2007年8月9日(木)

南北首脳会談と拉致

 南北首脳会談が8月28日から3日間、平壌で開催されることが南北から同時発表された。盧武鉉大統領の4年越しのラブコールに金正日総書記が応える形となった。国内では安倍総理以上に不人気で、3,4月か月後に行なわれる大統領選で事実上終わる「死に体」の盧大統領からすると、誰もが無理と思っていただけに「してやったり」の心境だ。前回の首脳会談での約束事であったソウル開催にこだわるどころの話ではなかったはずだ。

 駆け込み的な首脳会談の開催は、南北双方にそれぞれの思惑があるものと思われる。盧大統領にとっては、レイムダック阻止し、大統領としての求心力を取り戻し、国内政局での主導権を握りたいとの考えがある。特に、野党・ハンナラ党候補にリードされている大統領選挙の流れを変えたいとの狙いもある。政権交代を阻止するための「強力なカード」に使う考えのようだ。

 一方の、金総書記はどうかというと、「一石二鳥」どころか、様々な狙いが隠されている

 第一に、韓国からの経済協力D。何しろ、会わなくても良いのものを、会ってあげるわけだから、相当な「土産」を期待しているものと思われる。7年前の金大中大統領の時は5億ドルを「献上」したわけだから、今回もそれ相応のものをあてにしているはずだ。

 次に、大統領選挙に影響を与え、野党ハンナラ党候補の当選を阻止し、与党候補を当選させ、金大中―盧武鉉と2代続いた太陽政策を継承させることにある。

 三つ目は、国連の経済制裁の撤廃だ。北朝鮮は昨年のミサイル発射実験と核実験で国際的に孤立した。その結果が、国連による経済制裁発動だ。南北首脳会談を開催することで平和ムードをかもしだし、制裁撤回にもっていく考えのようだ。

 四つ目は、ブッシュ大統領に米朝首脳会談を働きかけてもらうことにある。昨年12月のベトナムでの米韓首脳会談で、ブッシュ大統領は盧大統領に北朝鮮が核放棄の政治決断をすれば、金総書記と会い、朝鮮戦争終結の調印を一緒にやっても良いと語っていた。北朝鮮はその後、核放棄に向けて動き出している。

 最後に、安倍政権を孤立させることにある。日本の対北朝鮮外交の柱は、「日米韓協調外交」。北朝鮮は核問題の進展と首脳会談を「えさ」に米国と韓国を日本から引き離すことで、安倍政権の「対北強硬策」を破綻させ、路線転換を迫る考えのようだ。

 南北首脳会談開催発表に関する日本政府の反応は表向きは「歓迎」だが、内心は苦々しく思っているのではないだろうか。国際包囲網と経済制裁で北朝鮮を屈服させるとの戦法が通じなくなるからだ。盧大統領を通じて北朝鮮側に拉致問題を解決するよう働きかけると、安倍総理はコメントしていたが、自国の拉致問題でさえ解決できない韓国に期待するだけやぼだ。

 先に来日したネグロポンテ米国務副長官も言っていたが、米国も、韓国も拉致問題は「日朝間の問題で、日朝の話し合いで解決すべき」というのが基本的スタンス。従って、米国は核問題が進展すれば、テロ支援国指定から北朝鮮を解除する方向にある。

 「拉致はテロ」というのが日本政府の公式見解である。米国は日本にテロとの戦いで共同歩調を訴えている。安倍政権はそれに応じて11月1日に期限切れとなるテロ対策特別措置法の延長する考えだ。