2007年12月11日(火)

ブッシュの「ラブレター」に金正日は?

 ブッシュ大統領が訪朝したヒル国務次官補を通じて金正日総書記に親書を送ったとのニュースは大きな波紋を呼んでいる。

 米国の大統領が、北朝鮮の最高指導者に公式に親書を伝達したのは、前任者のクリントン大統領に続き、これが2度目。いや、正確に言うと、3度目となる。

 1度目は、1994年10月20日。ジュネーブでの米朝核合意前日、金総書記に「私はすべての職権を行使し、DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)に提供される軽水炉発電所対象の資金保障と建設のための措置を推進し、1号基軽水炉発電所が完成するまでDPRKに提供される代替エネルギー保障に必要な資金造成とその履行のための措置を推進することを貴殿に確認する」という内容の書簡を出していた。

 2度目は、2000年10月23日で、今回のヒル次官補同様に訪朝したオルブライト国務長官を通じて伝達されている。米閣僚として史上初めて訪朝したオルブライト国務長官が持参した大統領親書についてパウチャー国務省報道官(当時)は「米朝関係のさらなる発展を期待するもの」と説明し、今回同様に中身は公開しなかった。

 このクリントン大統領からの2度目の手紙については、金総書記が手放しで喜んでいた。その時までお抱え料理人として仕えていた藤本健二氏は「将軍は、幹部たちを集めて大宴会を催し、『クリントンから手紙をもらったぞ!』と言って、何度も乾杯を繰り返していた」と証言している。

 今回のブッシュ大統領の親書も中身は公開されていないが、北朝鮮がいち早く報道したところをみると、内容的には申し分なかったのではないかと想像される。金正日氏のことを「ならず者」「テーブルでマナー悪く振舞うガキ」「暴君」「独裁者」と言いたい放題罵倒してきたブッシュ大統領が外交礼儀上とはいえ、「親愛なる」という敬称を付けて呼称したわけだから、「してやったり」との思いかもしれない。

 問題は、金総書記からの返書だ。ブッシュ大統領は、返書を期待しているようだ。ヒル次官補自身は帰国時には返書を携えていなかったようだ。常識的に考えれば、米朝パイプを重視する北朝鮮は中国や韓国など第三国を介してではなく、金桂寛次官もしくは、特使を直接訪米させ、伝達することになると思われる。「クリスマスプレゼント」になるのか、「お年玉」となるのか、興味深い。

 奇遇にも、10日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、米朝間では米国の名門オーケストラ、ニューヨーク・フィルが金総書記の誕生日から10日後の2月26日に平壌で公演を行うことで合意した。ブッシュ大統領からの金総書記への「バースデー・プレゼント」となるのかどうかわからないが、訪朝団は、マスコミも含め250人規模になる見込みで、最大の文化使節団となりそうだ。米中関係正常化はピンポン外交で始まったが、米朝は音楽交流からスタートしそうだ。

 金総書記は、2度目のクリントン大統領の親書を見て、「日本はさぞかし驚いているだろうな」と、笑っていたそうだが、それもその筈で、翌月の11月、後継者のゴアー副大統領が大統領選挙で共和党のブッシュ候補に敗れたことで流れたものの、クリントン大統領の電撃訪朝が計画されていたからだ。歴史は繰り返されるのか、日本にとって来年は要注意だ。