2019年7月30日(火)

 「安倍晋三対文在寅」 似て非なる因縁の「対決」

G20サミットでの安倍首相と文大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)


 一昨日の「産経新聞」の記事によると、安倍晋三首相は徴用工訴訟問題などで文在寅大統領が建設的な対応を見せない限り、当面文大統領との日韓首脳会談には応じない方針だ。文政権が日本の期待に応えるまで第三国の場でも会うつもりはないようだ。

 首脳会談をダシに使うのはかつて朴槿恵前大統領が安倍首相に使った手法である。慰安婦問題で安倍政権が善処しないことに怒り心頭した朴前大統領は、安倍首相が「(両国間に)課題があれば、まず会って話をすべき」と再三にわたって首脳会談の必要性を訴えたにもかかわらず「元慰安婦などの問題が解決しない状態では、首脳会談はしない方がましだ。首脳会談をしても得るものがない」と言い続け、2年9か月も安倍総理との首脳会談を拒み続けた。

 簡単な話が、韓国もかつて朴前大統領が「慰安婦問題で進展がない限り首脳会談に無条件で応じるわけにはいかない」と言ったわけだから、今度はそのお返しということになる。攻守所を変えると、今の日本の立場は4〜5年前の韓国の立場の再現でもある。

 それでも、当時は日米韓3国協力体制を強化する上で「日韓関係緊張は負債」(ラッセル米国務次官補=当時)と捉えた米国が仲介し、また日韓が水面下での交渉で慰安婦問題の落しどころを見出したこともあって2015年11月ソウルで日韓首脳会談が実現した。

 しかし、今回はオバマ政権とは異なりトランプ政権は傍観し、安倍首相と文大統領間の意思疎通もゼロである。何よりも、首脳同士のそりが合わない。

 「ちびのロケットマン」に対して「老いぼれ狂人」と罵倒していた不倶戴天の間柄のトランプ大統領と金正恩委員長ですら、初めて会ってみたら「恋に落ちるほど馬が合った」(トランプ大統領)「稀に見るほど馬が合う」(金委員長)と相思相愛の間柄になったのにこの日韓の首脳は地理的に最も近い山口県下関と慶尚南道巨済市で産まれ育ったにも関わらず肌が合わないのである。

 親子ほど歳の離れたトランプ大統領(73歳)と金委員長(35歳)と違い、今年65歳になる安倍総理と66歳の文大統領はたった一つ違いの同世代である。両人とも東大やソウル大など名門校出身ではない。また、共に法学部を卒業するなど相通じるものも少なくはない。

 安倍首相は2005年10月に発足した第3次小泉改造内閣で内閣官房長官として初入閣し、翌2006年9月に総理大臣になっている。安倍首相の恩師が同じ派閥に属していた小泉純一郎元総理であることは誰もが認めるところだ。

 一方の文大統領も、同じ弁護士出身で先輩の盧武鉉大統領の政権下で大統領府(青瓦台)入りし、民情首席秘書官を経て2007年には最側近の大統領秘書室長に起用されている。

 安部首相は健康上の理由で2007年9月に政権の座から降りたものの5年3か月後の2012年12月には再度、総理にカムバックしているが、文大統領も盧武鉉大統領が退任した2008年2月に一旦、元職の弁護士に戻っていたが、4年2か月後の2012年4月には政界に戻り、この年の12月には野党統一候補として大統領選挙に出馬している。惜敗したものの、2017年5月再度大統領選挙に挑戦し、大統領の座を手にしている。

 現在、韓国では安倍政権を「反韓、右翼政権」とみなし、日本では文政権を「反日、左翼政権」とみなしている。相手のリーダーが変わらない限り、日韓関係は良くならないという点においては双方の国民感情は一致しているようだが、相手国からの不評とは真逆に二人の国内における支持率は高い。

 安倍政権の支持率は45%と不支持(33%)を上回っている(7月16日発表のNHK世論調査)。文政権もまた52.1%の支持率に対して不支持率は43.7%と、安倍政権と同様に国民の支持を受けている。(7月29日発表のリアルメーターの世論調査)また、日韓双方とも国民の7割以上が現政権の相手に対する断固たる措置や対応を支持している。

 国民が支持している以上、安倍総理も文大統領も相手が譲歩しない限り、白旗を上げない限り、そう簡単に折れるわけにはいかないようだ。この機会に「次の世代が未来永劫韓国に謝らないで済むような日韓関係にする」ため慰安婦問題や徴用工問題では絶対に引かない決意の安倍総理と、「過去の誤った日韓協定や日韓合意を正す」ことが未来志向の日韓関係に繋がるとの信念を持つ文大統領との間に接点は見出せそうにない。

 何よりも、二人とも側近として仕えた小泉政権と盧武鉉政権当時の2006年に「竹島」(独島=韓国名)海域をめぐって一触即発の状況を経験していることだ。特に文大統領にとってはそれが苦い経験となっているのかもしれない。

 この年の4月、韓国の海洋研究院所属の海洋調査船が日本の抗議を押し切って竹島周辺海域を含む日本海の海底地形の韓国名を新たに登録しようと海洋調査を実施したことに日本が反発し、調査中止を要求。韓国が中止しないため日本政府も対抗上、隠岐から海上保安庁の巡視船を2隻繰り出し「6月30日まで竹島周辺海域で調査を実施する」と発表。

 この日本の動きに対して今度は韓国海洋警察庁が周辺海域に非常警戒令を発令し、警備艇約20隻を集中配備し、「日本の調査船が韓国の主張するEEZに進入すれば、拿捕など実力行使も辞さない」との強硬姿勢に出た。

 当時官房長官だった安部首相は後に当時の状況について「銃撃戦が起きる寸前だった」と語っていた。それもそのはずで、盧大統領は「日本の探査船が入ってきたら蹴散らせてしまえ」と命じていたからだ。

 この対立は外務次官による協議で▲日本政府は海洋調査を中止する▲韓国政府は6月の国際会議で海底地形の韓国名表記を提案しないことで合意文が交わされ、海上での衝突という最悪の事態は避けられた。

 双方が引いた結果、事なきを得たが「拿捕など実力行使も辞さない」と強気一辺倒だった盧武鉉政権が「6月の国際会議に韓国が海底地形の韓国名称申請を断念しなければ我々としても海洋調査を実施せざるを得ない」との日本の「毅然たる外交」の前にあっさりと「降伏」(ノ・フェチャン韓国民主労働党議員)してしまったことから野党はこぞって「韓国の完敗」と非難し、合意文についても「韓国の実質的降伏宣言に等しい」と盧武鉉政権の対応を激しく責め立てた。日本の海洋調査を中止させたことで「韓国が勝利した」と伝える韓国外交通商部のホームページには国民から非難のメールが殺到し、盧武鉉政権の対日姿勢一様に「屈辱外交」「弱腰外交」「売国外国」と罵倒された。

 これがトラウマとなっていれば、日本の輸出規制により経済苦境を強いられたとしても文大統領が慰安婦や元徴用工問題など日韓の懸案で白旗を上げる可能性は低いと言わざるを得ない。来年4月に総選挙を控えてればなおさらのことである。