2012年11月10日(土)

二期目のオバマ政権の対北朝鮮外交は?

 オバマ大統領が再選された。二期目のオバマ政権の外交は、アジア重視と伝えられている。

 アジア重視が、同盟国である日本、韓国とのさらなる関係強化をはかるだけでなくアジア全体を視野に入れているようだが、ミャンマーを再選後初の外遊地に選んだところを見ると、膨張主義傾向のある中国を牽制するための戦略的次元からのアジア外交を展開するようだ。

 米中がアジアにおける覇権、主導権をめぐってさらに対立を深めるのか、それとも、妥協して大国間による「談合」に走るのか、オバマ政権対習近平新政権による「パワーゲーム」は、隣国の日本、韓国、北朝鮮にとっても無関心ではいられない。

 日韓両国にとっては、民主党のオバマ候補であれ、共和党のロムニー候補であれ、誰が大統領になったとしても、日韓、米韓の同盟関係は不変、不動であることから、影響を受けることはない。しかし、北朝鮮にとっては、今回の米大統領選挙の結果は、自国の命運、将来に重大な影響を及ぼすだけに無関心ではいられなかったはずだ。

 今日現在(10日)、北朝鮮の公式メディからは何の反応もない。沈黙を守ったままだ。しかし、ベター論からすると、オバマ大統領の再選に内心、ホッとしているものと推察される。

 ロムニー候補が選挙期間中に北朝鮮を再三バッシングする発言を繰り返していたからだ。仮にロムニー候補が当選すれば、米朝関係が、北朝鮮を「悪の枢軸」、金正日総書記を「ならず者」と酷評、非難したブッシュ前政権の第一期の時代に回帰する恐れがあったからだ。

 オバマ大統領の再選で、米朝はまがりなりにも交渉の継続性は維持されることになった。しかし、オバマ政権一期目には北朝鮮が早期再開を待望していた6か国協議が一度も開催されることはなかった。ブッシュ政権の時代よりもむしろ後退したと言えなくもない。現に、北朝鮮にとっては、金日成、金正日政権と二代続けての悲願である平和協定の締結、関係正常化、経済協力の3点セットを取り付けることができず、依然として経済苦境と外交孤立から抜け出せない状態が続いている。

 一方の米国も、究極的目標である北朝鮮の核放棄を一向に実現できないばかりか、テポドン発射(09年と11年)を二度も許し、2度目の核実験(09年)も阻止できなかった。クリントン長官は就任時「ブッシュ政権の北朝鮮政策の最大の過ちは、対話をせず、北朝鮮に核実験に踏み切らせことだ」と批判したが、オバマ政権も結果として、同じ過ちを犯したことになる。

 オバマ大統領は、昨年2月に北朝鮮が食糧支援を見返りに濃縮ウラン活動の停止と長距離弾道ミサイルの発射凍結を約束した米朝合意を反故にし、テポドンミサイル発射を強行したことに激怒し、金正恩新体制に「6か国協議合意に従い、非核化するか、それとも国連の経済制裁を受け続けるのか」の二者択一を迫ったが、その後、北朝鮮が三度目の核実験や再度のミサイル発射を自粛したことで、米朝合意を復活させ、来年早々にも6か国協議の再開も検討していると伝えられている。6か国協議のこれ以上の遅延は、米国本土を標的にしかねない大陸弾道弾ミサイルの開発や核小型化開発のための時間稼ぎに利用されかねないばかりか、へたをすると、ブッシュ政権下で苦労して合意を取り付けた6か国協議の破棄を北朝鮮が通告することになりかねないからだ。

 すでに今年9月に中国の大連で開かれた6か国協議関係者らによる「東アジア協力会議」に出席したロシア科学アカデミー傘下の経済研究所のゲオルギ・トルロヤ研究員は「会議の雰囲気からして、米韓の大統領選挙が終わる来年初めには6か国協議が再開される」との見通しを語っていた。

 仮に6か国協議が再開された場合、オバマ政権はどのような対応に出るのだろうか?

 過去10年間の米政権の対北朝鮮政策を検証すると、一期目は圧力重視の強硬路線で臨んでいるが、不思議なことに二期目は共通して、一転、融和政策に転じている。

 クリトン政権は一期目の94年には、核を放棄させるには戦争も辞さないと強硬に出たが、二期目の任期最後の年の2000年にはオルブライト国務長官を平壌に派遣し、ミサイル問題解決のための米朝共同コミュニケを発表するなど和解の道を模索した。  

 米朝共同コミュニケ(2000年10月12日)でクリントン政権は北朝鮮に対して「敵対的な意思を持たない」ことと「新たな関係を樹立するためあらゆる努力をする」ことを約束していた。

 ブッシュ政権も同様で、一期目の時は「イラクの次は北朝鮮」とばかり、先制攻撃も辞さないと圧力をかけ、「金正日のような暴君による暴政を終息させる」と北朝鮮の政権転覆を画策したが、2期目の2005年には外交的解決に軸を置き、9月には6か国協議共同声明を発表し、06年11月には「北朝鮮が核兵器を廃棄する場合、朝鮮半島の平和体制構築に向け金正日総書記と朝鮮戦争の終結を宣言する文書に共同署名する用意がある」と言明し、任期最後の年の2008年には北朝鮮をテロ支援国のリストから外し、クリントン政権に倣い、ライス国務長官の訪朝まで検討していた。

 ブッシュ政権は、6か国協議共同声明(05年9月19日)で、北朝鮮に対して@核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行わないA主権を尊重し、平和的に共存するB国交を正常化するための措置を取るーことなどを約束することで、北朝鮮に「すべての核兵器及び既存の核計画を放棄し、核兵器不拡散条約(NPT)及びIAEA保障措置に早期に復帰する」ことを約束させることに成功している。

 来年7月27日の休戦協定60周年までに米国との間で平和協定を締結することを目標に定めたと伝えられている金正恩体制に「核のない世界」を目指すオバマ政権がどのようなカードを切って、20年以上も米朝対立の根源となっている核問題やミサイル問題に決着を付けるのか、「オバマ対金正恩」の「勝負」もこれまた興味津々だ