2019年9月30日(月)

 矛盾する北朝鮮の「SLBM発射実験」と「米朝実務交渉再開」の動き

北朝鮮のSLBM「北極星1号」(労働新聞から)


 ここ1か月、日本のメディアは韓国の国内情勢に気を取られ、北朝鮮にほとんど目を向けることはなかった。7月、8月、9月はミサイルが発射された時だけ一時的に取り上げられたが、その他は関心外であった。ミサイルも単距離であったことから一過性で終わった。

 しかし、ここに来て、北朝鮮を巡っては気になる動きがある。一つは、米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」が伝えている北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射準備状況である。同サイトが9月23日の衛星写真を分析した結果、日本海に面した咸鏡北道・新浦の造船所でSLBM発射実験の準備が進められているとのことである。

 北朝鮮によるSLBM発射の動きはすでに8月から伝えられていた。米戦略国際問題研究所(CSIS)は8月29日に衛星画像から「北朝鮮がSLBMの発射準備を進めている」と、報告していた。

 そもそも、北朝鮮による新型潜水艦を建造は秘密でもなんでもない。北朝鮮自身も公にしていることだ。朝鮮中央通信は7月23日、金正恩委員長が新型潜水艦を視察したと報道し、同潜水艦が「東海(日本海)作戦水域で任務を遂行することになる」として、配備目前であることを伝えていた。

 潜水艦の規模など詳細については明らかにしてなかったが、金委員長が視察した際に公開された写真を見る限り、3千トン級以上の潜水艦であることがわかる。発射管も3個みえた。完成したならば、進水させ、ミサイル発射テストをやる必要がある。問題は、それが近々あるかどうかだ。当面は、10月10日の労働党創建日に向けてやるかどうかにある。

 もう一つ気になる動きは米朝実務交渉に向けての動きである。SLBM発射の動きとは矛盾した動きである。

 トランプ大統領、ポンペオ国務長官も北朝鮮との実務交渉には前向きである。北朝鮮もまた、崔善姫外務第一次官、金明吉・非核化実務交渉代表、金桂寛外務省顧問(前第一次官)らが相次いで発言し、北朝鮮も準備ができていることを明かしていた。

 久しぶりに登場した金桂寛顧問に至っては「トランプ大統領の対朝鮮アプローチ方式をみていると、過去の前任者とは異なった政治感覚と決断力を持っていることがわかっただけにトランプ大統領の賢明な選択と勇断に期待したい」と、ラブコールを送っていた。こうしたことから早ければ9月中にも米朝実務交渉が開かれるのではとの見方も出ていたが、どういう訳か、10月に持ち越しとなった。

 米朝協議が遅れている理由については先週、平壌で行われたとされる予備交渉で議題が詰められなかったとの見方もあれば、北朝鮮が望んでいる「新たな計算法(現実的な提案)」を米国が提示しなかったことに北朝鮮が不満を表明したとの見方もあるが、北朝鮮の金星国連大使が一昨日(28日)、実務交渉に楽観的な見通しを語っていることや韓国の康京和外相も「数週間内に開かれる」と予想していることから10月中には開かれるのだろう。

 問題はSLBMの動きだ。北朝鮮がSLBMを発射したら果たして米朝交渉は開けるのだろうか?米朝実務交渉の後に発射したとしても同じことで3度目の首脳会談が開けるのだろうか?

 北朝鮮が保有している「北極星1号」の射程距離は2千kmである。太平洋に出航すれば、ハワイやグアムなど米国の戦略要衝地のみならず、米本土にとって大きな脅威である。仮に新型潜水艦の建造と合わせて開発中にある「北極星3号」のテストならば脅威はさらに増すだろう。トランプ大統領が「自衛権の範疇」として容認していた単距離ミサイルの発射とは訳が違う、中長距離弾道ミサイルの発射である。近海でのロフテッド方式による発射であっても、米朝交渉は吹っ飛んでしまうだろう。

 肝心の金正恩委員長は今月11日に超大型放射砲試験発射に立ち会ってから公開の場に姿を現してない。来月6日の中朝国交樹立70周年に合わせての訪中準備に追われているのか、それとも米朝3度目の首脳会談に備えているのか定かではないが、非核化交渉への本気度は、新型潜水艦を進水させて実際にSLBMの発射実験をやるかどうかで試されるだろう。