2016年2月2日(火)

 北朝鮮は長距離弾道ミサイルを発射するのか、しないのか

(写真:ロイター/アフロ)


北朝鮮が長距離弾道ミサイル(北朝鮮は「衛星」と主張)を発射する兆候が見られるとして、日米韓は警戒態勢を敷いて、北朝鮮の動きを鋭利注視している。

一部には北朝鮮のミサイル発射の動きは、直接交渉に応じないオバマ政権への揺さぶり、牽制の可能性が高いとして「実際にはやらないのでは」との楽観論も流れている。また、発射による経済、外交的デメリットを勘案すれば「発射ボタンを押せないのでは」との見方もあるようだ。確かに強行した場合、常識で判断すれば、北朝鮮にとってのデメリットはあまりにも多すぎる。

第一に 、国連の制裁がさらに強化され、外交的孤立と経済苦境という二重苦がさらに加重されることになる。その結果、金正恩第一書記が力を入れている経済再建、国民生活の向上もおぼつかなくなる。

第二に、 北朝鮮の水爆実験への国連安保理の制裁論議で中国が現在、日米韓が主導する強力な制裁決議案にブレーキを掛けているが、中国の再三にわたる説得を無視して強行すれば、そのブレーキが外れる恐れもある。

第三に、 米本土に到達可能な長距離弾道ミサイルの発射は、米国の態度を一層硬化させ、その結果、米朝交渉は困難となり、悲願の平和協定の締結、国交正常化も遠のくことになりかねない。

第四に、 金正恩政権の外交成果の一つでもある「日朝ストックホルム合意」が台無しとなり、日本の制裁が復活すれば、北朝鮮はもとより、朝鮮総連も打撃を被ることになる。

第五に、 発射を強行すれば、「北の脅威」が叫ばれ、4月13日投票の韓国の総選挙で対北融和派の野党候補には逆風となり、与党候補を利することになりかねない。

しかし、これまでのパターンをみれば、北朝鮮という国はこうした「一般常識」は当てはまらない行動を行ってきた。一例として、失敗した2012年4月13日の発射は、米国から△北朝鮮を敵対視せず、自主権尊重と平等の精神で両国関係を改善する△24万トンの栄養食品を提供し、追加の食糧支援を実現するため努力する△6者会談が始まれば、制裁解除と軽水炉提供を優先的に論議する等の確約を取り付けた2月29日の米朝合意直後に行われたことだ。合意破棄というデメリットを覚悟した上での発射であったことは言うまでもない。

北朝鮮が「衛星発射」を「民族の尊厳と国の自主権に属する問題」(金正恩第一書記)とみなしていることや経済を犠牲にしてまで開発に莫大な費用を投じてきたことを思えば、ミサイル(衛星)の開発、発射を断念することはない。むしろ「損得勘定」からしても発射したほうが北朝鮮にとってははるかにメリットが多いとの打算があっての選択だろう。

仮に人工衛星ならば、

△成功させることでミサイルではなく、人工衛星であることを国際社会に認知させる。

△国威発揚となり、国民の士気を高め、団結を鼓舞することができる。

△金第一書記の最高指導者としての求心力、権威を高めることができる

△国家目標である「強盛国家」の大門を開くことができる。

△韓国よりも宇宙分野で優位に立つことができる。

仮に長距離弾道ミサイルならば

△核ミサイルに繋がり、万能の武器となる。

△米国の軍事攻撃、核先制使用への抑止力となる。

△韓国よりも軍事的に優位に立てる。

△老朽化した通常兵器をカバーし、国防費を大幅に削減できる

△将来米国との交渉の際に譲歩を引き出す強力な外交カードとなりえる。

△完成し、輸出すれば、外貨を獲得できる。

特に金第一書記にとっては国際的な圧力が強ければ強いほど、それを撥ね付け発射することで強い指導者としてのイメージを内外にアピールすることができる。従って、土壇場で腰砕けとなり取り止めることはない。外圧に弱いとなれば、北朝鮮お家芸の「瀬戸際外交」は二度と使えなくなるからだ。また、中止すれば、人工衛星でないことを自ら認めてしまうことになりかねない。むしろ、弓矢のように国際的関心を引き付けるだけ引きつけ、発射することで宣伝効果、インパクトを狙っているようだ。

発射のタイミングとしては、今月ならば金正日総書記の誕生日にあたる16日に照準を合わせるかもしれない。「衛星発射」を国威発揚とみなしているからだ。直近の2012年12月12日の5度目の発射は12月1日に「10−22日の間に発射する」との予告があり、4日にIMO(国際海事機構)に落下予定海域通告があり、そして12日に発射している。父親・金正日総書記の命日(一周忌)の5日前であった。父親の誕生日に合わせているなら、今週週末には予告があるかもしれない。

来月(3月)に持ち越されるとすれば、3月30日に米国で世界の首脳を集めて開催される核安全保障サミットに狙いを定めるかもしれない。ちなみに2012年4月13日の失敗した時の発射の予告は3月23日、折しもソウルで世界53か国の首脳らが集まって「核安全サミット」が開かれる3日前であった。

北朝鮮が開催前に「人工衛星を打ち上げる」と突然発表したことで世界の耳目が李明博大統領(当時)ではなく、三回りも年下の金第一書記に注がれ、欠席者が「影の主役」となり、注目を浴びる結果となった。

興味深いことは、北朝鮮が「核安全サミット」直前に「一言でも批判すれば、敵対行為とみなし、強力な対抗措置を取る」と明言するほど「核安全サミット」での論議や声明を恐れていたはずなのに逆に火に油を注ぐかのようにサミット前に発射を予告してしまっていることだ。思えば、北朝鮮のミサイルや核実験などはこれまでにもG8や米韓あるいは日韓中首脳会談の開催前に発表、実施されるケースが多い。

北朝鮮の発射が、今月か、それとも3月にずれ込むのか、金第一書記の胸三寸にあるようだ。