2009年8月24日(月)

金大中元大統領の国葬

 ソウルの国会議事堂前広場で営まれた金大中元大統領の国葬の様子を韓国のMBCテレビが中継した。

  MBCは夜9時から定例ニュースを流しているが、この夜は、国葬一色の特番を組んでいた。李明博大統領をはじめとする各界の要人や市民ら数万人が最後の別れを惜しんでいたが、金大中という政治家を失って、国民は彼の存在の大きさを痛感したようでもある。

 日本や韓国の一部には金大中氏の北朝鮮に対する太陽政策を批判し、金大中氏の業績を過小評価しようとしたり、貶めたりする向きもあるが、南北の分断史上、彼ほど南北の関係改善に寄与した人物は他にいない。

 故人を偲ぶ意味から、彼の太陽政策の成果を幾つか列挙してみよう。

  第一に、南北の緊張が大きく緩和されたことだ。2度の首脳会談。そして14回の閣僚級会談と経済協力推進委員会及び軍事会談が45回。軍事会談の中には国防相会談もある。このような交流の積み重ねがあるからこそ、今回、ソウルでの南北閣僚会談も、李明博大統領と弔問団との会談もその気になれば一瞬にして実現できるわけだ。

 第二に、韓国5千万国民の悲願である、朝鮮戦争で生き別れた南北離散家族の再会が定例化したことだ。すでに16回,計1万8千人の高齢者が北朝鮮の家族と再会できた。ちなみに金大中政権になるまでの過去50年間で再会が叶ったのは200人、1年にたったの4人に過ぎなかった。

 第三に、経済・文化交流が活発になり、日本の富士山にあたる金剛山に180万人の観光客が訪れ、北朝鮮の開城に工業団地が建設され、70以上の企業が入居し、合作事業が始まったことだ。
  経済交流の結果、南北貿易は南北首脳会談(2000年)前年の1億ドルから18倍の18億ドル(2007年)に達した。朝鮮戦争以来、分断されていた南北縦断鉄道(京義線)も開通した。京義線が復活すれば、南北交易規模は大幅に増大する。仮に毎年30%づつ増えたとしても、5年後には約5倍の65億ドルに跳ね上がる。また、シドニー五輪では初の南北同時入場行進が行なわれ、世界から喝采を浴びた。昨年南北関係が冷却しなかったなら、北京五輪の応援のため南北の合同応援団が京義線で北京入りすることになっていた。

  第四に、韓国の人道支援の結果、北朝鮮の人々の韓国をみる目も著しく変わった。「植民地」や「傀儡」「貧困の地」という表現が消え、韓国を実質的に国家として認めざるを得なくなった。韓国の国民的歌手である、チョ・ヨンピルやリ・ミジャ、そして日本でも人気のあるキム・ヨンジャなど数え切れないほどの歌手、芸人が入り、閉鎖されている北朝鮮の国民に韓国の歌を披露できるような関係にもなった。

 一部で言われるように、金大中氏の太陽政策の結果、北朝鮮が核やミサイル実験を行なったことが批判の的となるならば、北朝鮮が核開発に着手した1980年代の全斗煥、盧泰愚の両軍事政権も、また1990年代に核爆弾の原料であるプルトニウムを抽出させてしまった保守の金泳三政権もまた批判されなければならない。

 全斗煥政権の時代で南北特使による相互訪問があったし、南北離散家族が初めて実現したからである。南北首脳会談の下地となった首相会談が初めて実現したのも盧泰愚政権下である。また対北支援も、南北交易は「民族が同盟よりも優る」と言って登場した金泳三政権下でスタートしている。金泳三大統領の任期最後の年にあたる1997年には北朝鮮への支援金は政府と民間合わせて4千百万ドルに達し、貿易規模も3億8百万ドルに達していた。95年の年には2億3千万ドルの食糧支援も行なっていた。

 金大中氏は18日に死去したが、仮に病気が悪化し、13日に病院に担ぎ込まれなかったならば、翌日の14日にソウルで行なわれた駐韓欧州商工会議所主催の会合で記念講演する予定になっていた。手元に、幻となった演説文がある。

 表題には「9.19に戻ろう」と記されてある。「9.19」とは2005年9月19日に6か国が交わした「共同声明」のことである。

 読んでみて、これが、金大中氏の世界に向けての「遺言」であることがわかった。

 「私はこの場で確信をもって言いたい。北朝鮮は完全無欠に核を放棄し、朝鮮半島の非核化を実現させなければならない。米国は北朝鮮と国交正常化をし、北朝鮮を国際社会に編入させ、中国やベトナムのように平和で自由な活動を保障すべきだ。これこそが円満な解決の道である」

 「変化を掲げているオバマ大統領は北朝鮮との長きにわたる敵対関係を終息させる勇気ある決断を下すべきだ。『非核化による漸進的な関係改善』という長い時間を要するアプローチを続けるには状況が変わった。事態は急迫している。米国は『関係正常化による非核化』という根本的で、包括的アプローチに転換すべきときが来た」

 「平和協定、外交関係樹立、経済協力など根本的な問題解決とともに核廃棄を実現させる一括妥結方式で朝鮮半島にも変化の風を起こすべきだ。換言するならば、今日の北朝鮮の核問題解決方案は北朝鮮が核を完全に廃棄し、米国は関係正常化を通じて北朝鮮を国際社会の一員として受け入れる以外に道はない」

 いつの日か、彼の太陽政策の正当性が証明される日が訪れるかもしれない。その時になって世界は改めて「金大中」という政治家の卓越性や先見性を思い知ることになるだろう