2019年5月2日(木)

 「ゴールドよりもコメが貴重」の北朝鮮に日本は「食糧カード」を切るか!?

日朝首脳会談に向け訪朝した小泉総理(当時)に官房副長官として同行した安倍総理(写真:ロイター/アフロ)


 「コメは社会主義」がこれまで北朝鮮のモットーだった。それが、今「コメで党を支えよう」に取って代わった。

 朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は4月29日付の2面に「コメで党を支えよう」との見出しの長文の記事(正論)を掲載して、農業勤労者らにコメの増産、多収穫を促していた。

 北朝鮮は金の産出国として知られているが、労働新聞は「金はなくても暮らせるがコメがなければ1日も生きられない」との故金日成主席の発言を紹介し、「金よりもコメの方が貴重だ」と強調していた。北朝鮮の厳しい食糧事情が窺い知れる。

●1、100万人が栄養不良

 国連の2019年版報告書によると、北朝鮮の人口の約44%に相当する1、100万人が栄養不良に陥っている。

 北朝鮮は今、「春窮期」を迎えている。春窮期とは昨秋に収穫した米が底をつき、新ジャガイモが収穫される6月末までの食糧不足現象が最も深刻な時期にあたる。

 北朝鮮の昨年の穀物生産量は455万トン。前年(471万トン)よりも3.4%(16万トン)少なく、2年連続の減産だった。そのうちコメは220万トン。増産を呼び掛けたものの前年比0.5%(1万トン)の微増に留まった。

 国連安保理の制裁で農業機械や肥料が入手できず、加えて洪水や飢饉など自然災害が相次いだことが原因とみられるが、昨年の生産量は驚いたことに祖父・金日成時代の30年前とほぼ同じだった。

 北朝鮮は1987年から93年にかけて第3次7ヵ年経済計画を遂行した。金主席は「計画の最終目標は全ての人民が白米に肉のスープを食べ、絹の服を着て、瓦葺の家で暮らすようにすることにある」と強調し、食糧問題解決のため穀物350万トンを約4倍の1、500万トンまで増産するよう呼び掛けた。しかし、結果は100万トンしか伸びず、450万トンの水準に留まった。

●今年も140万トン不足

 労働新聞は「農業前線は我々の社会主義を孤立圧殺しようとする敵の非道の策動から祖国と人民を守って行く社会主義守護戦の前哨線」として全国民に「自立、自力での解決」を呼び掛けているが、過去を振り返るまでもなく、国際社会に支援を仰がなければならないのが実情だ。実際に国連の報道官は今年2月、北朝鮮がすでに国連に対して「今年はコメ、小麦、ジャガイモ、大豆などの食糧の生産量が140万トン不足する見通し」と説明し、緊急支援を要請していた事実を公表していた。

 国連の人道機関を中心に国際社会は北朝鮮が未曾有の食糧危機に瀕した1995年から毎年、北朝鮮に対して食糧や医療など人道支援行ってきた。昨年も国連世界食糧計画(WFP)が世界各国に1億1000万ドルの支援を呼び掛けていた。

 スイスが幼児の粉ミルクに500万ドル、ノルウェーが子供らへのパン供給のため160万ドルを拠出したが、目標額にはるかに及ばなかった。今年もロシアが北朝鮮に小麦(5万トン)を支援したが、砂漠の一滴しかならない。

 物別れに終わったベトナムでの米朝日朝首脳会談首脳会談後、米朝も、南北関係も凍結してしまった。米国が制裁解除に応じないことに憤慨した北朝鮮が殻に閉じこもってしまったためだ。そのためトランプ政権は制裁を解除せずに北朝鮮を軟化させる手段として人道支援を検討しているようだ。

 米国務省はすでに人道・救護団体関係者らの訪朝禁止を解除し、北朝鮮に向かう人道物資の「封鎖」も緩和する措置を講じているが、米朝交渉の実務責任者であるビーガン国務省北朝鮮特別代表が今月8日から訪韓し、韓国が2年前に拠出を決めた800万ドル相当の対北人道支援について協議する。

 トランプ大統領は先月(4月)11日、文在寅大統領とのワシントンでの首脳会談を前に「我々は一定の人道支援について協議している。正直言って、このことについては問題ない」と、棚上げ状態となっている韓国の人道支援を容認する考えを示していた。

 韓国だけでなく、日本もまた、拉致問題の解決に繋がる日朝首脳会談に向けて食糧支援をカードに使うのではないかとの見方も取っている人物がいる。韓国に3年前に亡命した太永浩前駐英公使である。

●米国も人道支援を了承

 太永浩氏は4月29日、民間団体が主催したセミナーに出席し「安倍総理が首脳会談のためのプレゼントとして人道主義的食糧支援をやれば、金正恩委員長は必ず会談の場に出て来る」と断じ、「(日米首脳会談で)トランプ大統領が日朝首脳会談への協力を約束したところをみると、米国は日本の対北食糧支援を承認したのではないか」と推測していた。

 思えば、1995年の北朝鮮の大水害の際のコメ50万トン(無償15万、有償35万トン)と医療品50万ドルの緊急支援は渡辺美智雄副総理を団長とする連立与党の訪朝に、また2000年10月の50万トンの食糧支援もその後の小泉純一郎総理の訪朝(2002年9月)に繋がった。

 現在、日本には2004年に列車爆破事故が起き、深刻な人的・経済的被害を被った際に供与を約束したコメ(25万トン=70億円相当)と医療品(600万ドル)のうち半分(コメ12万5千トンと医療品300万ドル分)が倉庫に眠ったままだ。拉致問題が進展しなかったことで棚上げされたままとなっている。

 「歴史は繰り返される」の格言があるが、「次は私の番だ」と日朝首脳会談に意欲を燃やす安倍総理は「好機到来」とみて、「コメ・カード」を切るだろうか?