2009年8月26日(水)

李明博大統領は保守強硬派か?

 あれだけ大喧嘩していたのにあっという間に李明博大統領と北朝鮮の金基南書記との会談が開かれ、今日はおよそ1年8ヶ月年ぶりに南北赤十字会談が開催される。日本人にはとても理解できない南北の特殊性だ。

 日本のメディアは李明博政権を「保守政権」と呼称している。しかし、これは誤認である。李明博政権は正確に言えば、右でも、左でもない、中道保守政権である。李明博大統領自身も昨年5月に「私は右ではなく、中道保守だ。北朝鮮が良くなるのを願っている」と述べていた。中道ということは、右でも、左でもなく、真ん中を通るという意味だ。極端な言い方をすれば、「正道路線」歩んでいるのかもしれない。

 日本のマスコミが捉えている韓国の保革基準は、北朝鮮政策が物差しになっているようだ。この基準でいくと、北朝鮮に融和政策(太陽政策)を取った前政権は革新、その政権を倒して誕生した現政権はその逆の保守という認識のようだ。

 この物差しに基づき、日本のメディアはしばしば李政権が北朝鮮に強硬な政策を取っていると書いているが、昨年2月の李政権発足以来の南北関係をみると、強硬なのは、むしろ金正日政権の方で、李明博政権ではない。北朝鮮が金剛山・開城観光など南北の往来、通信、鉄道、航路など南北交流を一方的に絶ち、「李政権を相手にしない」と南北関係を遮断するなど強攻策を取ってきたのは周知の事実だ。

 李大統領の対北政策は大枠、大筋で前政権のそれと大差はない。故金大中大統領をして「私の太陽政策と変わりがない」と言わしめたほど、前進的である。李政権のマニュアルも、李大統領の発言からもそのことは明瞭である。

 李政権のマニュアルには「対北政策の原則」についてこう書かれてある。

 ・南北関係発展及び平和増進に向けて一貫性をもって努力する。

 ・国民の合意をベースに国際協力と調和し「相生・共栄の南北関係」の発展を追求する。

 ・北朝鮮核放棄の原則は徹底的に堅持する。

 ・原則的で成果のある対話を推進する。

 ・アプローチ方式は柔軟に対処する。

 ・対北政策と対外政策を調和的に推進する。

 ・普遍的な価値に立脚化した南北関係の発展を指向する。

 どれもこれも至極当然のことで、決して強硬でもなんでもない。さらに、李大統領の発言をチェックすると、北朝鮮に対して本質的に融和的な考えを持っていることがわかる。

 核問題では「北朝鮮が核を放棄すれば北朝鮮が脅かされるのではなく、より安全になる。韓国が主導して北朝鮮が経済的に自立できるよう助けるという積極的な考えを持っている」と発言し、南北対話や南北合意事項についても「北との対話及び交流にも最善を尽くす。南北関係は政権が変わっても南北間の和解と平和を維持するための努力を一層やるつもりだ」「南北基本合意書にしても『6.15』『10.4』首脳宣言にせよ、南北が直接会って話し合うべきだ。対話をすれば、我々の真の心がわかるだろう。南政府は南北の真の和解と関係発展の礎を築くことに最善の努を尽くす」と一貫して対話の必要性を強調していた。日本の総理と違い、一度たりとも「圧力」とか「制裁」を口にしたためしがない。

 また、過去の政権と異なり北の人権問題について触れているものの「(相互主義について)北朝鮮も相応の条件ではないが、人道的な次元から協力しなければならない。南北間の協力についてはギブアンドテイクの関係にあることを北朝鮮も認めるべきだ」と当然のことを口にしたまでだ。

 そのうえで人道支援について「南北関係は特殊な関係だ。他の国と北朝鮮との関係とは異なる。我々は同胞であるという点を認めざるを得ない。北朝鮮の人が苦しくて脱北するのをみると、世界の人々が心を痛めるよりももっと韓国人の方が、胸が痛いし、愛情を持っていると思う。北朝鮮に対して人道的援助をすることに異論はない」と、前任の大統領と全く同様のスタンスだった。

 日本や韓国の一部で打倒対象となっている金正日総書記に対しても「金正日委員長に朝鮮半島の真の平和と繁栄のため共に力を合わせようと言いたい。金委員長はこうした発展的関係を形成するうえで重大な決定を下すことができると信じている。私が就任した以後南北関係が悪化したとは思っていない。むしろ南北関係が新たな局面に入ったとみている」と、積極的に対話を呼びかけていた。

 どう考えても、強硬とは言いがたい。