2009年11月12日(木)

謎だらけの第3次黄海交戦

 黄海上での南北銃撃戦から1日経った昨日は、幸い異常はみられなかった。「黄海戦線異状なし」で韓国側も安堵している。北朝鮮が即刻報復に出るのではと警戒していたからだ。

 韓国側の発表では、北朝鮮側に死傷者が出たようだ。警備艇も破損したようだ。これに対して韓国の高速艇は無傷だったようだ。事実ならば、第三次交戦は韓国側の圧勝に終わったことになる。

 第一次交戦(1999年)が14分、第二次交戦(2002年)が20分も続いたのに対して今回はたったの5分で終了している。韓国海軍は艦艇のシステム、装備の差が歴然としたと、軍事的に評価している。その気になれば、撃沈も可能だったが、事態を悪化させないためあえて自制した余裕さえ見せている。

 今回衝突した北朝鮮の警備艇が150トン級なのに対して、韓国の高速艇は130トン級と規模は小さい。しかし、発射装置が手動式の北朝鮮の警備艇と異なり、韓国側の火力は自動照準装置が備え付けられており装備は近代化されている。

 仮に、今後大規模の衝突に発展したとしても、北朝鮮の警備艇、誘導弾高速艇、魚雷艇、火力支援艇はいずれも200〜400トン級で、500トン級以上はたった2隻しかない。一方、韓国側は誘導弾高速艇の440トンクラスに加え、第二艦隊司令部には3,500トン級の駆逐艦と1、000トン級護衛艦などがある。戦力的に勝っているので、韓国側は強気だ。今回も、北側から1隻が南下した時、韓国は高速艇4艇で対応起動した。高速艇の後方には1、200トン級の哨戒艇と1、800トン級の護衛艦が待機していたそうだ。

 それにしても謎が多すぎる事件だ。

 第一に、ボズワース特別代表の訪朝による米朝対話が決まったこの時期に衝突が起きたことだ。仮に米国が反発すれば、米朝対話をキャンセルあるいは遅らせることも想定された。リスクがあまりにも多すぎて、動機が定かではない。

 第二に、過去二回は渡り蟹シーズンの6月に発生しているのに、今回は、11月に衝突が起きていることだ。

 第三に、過去二回と違い、北朝鮮側はなぜ、一隻だけで南下し、侵犯したのかという謎だ。ちなみに第一次交戦、第二次交戦のときは4〜5隻で南下していた。

 第四に、周辺には他に2隻の警備艇がいたにもかかわらず、銃撃戦が発生しても応援に駆けつけなかったことだ。常識に考えても、1対3、あるいは1対4では勝てるはずはなく、威嚇射撃に応戦するのは無謀というもの。

 第五に、北朝鮮の警備艇が発射した50発はいずれも14.5mmの小口径。これに対して韓国側は40mm砲と20mmの機関砲で応戦し、1千発以上発射したといわれている。北朝鮮の警備艇には85mmの艦砲が備え付けられていたのになぜこれを使わなかったのというのも謎だ。

 北朝鮮の行動が偶発的なものか、意図的なものか、韓国政府は現在分析中だが、韓国情報当局は「5度の警告に関する通信を正常に受信しながら無視し、南下した」ことを理由に故意による侵犯とみなしている。NLL(北方限界線)を侵犯した場合、韓国軍がどう対応するのかをシミュレーションするのが狙いで、1隻で侵犯したことから「大掛かりな挑発を意図していた」とはみなしていない。

 一方、北朝鮮側の反応だが、「韓国軍当局は今回の武装挑発事件について我々に謝罪し、二度とこのような挑発行為を起こさないよう責任ある措置を取るべきだ」と即時に対応した。敗戦した第一次のときは「韓国は我が領海で人民軍艦艇を撃沈させるなど武装地挑発を強行した。軍事挑発を継続すれば、報復する」との声明を出し、勝利を収めた第二次のときは「韓国の先制攻撃に伴う自衛的措置である」と反応したが、いずれも放送を通じての批判。数日後に正式な見解を発表したが、いずれも海軍のスポークスマンによるものだった。

 今回は事件発生から4時間後の3時22分には朝鮮人民軍の名前で声明を発表していた。それも「最高司令部」の名による声明である。

 仮に敗戦ならば、軍の士気に関わる。北朝鮮が報復に出るのか、目が離せない。