2009年4月2日(木)

韓国はOKで、北のロケットはNO!

 燃料注入が始まった。北朝鮮の衛星と称するミサイルは最短で予告通り2日後の4日には発射される。

 飛行コースに位置する秋田、岩手県民の不安をよそに河村官房長官は「通常は、我が国領域内に落下することはない」ので心配はいらないと言っている。その割には万一に備えての大掛かりな迎撃態勢を敷いている。

 「通常は、我が国領域内に落下することはない」という意味は、人工衛星で、通告したとおりの「予定通りの飛行コースを飛べば」という意味なのだろう。

 日本政府は当初は、北朝鮮が「テポドン・ミサイル」を発射すると主張していたが、最近では「飛翔体」という表現を使っている。国会で北朝鮮に自制を促す非難決議が採択された際にも「飛翔体」という表現が使われ、麻生総理にいたっては、「ロケット」とまで表現していた。官房長官の記者会見ではどうして「飛翔体」に変わったのか、聞く記者は一人もいなかった。

 北朝鮮の人工衛星がなぜ、問題なのか、打ち上げてはならないのかについて日本政府は「人工衛星であっても、打ち上げる発射推進体がミサイルと技術的に同じで、ミサイルへの軍事転用が可能だから」「弾頭に核弾頭を装着すれば、大陸弾道ミサイルになるから」と説明している。日本国民向けなら、これ以上の説明はいらない。

 しかし、常識的に考えると、そうだとするならば、これは何も北朝鮮に限った話しではない。ロケットイコールミサイルという捉え方をするならば、日本のロケットも、また来月発射を予定している韓国の人工衛星も問題になってくる。

 例えば、韓国は来月に自前の小型衛星発射体(上記の写真=模型)を使って科学技術衛星2号を宇宙に打ち上げる予定になっている。発射場所は日本に最も近い韓国最南端、全羅南道高興の羅老からだ。韓国初の衛星実験である。

 韓国のロケットは九州と沖縄の間を飛んでくるが、北朝鮮のミサイル同様にトラブルが発生すれば、軌道を外れて鹿児島など日本列島あるいは日本の領海に落下するかもしれない。過去に経験したことのある北朝鮮と違って、韓国は「初体験」である。日本にとってのリスクという点では北朝鮮のそれよりも韓国のほうが高い。それでも日本には迎撃の動きはない。どうしてだろうか?

 周知のように日本は韓国と「竹島」という領土問題という火種を抱えている。将来領土紛争が発生し、局地戦争に発展すれば、韓国のロケットが、日本をターゲットにしたミサイルに転用される可能性がないとは言えない。北朝鮮のロケットがミサイルに転用される恐れがあるから問題ならば、同じ理屈から韓国のロケットも問題にしなければならない。韓国のそれはOKで、北朝鮮のそれはNOというのは、ダブルスタンダードのような気がしてならない。

 現在、「G-20」金融サミット出席のためロンドンに滞在中の麻生総理は、反対の理由について各国に「人工衛星であっても、国連決議違反なので、北朝鮮に自制を求めるべきで、それでも発射すれば、制裁、あるいは非難決議を採択すべきだ」と説明している。日本の解釈に立てば、これは正論だ。

 麻生総理が言う国連決議とは、3年前の核実験の際に採択された国連安保理1718決議のことで北朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止すること」を決議している。麻生総理が問題にしているのは、先端の人工衛星ではなく、それを打ち上げる「飛翔体」のロケットである。このロケットが弾道ミサイルにつながるとの認識に基づいているのだ。北朝鮮はこれまで軍事転用をほのめかしていたので、「国連決議違反」との日本をはじめ米韓の認識は決して間違ってはいない。

 前回の国連安保理1718決議が散々議論されたあげく、日本が強く求めた海上封鎖や軍事行動を容認する第7章第42条が適応されず、経済制裁に限った第41条の適応に留まったことはまだ記憶に新しい。日本からすれば、その決議を北朝鮮は今回違反したわけだ。まして、核実験の3か月前に行なったミサイル7連発の時に採択された国連安保理の非難決議(1695)も無視された格好となる。

 今回の北朝鮮の発射は安保理の非難決議も、制裁決議も無視したことになるので、日本は本来ならば、第42条の適応を求めるのが筋ではなかろうか。ところが今回、日本からそのような声が全く起きない。不思議だ。「人工衛星だから」という後ろめたさでもあるのだろうか。それとも、42条の適応は戦争に繋がりかねないと恐れているからだろうか。