2007年10月2日(火)

高濃縮ウラン(HEU)核計画問題

 CIAは2002年6月、北朝鮮が年間1〜2個の核兵器を製造できる量のHEUを生産する工場建設しており、早ければ2005〜2006年には稼動できると分析していた。

 この年の10月に訪朝したジェームズ・ケリー次官補(当時)が執拗に追及したところ、姜?柱外務一次官が「HEUを開発して何が悪い。我々はそれよりももっと強力なものもある」と語ったことから米国務省はケリー訪朝後の10月17日、「姜外務第一次官が高濃縮ウラン開発を認めた」と発表した。ところが、北朝鮮はその後「そのようなことを認めたことはない。米国はありもしないHEUを持ち出し、我々を圧迫しようとしている」と、その存在を真っ向から否定した。

 米側には証拠として@HEU製造に必要な遠心分離機の材料とみられる高強度アルミニウム管150トンをロシアが北朝鮮へ輸出した証明書類があるといわれている。Aパキスタンのデーターを提示したとされている。

 06年に出版されたパキスタンのムシャラフ大統領の著書の中に「カーン博士が1990年以降、北朝鮮にウラン濃縮用の遠心分離機を北朝鮮に渡した」ことが明らかにされている。遠心分離機12個〜24個のほか、遠心分離機設計図と関連物品購入リストも渡っており、カーン博士自身も13回も北朝鮮を訪れていた事実も判明している。カーン博士はそのうち9機が稼動したと証言している。北朝鮮にパキスタンからHEU関連の技術や部品が持ち込まれていたことは極めて明白だ。

 但し、現実問題として、ウラン核爆弾を製造するには遠心分離機数千個が必要で、20個程度では不可能である。原爆用ウランを製造するためには遠心分離機2千個を1年間稼動させなければならない。

 北朝鮮は2003年4月、フランスとドイツ当局は北朝鮮に向かっていた高感度アルミニウムチューブ22トンの船籍を遮断(約220トンの一部)。このチューブはパキスタンが核兵器製造に使用したG−2型遠心分離機を製造するのに適していた。220トンもあれば、3,500個のG−2型遠心分離機の製造が可能となる。年間75kgのHEU、即ち、第一世代HEU核爆弾を3個分製造できる量である。

 こうしたことから米シンクタンク、科学・国際安全保障研究所のオルブライト所長は、CIAが指摘するような工場が建設されていない可能性があるとし、「CIA情報はイラク戦につながった時と酷似している」と語っている。また、非拡散研究センターのダニエル・ピンクトン研究員も「北朝鮮が何個からの遠心分離機を設置し、研究したのは間違いないが、大量生産施設を備え、運営するのは将来の話である」と、HEU施設の存在そのものに懐疑的な見解を述べている。

 金桂寛外務次官は最近訪朝したデイビッド・オルブライト所長に対して、米側が提示した「証拠資料」に反論するなど、HEU疑惑解消に自信を示している。

 ヒル次官補は北朝鮮が巨大な遠心分離機施設を持っているとした米CIAの情報には「証拠不足である」ことを認めながらも、遠心分離機を輸入した以上、HEU計画そのものがあるとの立場は変えていない。

 (米国)

 北が認めようが認めなかろうが、HEUを破棄しなければならない。輸入した各種装備がどのようになっているのか、検証しなければならない。

 (北朝鮮)

 ウランを基盤とする核兵器計画はない。将来検証が必要とされるような証拠が出てくれば、(疑惑を晴らすための)検証を受ける準備ができている。

 ※北朝鮮がHEUを認めてこそ次の段階に進むことができるとした既存の方針とは異なり、米国は、北朝鮮が是認、否認しようが、この問題はすべての核計画プログラムに含まれるとして、検証の際に扱うという方向にシフトし、この問題を入り口ではなく、出口にした。

 北朝鮮は9月にジュネーブで開かれた米朝作業部会でロシアから高強度のアルミニウム管を大量に輸入した事実を認めた。しかし、核開発のためではないと弁明した。「過去に150トンのアルミニウム管を輸入した事実はあるが、核開発要ではなく、他の目的のために輸入した」と語り、管のサイズや形状を詳しく説明した。

 米国は北朝鮮側の説明に一定の理解を示したと言われている。

 北朝鮮がこのロシアからのアルミニウム輸入とパキスタンから調達した遠心分離機の所在を明らかにできるのか、またどう説明するのか、その説明を米国が受け入れるのか、核問題の進展はこの一点にかかっている。