2006年5月12日(金)

金英男を知る人物


 警察庁の拉致担当部長らが現在、訪韓中だ。10日にソウル入りし、12日までの間、韓国側のパートナーと協議を行う。

 事は極秘裏に進められているが、横田めぐみさんの夫、金英男さんに関する情報交換がメインとなりそうだ。日本側は金英男さんの拉致(1978年)に関わったとされる元工作員、金光賢氏の事情聴取を希望しているようだが、金光賢氏は1980年6月に韓国の西海岸に工作船で潜入したところ、韓国の警備艇に身柄を拘束された「北の人間」であることには変わりがないが、本人曰く、「当時、工作船で韓国に浸透したのは間違いない。しかし、自分は工作員を安全に送迎する戦闘員で、拉致などに直接関わる工作員ではなかった。従って、工作員が何をやったのか知らされてないし、従って、金英男さんの顔も知らない」と、拉致の事実を否認している。

 日本では工作員と戦闘員を混同している。金光賢氏の言うように双方の任務は明らかに異なる。1997年に韓国の東海岸、江凌に北朝鮮の潜水艦が浸透し、韓国軍に掃討された事件があったが、唯一生け捕りされた乗組員もやはり戦闘員で、工作員ではなかった。

 当時筆者へのインタビューでこの乗組員は「潜水艦には3人の工作員を送迎するため戦闘員のほか、船長や機関長ら乗務員が20人近くが乗船していた」と語っていた。もちろん、工作員のほうが戦闘員よりも格上だ。ちなみに、拉致問題で日本のマスコミに登場している安明進氏も正確に言えば、工作員ではなく、戦闘員だ。それを日本では勘違いしてきた。

 従って、金英男さんについては、金光賢氏よりも、むしろ、北朝鮮で金英男さんから直接「韓国人教育・指導」を受けた元工作員、崔正男氏(44歳)を探し出して、事情聴取をすべきだ。

 崔氏は金英男さんと同じ年で、1986年に高校卒業後に工作員に抜擢されている。1990年11月に結婚した妻(カン・ヨンジョ)とともに韓国浸透指令を受け、97年7月に韓国に潜入、スパイ活動をしていたところ、11月に摘発され、妻は供述を拒み、服毒自殺した。夫の崔氏が韓国当局の事情聴取で金英男さんから直接「韓国人化教育」を受けたと自白したことから金英男さんが北朝鮮に拉致されていた事実がわかったわけだ。

 崔氏は刑期を終え、現在は自由の身にある。北朝鮮は金英男さんの妻、横田めぐみさんは1994年4月に「自殺した」と発表しているわけだが、仮に崔氏が1997年までに金英男さんから指導を受けていたならば、金英男さんについてある程度のことは知っているはずだ。