2005年10月24日(月)

「小泉靖国参拝批判」に慎重な北朝鮮

 6か国協議の場で10月中の再開で合意した日朝政府間協議だが、まだ日取りも決まっていない。このままだと、11月初旬に予定されている第5回6か国協議の後になる可能性も考えられる。議題と、開催場所について合意に達していないことも一つの理由のようだが、小泉総理の靖国参拝も影響しているようだ。

 北朝鮮は、小泉総理を名指しせず、「日本の執権者」という言い方をするなど激しく反発する中韓両国とは一線を画し、比較的ク−ルな対応をしていたが、中韓両国が10月23日以降に予定していた町村外相との会談を相次いでキャンセルするなど強硬な姿勢に出ていては、日本との政府間協議にそう簡単には応じられないのかもしれない。それでも、「在日本朝鮮人科学技術協会」や「金萬有科学振興会」への警視庁公安部による強制捜査に対して北朝鮮の報道機関は10月23日現在、沈黙を守ったままで、意外に冷静な対応をしている。

 北朝鮮が残り任期1年の小泉政権下での国交正常化を真剣に検討しているならば、それも頷けられるが、その鍵を握っている人物が小泉総理の側近、山崎拓議員。10月20日に韓国を訪問し、鄭東泳統一相と会談している。小泉総理の靖国参拝についてやりとりがあったと報道されているが、靖国問題は鄭統一相の管轄ではない。

 山崎氏は、前回韓国を訪問した時に、訪朝を予定していた鄭統一相に金正日総書記宛の小泉総理のメッセ−ジを託したと言われている。町村外相は衆議院拉致問題特別委員会での答弁で小泉総理の3度目の訪朝の可能性について「可能性がないという積極的な理由はないので、当然あると申し上げたい」と前向きな発言をしていた。昨年、5人の拉致被害者の子供らの帰国をめぐって北京で山崎氏と極秘会談を行った北朝鮮側の窓口である宋日昊外務省アジア局副局長は先日、共同通信のインタビュ−に応えて「3度目の訪朝を歓迎する」と言っていた。

 拉致議員連盟の会長代行に就任した安倍晋三自民党幹事長代理は10月22日、都内での講演で「(中国が靖国参拝を阻止するため(日本の)経済界にプレッシャ−をかけることは、両国間の不信を相当深刻なものにしていく危険性がある。政治的な問題発生の可能性があれば、抑止力になるのが経済の関係だ」と言っていた。その通りで、政治的な対立が深刻な時ほど、両国間の人的、経済交流を活発にし、相互理解を深めることが重要だ。それが、政治対立を和らげる賢明な方策というもの。政治的要求が通らないからと言って、日本商品ボイコット運動や不買運動などはすべきではない。

 ところがその一方で、安倍氏は拉致問題で政治的に対立する北朝鮮に対しては経済制裁の発動を求めている。日本にとって北朝鮮は外交的ウェイトや経済的比重の面で、中韓の比ではないので、立場が相反したとしても不思議ではない。

 しかし、政治的要求を押し通す手段として経済的プレッシャ−をかけるという点においては「中国式発想」と何ら変わりはない。「圧力」の一つとして「経済制裁」を叫ぶことも必要かもしれないが、それよりも「対話」が重要だ。

 米国は核問題で北朝鮮と鋭く対立しながらも、与野党の有力議員が相次いで平壌を訪問し、北朝鮮側と談判している。先日もニュ−メキシコ州知事らが訪朝し、金総書記の外交ブレ−ンである姜錫柱第一次官らと会談し、6か国協議への無条件復帰と、エルバラダイIAEA事務局長の訪朝を受け入れさせた。日本には衆参合わせて600人以上の議員がいながら、また拉致議員連盟に多くの議員が所属しながら、誰一人、拉致問題解決のため平壌に乗り込んで、談判しようとする「勇気ある」政治家が見当たらない。米国のやり方をもう少し見習ったらどうだろうか。