2018年7月30日(月)

 注目されるシンガポールでの日朝外相会談

昨年フィリピンで開催されたASEAN地域フォーラムでの河野太郎外相(写真:ロイター/アフロ)


 本日(30日)から史上初の米朝首脳会談が行われたシンガポールで第25回ASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム(ARF)が開かれる。

 日米中ロ及び南北から外相が出席すれば、米中、米露、米朝、中朝、中露、南北、日中、日韓など各国による個別の外相会談が行われることになるだろう。

 北朝鮮による朝鮮戦争戦死者の遺骨返還直後だけに非核化と体制保障をめぐるポンペオ国務長官と李容浩外相との会談が最も注目されるが、北朝鮮が求めている戦争終結宣言にトランプ政権が前向きに対応するならば、韓国の康京和外相を加えた3者会談、あるいは中国の王毅外相を含む4者会談がシンガポールを舞台に行われる可能性もゼロではない。

 日本にとって最も注目すべきは、河野太郎外相と李容浩外相との日朝外相会談の有無である。

 過去を振り返ると、福田政権下2008年に同じくシンガポールで開催されたARFでは高村外相と朴宜春外相が7月23日に接触し、高村外相が「諸懸案を解決し、日朝関係を進めよう」と要請したところ、朴外相は「同意する」と返答。それから約20日後に中国・瀋陽で日朝政府間実務者協議が再開され、北朝鮮は拉致被害者の再調査を行うことに同意していた。

 当時、日本側が人的往来の規制と航空チャーター便の規制解除を実施する用意がある旨表明し、北朝鮮もまた生存者を発見し、帰国させるための拉致被害者に関する全面的な調査を行うことで両国は8月12日に合意を交わしていた。

 この時も2014年5月の「ストックホルム合意」同様に調査対象には日本政府が認定した拉致被害者やその他に提起された行方不明者(特定失踪者)を対象とすること▲調査は権限が与えられた北朝鮮の調査委員会によって迅速に行い、可能な限り秋には終了することを北朝鮮に確約させたが、福田総理が9月1日に辞任したことで頓挫してしまった。

 「ストックホルム合意」1年後の2015年8月6日にマレーシアで行われた岸田外相と李容浩外相との会談は「やっとつかんだ糸口は放してはならない」とする安倍晋三総理の指示の下、北朝鮮側と事前折衝の末、実現したが、大きな進展は見られなかった。

 翌2016年(ラオス)は日本側に最初からその意思がなかったのか、あるいは働きかけたのに、断られたのか、定かではないが、岸田―李会談は不発に終わってしまった。

 昨年(フィリピン)は2年ぶりに接触があり、河野外相が李外相に「日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルを、包括的に解決するというのが日本の立場」ということを伝えたようだが、北朝鮮が直後の9月3日に6回目の核実験を強行したため本格的な日朝交渉再開に繋げることができなかった。

 日朝政府間交渉は行き詰まったままだが、北朝鮮が今年4月に核実験とミサイル発射の中断を宣言し、また史上初の米朝首脳会談が実現し、核・ミサイル問題をめぐる米朝交渉が再開され、南北の2度にわたる首脳会談により南北関係も好転するなど周辺環境が著しく改善されたことで日朝外相会談が実現すれば、拉致問題をめぐる日朝政府間交渉も始動することになるだろう。

 何よりも、安倍首相の要請を受け、文在寅大統領とトランプ大統領が首脳会談の場で金正恩委員長に「核・ ミサイル・拉致問題の全ての諸懸案を包括的に解決し、国交正常化を目指す考えに変わりはない」との日本側のメッセージを金委員長に直接伝え、これに対して金委員長が「なぜ日本は拉致問題を我々に直接言ってこないのか」と、直接要請があれば、日朝交渉に応じる用意があることを表明していることからも期待が持てる。

 米朝首脳会談直後から安倍首相は「拉致問題は最終的には私と金委員長の間、日朝間で解決しなければならない」と述べ、最近では繰り返し「相互不信という殻を破って一歩踏み出し、解決したい。信頼関係を醸成していきたい」と語るなど、これまでと違って積極的な姿勢を示していることから金委員長がこれに応えれば、9月の自民党総裁選前後には日朝交渉が再開され、米朝会談の進展次第では年内の日朝首脳会談もあり得るだろう。

 日朝政府間交渉が再開され、拉致問題解決の糸口を見出すことができるか、シンガポールでの日朝外相会談に注目したい。