2019年3月30日(土)

 トランプ大統領の一言に迷う金正恩委員長

ベトナムでの米朝首脳会談後の金正恩委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)


 トランプ大統領は昨日(29日)、フロリダの別荘での記者会見で「北朝鮮は非常に苦痛を受けている。彼らは苦しい時間を過ごしている。今の時点では制裁の追加が必要だとは思ってない」と述べ、財務省の北朝鮮追加制裁を撤回させた理由の一つについて語っていた。

 ポンペオ国務長官やボルドン大統領ら側近らがいずれも「北朝鮮を非核化させるには圧力と制裁強化が必要」と主張していることと矛盾する発言となっているが、トランプ大統領は「金正恩とは非常に良い関係にある。我々はお互いを理解している。少なくともこうした関係を維持することは非常に重要だ」と付け加え、金委員長との個人的な信頼関係も新たに制裁を科さない理由として付け加えていた。

 ベトナム首脳会談以後、沈黙を破っていたトランプ大統領がこじれた非核化問題を金委員長との信頼関係に基づいて解決する意思を間接的に表明したことと同時に北朝鮮が信頼を裏切れば、制裁を強化すると牽制したことで近く自らの決心を明らかにするものとみられていた金委員長は大いに悩むことになりそうだ。

 ベトナム首脳会談に随行した崔善姫外務次官によると、成果なく手ぶらで帰国したことで金委員長は「一体何のためにこんな汽車旅行をしなければならないのか」と落胆していたとのことだ。それもそのはずで、寧辺核施設の廃棄など北朝鮮にとっては「現段階では最善の解決策を提示した」(李容浩外相)のに合意(制裁緩和の見返り)を得られなかったからだ。

 首脳会談後の記者会見で李容浩外相は「米国は千載一遇の機会を逃した」とまで言い切り、金委員長のスポークスマン格の崔外務次官までも「二度と同じような機会は訪れないだろう」と述べ、そして3月15日に平壌で開いた記者会見では「米国の要求に譲歩し、交渉を続ける意思はない。我々の最高指導部(金委員長)が核実験とミサイル発射猶予を続けるかどうか、近く自らの決心を明らかにするだろう」と予告したことから少なくとも交渉中断は避けられないとみられていた。

 まして、ベトナム会談以後もビーガン北朝鮮担当特別代表が国連安全保障理事会で制裁の維持を強調するなど「先非核化、後制裁緩和」の米国の姿勢に変更がみられないことから「米国が依然として制裁と圧迫を続けるならば、我々としても止むを得ず国の自主権と国家の最高利益を守り、朝鮮半島の平和と安定を実現するための新しい道を模索せざるを得なくなるかも知れない」との新年辞での金委員長の予告が現実化する恐れさえ出ていた。

 しかし、ベトナムでの会談が決裂しても「トランプ大統領との個人的な関係は相変わらず良好で、相性は神秘的といえるほど素晴らしい」と信頼を寄せているトランプ大統領が北朝鮮の状況に同情し、金委員長にラブコールを送った以上、そう簡単に過去に回帰する決断はできそうにもない。過去への回帰(ミサイル発射など)は「トランプ大統領を失望させる」(ポンペオ国務長官)し、「米朝関係に悪影響を与える」(ボルドン大統領補佐官)からだ。

 まして、米朝仲裁役の文在寅大統領が来月11日にワシントンを訪問し、トランプ大統領と北朝鮮問題で会談することが決まり、また、最高人民会議(4月11日)後に初のロシア訪問、プーチン大統領との首脳会談が予定されているならば、東倉里ミサイル発射場(西海衛星発射場)の復旧が完了したからといってミサイルであれ、衛星であれ、その前に発射することは有り得ない。孤立無援の状態にあって仲裁者あるいは支援者の顔を潰すような愚は犯せないだろう。

 トランプ大統領との個人的な信頼関係に未練をもって状況が良くなるのをひたすら待ち続けるのか、それとも、新たな道に進むのか、北朝鮮はまさに岐路に立たされている。