソンが収監されていたオーナーの恩赦を見返りに支払ったものとみている。事実ならば、李元大統領に収賄罪が適用されることになる。

 「仮名不動産取得疑惑」とは、李大統領が大統領在任中の2011年5月に退任後の居住のため土地(合計2、605平方メートル)を親族(息子)の名義で購入していたことで、これが不動産実名法に抵触している。

 この土地は李元大統領がソウル市長時代の2006年にこの一帯をグリーンベルトから解除したことで土地の価格が急騰した場所であった。仮に開発の利益があることを見込んだうえで、土地を安く購入したならば、業務上背任にあたる。これだけでも仮に有罪となれば、李親子共に5年以下の懲役、2億ウォン以下の罰金の刑に処せられることになる。

 「ダース地下倉庫の青瓦台文書疑惑」とは「ダース」の地下倉庫に李元大統領が現職時代に大統領府で作成した記録物が不法に搬出されていた疑惑である。これは、明らかに大統領記録管理法に抵触する。

 すでに「李明博の執事」と呼ばれていた最側近の金ベクジュン元大統領府総務企画官や李元大統領の「財団管理人」と称される李ヨンベ「金剛」代表らが逮捕されているほか、息子や次兄さらには娘婿までも検察で事情聴取を受けている。

 検察では「ダース」の実質的オーナーは李元大統領とみており、「BBK」への投資金140億ウォンを「BBK」から回収するため大統領府など政府機関を動員したとしてみて職権乱用罪や脱税罪も適用する構えだ。

 検察は様々な疑惑の中で収賄容疑の解明に全力を挙げているが、仮に1億ウォン(1千万円)でも収賄しているならば、最も重い罪となり、無期または懲役10年の実刑が求刑される。

 被疑者が元大統領だけに検察は慎重を期して、数回事情徴収をしたうえで容疑が固まれば、李元大統領を起訴する方針だが、朴元大統領のように在宅起訴ではなく、身柄を収監し、起訴することも検討している。



2018年3月11日(日)

「祖父、父の悲願」実現のため「金正恩訪米」はあり得る!

専用機の前での金正恩委員長


 トランプ大統領が平壌を訪問した韓国の特使一行から金正恩委員長の「早期に会いたい」との申し出を受託したことで史上初の米朝首脳会談が5月末に行われる見通しとなった。

(参考資料:「犬猿の米朝」を韓国は仲を取り持つことができるか――「水と油」の米朝の主張 )  

 

 会談場所は未定のままだが、米朝首脳会談をアレンジした韓国(板門店か済州島)、米朝双方と国交のある永世中立国のスイスや北朝鮮で米国の利益代表部を担ってきたスウエーデンなどが開催地として有力視されているが、トランプ大統領が訪米を招請すれば、金委員長がワシントンを訪問する可能性も決して低くはない。

 金委員長の決断は共和党候補指名が確実となったトランプ氏が一昨年(2016年)6月15日、アトランタでの選挙集会で金正恩委員長が訪米するならば「会談の用意がある」と発言したことが原点にある。

 トランプ氏は当時、対立候補の民主党のヒラリー・クリントン氏が「独裁者を擁護するのか」と批判したことに対して「金正恩と会うため自らが訪朝することはない」と釘を刺しながらも「話し合うのがなぜだめなのか」と猛烈に反論していた。

 「成功の可能性は極めて少ない」と悲観的だったが、それでも「金正恩氏が米国に来るのならば会う。テーブルに腰掛けてハンバーガーを食べながら、もっといい核交渉を行う」と1カ月前に「金正恩と北朝鮮核問題について対話することに何ら問題はない」と公言したことを撤回しなかった。この時の発言に今も変わりがなければ、米朝史上初の首脳会談は金正恩委員長の訪米が前提条件となる。

 では、トランプ大統領が訪米を招請すれば、金委員長は受諾するだろうか?

 極論を言えば、受託する可能性が高い。最大の理由は米朝首脳会談、平和協定の締結、国交正常化が三代にわたる北朝鮮の大いなる悲願となっているからだ。

 米朝間では過去2回首脳会談の可能性があった。いずれもヒラリー氏の夫、ビル・クリントン大統領の時代で、1度目は金正恩氏の祖父・金日成主席の政権下の1994年。

 当時、金主席の訪米計画は米韓関係者らの橋渡しによるところが大きかった。1994年4月に訪朝したウィリアム・テーラー米戦略問題研究所副所長らに対して金主席自ら訪米の意欲を示し、米CNNが米TVメディアとして初めて金主席との単独インタビューを全米に流したことで話題となった。後に金主席は訪朝した在米韓国人ジャーナリストの文明子氏に「英語の勉強をしているところだ」と述べたことから「金日成訪米」は一層現実味を帯びることとなった。

 金主席が訪米に意欲を示したことで米朝の仲介に動いたのが1992年の大統領選挙で金泳三大統領に敗れ、浪人の身であった後の大統領、金大中氏(当時:アジア太平洋平和財団理事長)であった。

 金大中氏は1994年5月に訪米し、ナショナル・プレス・クラブ(NPC)で講演を行った際、「金日成訪米」について触れ「訪米の招待状を出したらどうか」と提案。これを受ける形でNPCが金主席に講演依頼の招待状を出すに至った。

 金主席は自身の最後の誕生日となった1994年4月15日に行った米CNNとのインタビューで「核兵器の運搬手段もなく、国土も狭く、核兵器を実験することもできない」と核保有を否定し、2か月後の6月15日に一触即発の状況を回避するため訪朝したジミー・カーター米元大統領との会談で原子炉の凍結及び平壌での金泳三大統領との南北首脳会談に同意していた。

 金主席は当時、平壌での初の南北首脳会談を終えた後、2回目を米国で行うことを検討していた。米朝国交樹立のため訪米し、その際に金泳三大統領も訪米するというシナリオだった。しかし、それも、カータ―訪朝から1か月もしない7月8日に心臓麻痺を起こし、急死したことで無となった。これにより、米朝首脳会談も、南北首脳会談もいずれも頓挫してしまった。

 北朝鮮最高指導者の2度目の訪米計画は金正恩氏の父、金正日総書記の政権下で、クリントン大統領の任期最後の年の2000年にあった。

 この年の10月、北朝鮮軍トップの趙明禄朝鮮人民軍総政治局長が訪米(9日)し、次いでオルブライト米国務長官が平壌を訪問(25日)した後、クリントン大統領はミサイル問題の解決と関係改善のため自身の訪朝を計画していた。だが、11月6日に行われた大統領選挙で後継者のゴア副大統領が共和党のブッシュ候補に敗れたことで訪朝は白紙化してしまった。

 クリントン大統領は12月21日の朝、4度目の挑戦で1997年に大統領になっていた金大中氏に電話をかけ「退任前に(米朝関係正常化の)チャンスが欲しいが、北朝鮮訪問はほぼ不可能だ。そのため、来年1月に金正日をワシントンに招待したい」と伝えた。これに対し金大統領は「金正日がワシントンに行って何も得ずに戻るわけにはいかない。事前に成功を保障しておく必要がある」とアドバイスしていた。

 米国務省は同年12月22日、金正日総書記宛てのクリントン大統領の親書を北朝鮮の国連代表部に手渡した。親書は「われわれ二人(クリントン氏と金総書記)が会えば(関係改善)問題の解決が可能になる」として金総書記にワシントン訪問を求めた。

 しかし、ブッシュ次期大統領が大統領選挙期間中から「米朝ジュネーブ核合意」をはじめクリントン政権の対北外交を痛烈に批判していたこともあってレイムダックに陥ったクリントン大統領を相手に首脳会談をしても意味がないと判断した金総書記はクリントン親書を受け取った2日目には「関心がない」と回答。これにより実現に至らなかった。今度はまさに3度目のチャンスということになる。

 金正恩委員長は海外留学経験もあり、初歩的な英語及び仏語は喋れるようだ。父親よりも、開放的で、父親と違い何よりも飛行機嫌いでもない。自ら操縦桿を操るほどである。

 建国70周年(9月9日)を前に祖父も父も成し遂げられなかった歴史的な米朝首脳会談実現のため李雪主夫人を連れてワシントンに乗り込むかもしれない。

(参考資料:北が降参しなければ、軍事攻撃も!米国務長官の「北との対話」発言の真意 )  

  

2018年3月5日(月)

異例中の異例!今年まだ一度もない金正恩委員長の軍関連視察 

軍部隊の演習を視察する金正恩委員長


 文在寅大統領が平壌に派遣した韓国特使一行との会談が注目されている金正恩委員長だが、異例にも今年まだ一度も演習を含めた軍関連の視察を行っていない。

 今年の金委員長の現地指導は1月12日に報道のあった国家科学院の視察を皮切りに平壌製薬工場視察(17日)、無軌道電車工場視察(2月1日)そしてトロリーバスの試運転視察(2月4日)といずれも経済分野だった。軍関連は2月8日に行われた軍事パレードへの出席のみだ。これがどれだけ異例のことかは、過去6年間のケースと比較してみると、一目瞭然だ。

 金正恩政権発足年の2012年から金委員長の軍関連視察をチェックすると;

 2012年

 1月は人民軍第169軍部隊の視察(18日)を皮切りに空軍第354空軍部隊、第3870軍部隊、空軍第378軍部隊、空軍第1017部隊視察の5件。2月は第324大連合部隊指揮部と第842軍部隊視察の2件。

 2013年

 1月はゼロだったが、2月は第323軍部隊視察と第526大連合部隊の攻撃的戦術練習指導、空軍・防空空軍・第630大連合部隊の飛行訓練指導、砲兵火力打撃訓練指導と4回部隊を訪れている。

 2014年

 1月は第534軍部隊と第323軍部隊の2件。2月は射撃館訪問、海・空軍軍人体育競技視察と「人民軍11月2日工場」視察の3件。

 2015年

 1月は砲射撃競技大会の指導、空軍・防空軍指揮部視察、空軍・防空軍師団傘下の爆撃連隊飛行戦闘訓練指導、装甲歩兵部隊の冬季渡河攻撃演習指導、軍各種打撃訓練の計5件。2月は人民武力部機械工具展示会場視察、海軍第597軍部隊、島占領演習指導、新型対艦ロケット試験発射、戦勝記念館内の近衛部隊館視察など5件。

 2016年

 1月は大連合部隊の砲射撃競技視察の1件。2月は大連合部隊の双方実動訓練と対戦誘導武器試験射撃指導の2件。

 2017年

 1月は第233軍部隊直属部隊視察、第1314軍部隊視察、戦車・装甲車の冬季渡河攻撃戦術演習指導の3回。2月は中距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射に立ち会っていた。

 また、今年は2月までミサイルの発射も一度もなかった。過去3年間を検証すると;

 2015年は1月中のミサイル発射はなく、2月になって6日に日本海に面した江原道・元山から新型艦隊艦ミサイルを、27日に同じく日本海に面した咸鏡南道・新浦で潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の水中実験を行っていた。

 2016年は1月6日に核実験、2月7日に黄海に面した平安北道の東倉里から人工衛星と称して事実上の長距離弾道ミサイル(テポドン)を発射していた。

 昨年(2017年)も前述したように2月12日に平安北道・亀城から潜水艦弾道ミサイル(SLBM)を地上型に改良した中距離弾道ミサイル「北極星2型」発射していた。

 北朝鮮は毎年12月から冬季訓練を行っている。昨年も12月から始まったと伝えられているが、それだけに軍部隊の視察に訪れないのは異例と言える。

 燃料や食料などの備蓄不足で思うような演習ができないため軍関連の視察を控えているのか、それとも、金委員長が新年辞で「北と南は情勢を激化させることをこれ以上やるべきではない。軍事緊張を緩和し、平和的環境を作り出すため共同で努力しなければならない」と言った手前自粛しているのか、判断が分かれるところだが、その後の平昌五輪への参加表明、実妹の与正党副部長を派遣しての文大統領の平壌招請、そして、韓国特使一行の受け入れなどの流れをみると、後者の可能性が強いようだ。

 文大統領は金委員長に対して非核化に向けての何らかの意思表示と、その一歩としての核実験とミサイル発射の凍結約束を手土産に特使をワシントンに派遣し、トランプ大統領に北朝鮮との対話のハードルを下げるよう、即ち、北朝鮮の完全で検証可能な、かつ不可逆的な非核化を米朝交渉の入り口ではなく、出口にするよう説得する構えのようだ。

 金委員長は昨年12月24日 労働党第5回細胞委員長大会で「社会主義強国建設のため今後、大胆で度量の大きい(太っ腹の)作戦を果敢に展開していく」と公言したが、どうやら南北の一連の融和ムードは金委員長のシナリオに基づき、それに文大統領が乗った出来レースのような気がしてならない。

(参考資料:「犬猿の米朝」を韓国は仲を取り持つことができるか――「水と油」の米朝の主張 )  



2018年3月2日(金)

北朝鮮とは対話か、軍事攻撃か 平和の祭典の裏で戦争準備をしていたトランプ政権

軍事演習中の戦略爆撃機B-1B、F-35A,F-15戦闘機


 米CNNテレビは昨日(3月1日)、複数の関係筋の話として、北朝鮮が米本土を攻撃可能な核ミサイル(ICBM)の開発に成功した場合は北朝鮮に対する軍事行動の実施を検討していると報じていた。また、その前日(2月28日)、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)電子版は平昌五輪期間中に米国は北朝鮮との戦争に備えた演習を秘密裏にハワイで行っていたと報じていた。

 トランプ大統領は先月23日、北朝鮮への制裁が効かない場合、「第2段階に移行せざるを得ない」ことを明言しているが、ハワイで2月下旬に数日間行われた演習はまさに北朝鮮への軍事攻撃を想定しての図上演習であった。

(参考資料:「北朝鮮を容赦しない」一般教書演説で見せたトランプ大統領の「本気度」 )  

 「卓上の塔」と呼ばれる演習は様々な戦争状況を想定したシナリオを検討する方式で毎年行われているが、今年は朝鮮半島で戦争命令が下された場合、米軍兵力や装備の招集及び対北朝鮮攻撃に焦点を合わせた演習となった。

 NYTによると、今回の図上演習にはマーク・ミリー陸軍参謀総長のほかトニー・トーマス特殊作戦軍司令官も参加したとのことだが、このことは北朝鮮の核心施設の破壊のためには最終的には米地上軍と特殊部隊の投入が不可欠であることを意味している。

 演習では米陸軍最先鋭の第82、第101空輸師団が北朝鮮の地下を破壊するための戦闘を遂行し、また有人・無人の攻撃機を投入して北朝鮮の防空網を無力化する計画も含まれていた。

 米軍は今月から来月にかけて情報収集や偵察任務に使う無人攻撃機グレイイーグル10機を韓国に配備する。時速280kmのグレイイーグルは400kmの作戦区域に対する監視と情報収集が可能で、約8km先に居る人物を超小型の精密誘導爆弾を発射して殺傷できるという最新の無人攻撃機だ。

 今回の演習では北朝鮮が化学兵器を使用した場合に備え、負傷した兵士らを急ぎ護送させる輸送作戦も点検された。さらに、米軍偵察機を中東やアフリカから太平洋に移送する作戦についても協議された模様である。

 今月にはマーティス国防長官が主宰して世界各地に駐屯している戦闘司令官らが参加した会議が行われるが、ここでも対北軍事作戦が集中的に議論されることになっている。

 トランプ大統領は対外的には対話による外交的解決を口にしているが、その一方で来るべき軍事行動に向けての準備を着々と進めているのも否定しがたい事実である。

 米軍は昨年12月には特殊部隊司令部があるノースカロライナ州のフォート・ブラッグでアパッチ戦闘ヘリ48機とチヌークヘリを動員した最大規模の強襲訓練を実施していた。また、その2日後にはネバタ州で82空挺師団所属の兵士119人による落下訓練も実施されていた。

 先月(2月)下旬には駐韓米軍の攻撃ヘリコプターAHアパッチなどを韓国海軍の揚陸艦「独島」に離着艦させる訓練が朝鮮半島の南沖で行われていた。この訓練は朝鮮半島有事の際の韓国海軍艦艇と米陸軍ヘリの連合作戦に備えたもので、昨年5月にも駐韓米軍のヘリが韓国軍の艦艇を離艦し、北朝鮮の重要施設を想定した対象物を攻撃する訓練が実施されていた。

 昨年10月に沖縄に配備されたステルス戦闘機F-35A12機(兵員300人)の飛行時間はすでに1千時間突破している。F-15C戦闘機との合同訓練で一日12回から14回出撃を繰り返している。出撃回数は500回(2月5日付の軍事専門誌ディフェンスニュース)を超えている。一連の訓練はマーティス国防長官の「朝鮮半島内での軍事作戦に備えろ」との指示に基づいていることは言うまでもない。

 米軍による偵察活動も急増している。

 在日米軍基地から発進されるRC-135戦略偵察機、EP-3電子偵察機、E-8ジョイントスターズ地上監視偵察機は頻繁に朝鮮半島に飛来し、北朝鮮地域を監視している。

 さらに米第7艦隊のワスプ級強襲揚陸艦がすでに長崎の佐世保に入港している。この揚陸艦には垂直離着陸が可能な海兵隊の最新ステルス戦闘機F-35Bを搭載できる。岩国基地に配備されているF-35Bを搭載すれば、北朝鮮への予防的先制打撃が可能だ。

 グアムのアンダーソン基地には約2時間で朝鮮半島に飛来できるステルス戦略爆撃機B-2が3機(兵員200名)米本土から前進配備されている。B-2には核爆弾16発と巡行ミサイルが装着されている。

 長距離戦略爆撃機B-52Hも6機(兵員300人)グアムに配備されている。B-52Hは約900kgの在来式爆弾35発と巡航ミサイル12発、空対地核ミサイル、さらには地下施設を破壊可能なバンカーバスター(GBU-57 MOP)など最大で27トンの爆弾投下が可能だ。

 サンディエゴのコロナド海軍基地を1月5日に出発し、グアムに到着していた「動く海軍基地」原子力空母カールビンソンはこれからベトナムの中部ダナンに寄港(3月5−9日)した後、朝鮮半島に向かうことになる。

 仮に北朝鮮が4月に実施される予定の米韓合同軍事演習に反発してミサイル発射や核実験などの挑発を行えば、ミサイル発射台や基地(指揮統制室、貯蔵施設など)、さらには寧辺核施設への予防攻撃(鼻血作戦)が断行されることになるだろう。

(参考資料:「斬首作戦」を警戒か!軍事パレードに登場した3つの「金正恩護衛部隊」 )  



2018年3月1日(木)

朴槿恵前大統領の次は?逮捕寸前の李明博元大統領

検察の捜査対象となった李明博元大統領(写真:ロイター/アフロ)


 大企業から多額の賄賂を受け取った収賄容疑などで逮捕され、裁判に掛けられていた朴槿恵(パク・クネ)前大統領に懲役30年と罰金1、185億ウォン(118億円)が求刑された。

 罰金の額は一足先に懲役20年の判決(求刑25年)を受けた共犯の崔順実(チェ・スンシル)被告のそれとほぼ同額であった。しかし、求刑された懲役期間が5年も長いのは、やはり朴前大統領が「崔順実事件」の主犯とみなされたからであろう。それにしても、罰金1、185億ウォンとは莫大な額である。

 韓国は日本以上に経済犯への罪は重く、厳罰に処される。特別犯罪加重処罰法に基づけば、収賄金額が1億ウォン(約1千万円)を超えた場合、最低でも懲役10年が課せられるからだ(最高で無期懲役刑)。

 朴前大統領の収賄額はサムスン電子絡みだけで430億ウォン(約43億円)に上る。これに免税店事業権の代価としてロッテが朴前大統領と崔順実被告が設立した「Kスポーツ財団」に供与したとされる額を含め、朴前大統領には総額で592億ウォンの賄賂嫌疑が掛けられていた。

 韓国は法律上、収賄罪は受け取った額の2倍から5倍を罰金として付加することになっている。そのため検察は朴前大統領に2倍の1、185億ウォンの罰金を求刑したことになる。検察がこれまでに把握した朴前大統領の財産は60億ウォン(6億円)程度なので判決公判で60億ウォン以上の罰金刑が確定すれば、朴前大統領は強制労役刑に処せられることになる。

 それでも、朴前大統領への求刑は反乱(1979年のクーデター)と内乱(1980年の光州事件)、秘密資金の疑いで1995年に逮捕され、1997年にそれぞれ死刑と無期懲役が求刑された全斗煥、盧泰愚元大統領らに比べればまだ軽いほうである。

 両先輩大統領は判決ではそれぞれ減刑(無期懲役と懲役12年)されたが、全斗煥氏の場合は追徴金が2,259億ウォン(225億円)、盧泰愚氏にも追徴金が2,838億ウォン(約283億円)も課せられていた。

 盧泰愚大統領(1998年2月―1993年2月)以後も歴大統領はいずれも本人もしくは家族や親族、側近らが収賄容疑などで逮捕、裁判に掛けられている。

 金泳三大統領(1993年2月―1998年2月)は次男が逮捕され、金大中大統領(1998年2月―2003年2月)は3人の息子が、そして盧武鉉大統領(2003年2月―2008年2月)もまた、兄が逮捕され、夫人と本人自身にも容疑が掛けられていた。

 朴槿恵大統領の前任者の李明博(リ・ミョンバク)大統領(2008年2月―2013年2月)もまた、実兄が逮捕されているが、李明博氏自身も現在、様々な疑惑で検察の捜査対象に上がり、今まさに逮捕寸前の状態にある。

 李明博元大統領に掛けられている疑惑の一つに国家情報院の裏金疑惑がある。

 情報機関の国家情報院が李明博政権時代に大統領府に「裏金」を渡していたとの疑惑である。裏金の一部は李政権に批判的な民間人の査察に使われたり、選挙での不法世論操作に使われたり、金大中・盧武鉉前任大統領らのゴシップ性の不正を収集するのに使用されたり、さらには夫人のブランド品購入に使われたと囁かれている。

 また、李元大統領には「BBK疑惑」とか「ダース秘密資金疑惑」と称されているスキャンダルもある。

 「BBK」は在米韓国人の金敬俊氏が1999年に韓国で設立した投資顧問会社である。金敬俊氏は株価を操作し、投資資金を横領したとして逮捕され、その後、実刑判決を受け、服役を余儀なくされたが、李明博氏は大統領在任時代に大統領府を動員して「BBK株価操作」関連事件に介入したとの疑いを掛けられている。

 検察は李元大統領の指示で設立されたとされる自動車部品会社「ダース」(旧、テブ機工)の秘密資金120億ウォン(約12億円)の造成経緯や「ダース」が「BBK」への投資金140億ウォン(約14億円)を金敬俊氏から回収する過程で大統領府が介入したと睨んでいる。「ダース」が投資金回収のため米国で起こした訴訟の代金をサムソンが収監されていたオーナの恩赦を見返りに支払ったのが事実ならば、李元大統領に収賄罪が適用される。

 この疑惑との関連ではすでに李明博元大統領の子息や兄、親族、さらには「李大統領の金庫番」と称される側近らが軒並みに検察に召還され、調査を受けている。仮に「ダース」が李元大統領の所有ということが判明すれば、李元大統領は少なくとも大統領選挙候補者財産の虚偽申告で公職選挙法に問われることになる。

 李元大統領への疑惑はこれだけにとどまらない。

 李大統領は大統領在任中の2011年5月に退任後の居住のため土地(合計2、605平方メートル)を購入したが、名義は息子になっていた。李元大統領側は土地代のうち「6億ウォンは夫人名義土地を担保に銀行から借り入れした額で、残り5億2千万ウォンは親戚から借り入れた」と原資について説明したが、息子名義の購入は不動産実名法に違反していた。これだけでも仮に有罪となれば、李大統領親子共に5年以下の懲役、2億ウォン以下の罰金の刑に処せられることになる。

 さらに、この土地は李元大統領がソウル市長時代の2006年にこの一帯をグリーンベルトから解除したことで土地の価格が急騰した場所であった。仮に開発の利益があることを見込んだうえで、土地を安く購入したならば、業務上背任にあたる。

 検察は李明博元大統領の召喚時期を見計らっているが、パラリンピック終了後(3月18日)が有力とみられている。



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