2002年4月25日(木)

拉致を否定する「金正日発言」

 金正日総書記が「行方不明者ならば論議の対象になりえる」と言ったことを「注目すべき発言」と捉える向きが外務省内にはあるが、「我々がいつ拉致したか。拉致者は存在しない」との発言のほうがはるかに注目すべきことだ。金総書記の口から拉致否定の言葉が出た以上、「拉致問題」の解決はむしろ難解になった気がしないでもない。

 欧州旅行中に失踪した有本恵子さんの場合は体の自由を奪われた形での連行ではなく、騙されたにせよ、半ば自らの判断もあってついて行ったわけですから「行方不明」という折衷案による解決も可能だ。しかし、日本の海岸から忽然と消えた7件10人の場合は、「行方不明」という扱いでは不自然極まりない。

 北朝鮮は有本さん以外にも二人いいるとみられている「欧州失踪組」と、「日本列島失踪組」とを切り離して対処するのだろうか。ひょっとすると、10人についても、死亡説が伝えられている久米明さんや原敕晃さんに限っては「死人に口なし」で「拉致ではなく、自らの意思で渡航してきた」とその存在を認めるかもしれない。しかし、問題はカップルで失踪したケ−スや「拉致疑惑」の象徴である当時13歳だった横田めぐみさんの扱いだ。

 どう考えても、北朝鮮が「我が国の何者かが海岸から船に乗せて連れて来ていた」という前提に立たなければ、「行方不明者」としての「生存発見」もあり得ない話だ。10人について4年前に「我が国に存在したことも、入国したことも、一時滞在していた事実もないことが最終的に判明した」と日本に通告していた北朝鮮赤十字会が前言を翻すとは考えられない。まして、北朝鮮に拉致された疑いのある日本人の数は40人、200人に達すると伝えられている状況下にあってはなおさらのことだ。

 最高指導者である金総書記の「拉致否定発言」によって横田めぐみさんらの拉致問題解決の道はむしろ閉ざされたような気がしてならない。