2009年12月21日(月)

どこまでわかった?北朝鮮武器輸出事件

 北朝鮮の武器輸出事件が注目されている。

 タイで「抑留」されたロシア製飛行機イリューシン(IL)76が平壌から飛び立ったことは間違いないが、どのような兵器を積んで、どこに運ぼうとしていたのか、19日まで詳細は何一つ明らかにされてない。

 積み荷について145個の密閉容器とボックスの中から「対空ミサイル(SA-7)、対戦車ロケット(RPG-7)が発見された」「射程距離60kmの多連装ロケット発射台(M−1985型)2台と20余機の240mロケットが発見された」「ロケット推進用手榴弾や対空火気発射台、それに爆薬などが積んであった」と報道されている。

 搭載されていた兵器の具体的なリストはまだ公表されていない。但し、搭載された兵器は重量にして35〜40トンで、日本円で16億〜17億円に相当すると言われている。

 一部では「K100」と書かれてあった箱が見つかったことから、これは空中早期警報統制機(AWACS)を狙うロシア製ミサイルK−100ではないかとみられているが、不明だ。

 また、ロイター通信は「テポドン2号の部品が積まれていた」と伝えていたが、タイ政府のスポークスマンは「テポドンなど大量破壊兵器(WMD)が積んであるとの証拠はない」と否定した。タイ首相にいたっては驚くべきことに「武器は北朝鮮製でないかもしれない」と語っている。その理由を「武器の箱から英語の説明書が出てきたが、これが北朝鮮製でないことを意味している」と説明していた。

 タイ首相の言っている意味がよくわからない。その英語の説明書に北朝鮮以外の国の国名が記されているとでも言うのだろうか。仮に「北朝鮮は英語の表記を使っていないから」と言う意味ならば、これは説明にならない。昔と違い、北朝鮮は輸出品には説明書も含めてすべて英語で表記しているからだ。

 万が一これが、事実だとすれば、飛行機はウクライナから出発しているので、ウクライナで武器を搭載し、その一部を北朝鮮に下ろし、次の目的地に向かったという話になる。積み荷の兵器はすでに全部保有しているわけだから、どのような兵器を北朝鮮が購入したのかということに関心を持たざるを得なくなる。

 飛行機はグルジア航空会社「エアウェスト」の所有で、チャーターしたのは、タイにある運輸会社「SPトレーディング」と当初は伝えられていたが、その後、ニュージランドのオークランドにある会社であることが判明した。また、この会社の大株主がバヌアツに登録されているGTグループであることもわかったが、「SPトレーディング」も「GTグループ」もペーパーカンパニーの疑いが浮上している。

 そして、問題は輸送先である。

 乗務員の証言では、飛行コースはウクライナ→アゼルバイジャン→UAE→タイ→北朝鮮→タイ→?となっていたが、「?」についてはスリランカやミャンマ、あるいはイランなどの名前が取り沙汰されていた。しかし、デニス・ブレアー米国家情報局長が「米国と外国情報機関のチームワークのおかげで中東に向かっていた北朝鮮兵器を押収できた」と語っていたところから、イランの可能性が急浮上している。また、飛行機は給油のためタイに着陸したのではなく、米国の要請に基づき発進したタイの戦闘機2機によって強制着陸された模様だ。

 イランには昨年8月にミャンマを飛び立ったIL-62が直前にインド領空の通過を拒否された過去があり、また今年8月には北朝鮮からイランに向かっていた第3国の船舶がUAEで荷物検査を受けた結果、兵器が発見され、押収されたばかりだ。

 積み荷の最終目的地がほぼイランに絞られているが、タイ総理が最終目的地について「明らかにしない」と語っていることから外交関係上、公式的に特定されない可能性も出てきた。

 問題の飛行機が、ボズワース米特別代表が2泊3日の訪朝を終え、ソウルに戻った翌日に平壌を飛び立ったことから米国内では北朝鮮の「二重プレイ」と非難する声が上がっているが、オバマ政権はこの問題を核問題とは切り離して対処するようだ。