2012年1月24日(月)

南北の綱引きが始まった

 昨年3月に韓国軍哨戒艦沈没事件、11月に延坪島砲撃事件が起きるまでの米国と北朝鮮の6か国協議をめぐるスタンスは、「6か国協議には二度と出ない」と不参加を宣言した北朝鮮に対して米国が無条件で出てくるよう促していた。

 無条件復帰を求める米国に対して北朝鮮は「米国は(北朝鮮との)対話を持ち出す前に、これまで合意した内容を覆し、わが国の自主権を侮っていることについて謝罪すべきだ」(09年5月19日の労働新聞)とミサイル発射に際して国連の非難決議を主導した米国に謝罪を求めていた。

 一昨年10月には訪朝した中国の温家宝首相の説得もあって、翻意したが、それでも金正日総書記は「米朝関係が敵対関係から平和的関係へと移行することを条件に6カ国協議を含む多国間協議を行いたい」と、制裁の解除と併せて米国が平和協定の交渉に応じるなら6か国協議に復帰しても良いと、条件付を譲らなかった

 米国は駄々っ子の北朝鮮を宥めるため北朝鮮が6か国協議に復帰すれば、その枠の中で平和協定協議も、制裁緩和の協議も、米朝二国間交渉も可能であるとのニンジンをぶら下げ、無条件復帰を促していたが、この米朝の立場が昨年から一転逆転した。

 今度は北朝鮮が米国に6か国協議への無条件復帰を呼びかけ、これに対して逆に米国は南北対話再開と非核化への誠意ある措置を6か国協議再開への条件として北朝鮮に突きつけたのだ。

 何としてでも6か国協議を再開させたい北朝鮮は米国の要求に応じ、韓国に対して当局者会談の実務接触を1月27日に、旧正月の南北離散家族再会のための赤十字会談を2月1日に、南北合作プロジェクトである開城工業団地での事業再開をめぐる会談を2月9日に、金剛山観光事業再開に向けた会談を2月11日に、高位級軍事会談の開催を2月上旬に開くための実務者交渉を1月下旬に開催することを矢継ぎ早に提案した。

 ところが、今度は韓国がこれに条件を付けた。韓国哨戒艦沈没事件と延坪島砲撃事件での「責任ある措置」を北朝鮮が取らない限り、正式な南北対話にも6か国協議にも応じられないと釘を刺したのだ。

 韓国政府が求めている「責任ある措置」とは@一連の事件について謝罪することA責任者を処罰することB再発防止を約束することの三点だが、韓国にとっては極めて当然の要求だが、これが北朝鮮にとっては無理難題のようだ。

 まず、北朝鮮は哨戒艦事件については冤罪、即ち無関係を主張している。延坪島砲撃事件では再三の中止要請を無視し、韓国軍が北朝鮮に向けて実弾射撃を行なった結果、事件が引き起こされたことや、韓国も北朝鮮の島に反撃を加え、韓国以上の人的被害を被っていることから「お互い様」との立場を取っていることである。

 責任者の処罰に至っては、韓国側が主張するように「事件は金正日、正恩父子の指示に基づいて計画的に行なわれた」とすれば、100%あり得ないことだ。北朝鮮の指導者には自らの過ちを認め、「切腹」した過去はない。

 そして、「再発阻止の確約」だが、これは翻して言えば、北朝鮮が無効を主張しているNLL(北方限界線)を認める行為に等しい。というのも、韓国にとっての北朝鮮の挑発とは北朝鮮の漁船や警備艇がNLL以南に侵犯すること、NLL海域での韓国軍の軍事演習を妨害することを意味する。従って、北朝鮮人民軍にとっては「二度と挑発しない」と韓国軍に約束をするのは、領海をめぐる領有権紛争での敗北を認め、事実上韓国軍に降伏することに等しい。「強盛大国」を目指し、「先軍政治」を掲げる北朝鮮が韓国側の要求をすんなり受け入れるとはまず考えられない。

 韓国は軍高位級会談で北朝鮮からこの3点セットを取り付けられない限り、「正式な南北会談や6か国協議には応じない」との立場を崩していない。ここまで豪語した以上、韓国もまた引くに引けないだろう。

 この不毛な南北の綱引き、果たして落としどころがあるのかどうか。