2010年5月22日(土)

南北の「茶番劇」

 韓国哨戒艦沈没事件に関する韓国政府の発表は案の定、「北朝鮮の犯行」だった。これに対する北朝鮮の反論もまた案の定、「韓国の捏造」だった。

 北朝鮮の反論は国防委員会から出されていた。国防委員会は最高権力機関で、言わば、米国のホワイトハウスや韓国の青瓦台と同じで、絶対的なものだ。ここで声明が出されたということは、最高責任者である国防委員長の金正日総書記のこの事件に対する回答ということだ。

 方や、韓国も李明博大統領が北朝鮮の犯行は「軍事的挑発行為であり、国連憲章と(朝鮮戦争の)休戦協定、南北基本合意書にも違反する」と、北朝鮮を激しく批判した。

 事のつまり、まつり(戦)ごとに例えるならば、大将同士がぶつかったわけだから、これで両国ともこの問題では引くに引けなくなった。

 北朝鮮は潔白を装うかのようにこの種の事件ではめずらしく、韓国に「調査団(検閲団)を派遣する」と表明していたが、韓国側が提示した物証について「どこで拾ってきたものか分からない破片とアルミニウムのかけらを証拠物として提示した。特大型の謀略劇だ」と決め付けている以上、韓国が仮に調査団の派遣を受け入れたとしても、「なるほど」と犯行を認めるわけがない。明らかに韓国が拒否することを前提とした提案で、まるで子供だましだ。

 これまた予想通り、韓国国防省も北朝鮮の「検閲団」受け入れを拒否した。

 最初から、否定しに来る相手に「いらっしゃい」というわけにはいかないとのことだ。但し、北朝鮮が単独でなく、中国やロシアを加えた合同調査団や南北合同調査団ならば受け入れても良いとの考えだが、これはこれで、北朝鮮が受け入れるはずはない。

 韓国国防省は昨日、在韓国連軍司令部の軍事休戦委員会に対し、今回の沈没事件が休戦協定に違反するかどうかの特別調査を依頼し、国連軍司令部は特別調査チームを編成し、今週末から調査を始めるとのことだ。これも変な話だ。

 韓国の最高責任者の李大統領がすでに「休戦協定の違反である」と言っているし、米政府も支持を表明しているわけだから、わざわざ在韓国連軍司令部にお伺い立てる必要はない。と言うのも、在韓国連軍はイコール米軍であるからだ。

 周知のように在韓国連軍司令官は在韓米軍司令官が兼ねている。その米国はすでに韓国の結論を支持している。それにもかかわらず、「休戦協定に違反したかどうか調べてくれ」と要請したのは、国連というお墨付きが必要だからだろう。

 この問題を国連に提訴し、北朝鮮への非難あるいは制裁決議を引き出すには、「国連」の認定が必要という考えのようだ。在韓米軍司令官が国連軍司令官に成り代わって、判定を下すわけだから、結果はわかりきっていること。あえて、特別捜査チームを編成し、調べるまでもない。

 そもそも「休戦協定違反」を云々するならば、米国との合同軍事演習も北朝鮮の東西海域でのミサイル発射も、また、休戦後の南北双方の軍事増強もすべて休戦協定違反である。今更、「休戦協定違反」どうのこうのは白々しい。

 南北がやっていることは、いずれも茶番劇のようで、空々しい。