2017年2月27日(月)

 「金正男暗殺事件」 解明されるか?7つのミステリー

北朝鮮2等書記官を容疑者として発表するマレーシア警察当局(写真:ロイター/アフロ)


「金正男暗殺事件」は状況証拠や傍証などからして北朝鮮犯行の可能性が一段と強まっている。逮捕及び指名手配した容疑者10人のうち8人までが「北朝鮮籍」であることから「真犯人は北朝鮮」とマレーシア警察当局が断定するのは時間の問題となっている。今後は、8人の容疑者が金正男氏の暗殺に具体的にどう関与したのか、特に実行犯の二人の外国人女性との直接的な関りと、殺害に使われた猛毒VXの入手経路に絞られる。

マレーシア警察当局の捜査は事件発生から二週間経った今、事件のキーマンとみられる北朝鮮2等書記官や高麗航空職員ら新たな容疑者らの摘発や死因特定などで進展が見られたが、それでもなおまだ幾つか解明されない謎や疑問がある。

その一、容疑者らはなぜ、盗難車を使わなかったのか?

北朝鮮の8人の容疑者のうち唯一逮捕されたのがマレーシア在住の李ジョンチョル容疑者(46歳)である。

李容疑者は他の容疑者らとは異なり、マレーシア警察当局の取り調べに「空港には行ってない」と言っているようだが、北朝鮮に逃げ込んだ4人の首謀者らが犯行当日に空港に乗り付けた車が李容疑者の所有車(李容疑者が自ら運転していたとの情報もある)であることから「共犯」とされている。

不思議なのは、この種の犯罪には盗難車を利用するものである。あるいは、他人名義でレンタカーを借りる手もある。それなのに李容疑者は事件の首謀者らに交通省に登録している自分の車を使わせている。仮に自らハンドルを握っていたとするならば、不用意どころか、工作員としてはあまりにもお粗末すぎる。

その二、外国人女性実行犯らはなぜ、逃亡しなかったのか?

ベトナム国籍とインドネシア国籍の二人の女性が犯行後逃走する気配が全くなかったことだ。

マレーシア警察当局は、二人は北朝鮮工作員らに騙されたのでも、利用されたのでもなく、最初から北朝鮮工作員と結託し、計画的に殺人目的で犯行に及んだと結論づけている。

事件が発生したのは13日午前9時である。一人目の実行犯のベトナム国籍のフォン容疑者(28歳)が逮捕されたのは15日、二人目のインドネシア国籍のアイシャ容疑者(25歳)は16日に逮捕されている。

彼女らが本当に殺人を請け負ったならば犯行後、逃走する時間は十分にあったはずだ。本当に北朝鮮と共謀していたならば首謀者らと共に犯行直後に出国してもよかったはずだ。北朝鮮もまた、「捨て駒」として実行犯らを置き去りにすれば、逮捕されればいずれ犯行が北朝鮮による差し金であることがばれてしまうことはわかっていたはずだ。どうして、一緒に逃げなかったのか?離婚したアイシャ容疑差には7歳の子供がいる。本当に1万円で殺害を請け負ったとは俄かに信じ難い。

その三、4人の首謀者らはマレーシアのどこに潜伏していたのか?

マレーシア入管記録では、北朝鮮に逃亡した首謀者4人のうち真っ先にマレーシア入りしたのが洪ソンハク容疑者(33歳)で先月31日。一番最後が総責任者とみられる呉ジョンギル容疑者(55歳)で金正男氏が入国(6日)した翌日の2月7日。それぞれ日を置いてバラバラで入国している。出国するまでの間、どこに滞在、潜伏していたのかは不明のままだ。

空港のあちらこちらに防犯カメラが設置されていることから誰が出迎えたのか、チェックすればわかるはずだ。逮捕された李ジョンチョル容疑者なのか、それとも新たに容疑者として指名手配された玄グァンソン2等書記官(44歳)なのか、それとも高麗航空職員の金ウギル容疑者(37歳)なのか、明らかにされてない。

マレーシア警察が把握しながらも発表しない可能性もあるが、4人の容疑者を特定したい以上、発表をあえて遅らせる理由はない。そもそも、彼ら4人はなぜ大韓航空機爆破事件の実行犯のように第三国の偽造パスポートではなく、「北朝鮮パスポート」を持って入国したのだろうか。バレない自信でもあったのだろうか?大胆不敵と言うほかない。

その四、殺人の手段としてなぜ、化学兵器(VX)を使用したのか?

化学兵器の使用は国際法で禁じられている。戦争で使用すれば、「戦争犯罪人」と規定される。現に、化学兵器を使用したことでマレーシアでなく、世界中で北朝鮮への非難が高まっている。VXを使用しなくても、北朝鮮工作員の「七つ道具」である通常の毒針という手もあったはずだ。

即死でなく、心臓麻痺(自然死)を装い殺害するにはVXが効果的と考えたのか、それとも、万が一の場合、検視されてもマレーシアにはVXがないことから死因はわからないと思ったのだろうか?

その五、工作員らはなぜ、証拠隠滅しなかったのか?

マレーシア警察当局は平壌に逃走した4人の容疑者のうち一人が賃貸したクアラルンプールのマンションの一室から化学物質のサンプルや注射器など化学物質製造の痕跡が発見されたと明らかにしたが、なぜ容疑者らは証拠隠滅して逃走しなかったのか?

マレーシア警察当局はこのマンションが容疑者らのアジトとして使われ、ここでVXが製造された疑いを持っているが、マレーシア在住の後方支援役の李ジョンチョル容疑者が金正男氏暗殺直後に慌ただしく出国した4人に替わって「残務整理」ができたはずだ。

李ジョンチョル容疑者が逮捕されたのは17日で、逮捕されるまでの3日間、なぜ、後始末をしなかったのだろうか?そもそも、マンションは平壌に逃走した4人の容疑者の一人が賃貸したとのことだが、マレーシアでは外国人訪問者や観光客が一週間そこそこで簡単にマンションを借りることができるのだろうか?賃貸契約書のようなものでもあるのだろうか?

その六、暗殺がなぜ、白昼堂々と空港内で行われたのか?

北朝鮮は防犯カメラがあちらこちらに設置され、警備員が配備されている空港内で犯行に及んでいるが、2月6日に入国した金正男氏は一週間マレーシアに滞在していたわけだから空港でなくても、居所を突き止め、尾行していたならば、金正男氏を確実に暗殺できる場所、チャンスは他にいくらでもあったはずだ。

仮に空港を暗殺の場所に選んだのが、巷間言われるように国内の不満分子や脱北者らへの見せしめのためならば、何も空港でなくても、他の場所でも犯行現場に北朝鮮産タバコの吸い殻とか紙幣など何か北朝鮮の痕跡を残しておけば目的は達成できたはずだ。

その七、北朝鮮はなぜ、暗殺ターゲットの金正男氏に旅券の更新を許可したのか?

「キム・チョル」こと金正男氏のパスポートは2016年11月9日に更新されている。それも一般旅券でも、公用旅券でもなく、外交官旅券である。

金正男氏は金正恩政権発足(2012年)から一度も帰国していない。従って、パスポートは金正男氏が行き来していた中国、シンガポール、マレーシア、ロシアのどこかの北朝鮮の大使館や領事館で本人自らが足を運び、更新したはずだ。

韓国メディアの一連の報道では北朝鮮は5年前から「金正男暗殺命令」を出していたとされている。また、元工作員出身の脱北者は「2013年夏に中国人ドライバーを買収して交通事故を装って殺害を企てたが、金正男氏が中国を訪れなかったことから未遂に終わった」と証言していた。

早い段階から金正男氏の命を狙っていたなら、更新に来た時点で身柄を拘束して、密かに本国に送還することも、監禁して殺害することも、あるいは尾行して居所を突き止めたうえで殺害することもできたはずだ。それが、暗殺のターゲットにパスポートを、それも外交旅券を発行するとは何とも解せない。

(参考資料:哀れ、金正男! 知られざる「海外逃避行」