2007年3月2日(金)

特定失踪者の娘が脱北?

 日朝作業部会の日程と場所、そして双方の責任者も決まった。米朝作業部会(5―6日)直後の 7日からベトナムで開かれる。双方の代表は案の定、昨年2月に決裂した日朝並行協議時の 原口幸市日朝国交交渉担当大使と宋日昊日朝国交正常化担当大使。1年以上も何の接触も ないままのぶっつけ本番だ。

 日本政府は当初、北朝鮮が調査の継続と情報提供を約束すれば「進展」とみなし、 エネルギー支援に加わることを検討するとみられていたが、1日に行われた安倍首相と 麻生外相らの協議の結果、「調査の継続と情報提供を約束しただけで進展があったとは考えていない」 (塩崎官房長官)と、「進展」のハードルを上げることにした。

 一方、日朝作業部会の行方を案じる6か国協議首席代表のヒル米国務次官補は28日、 下院外交委員会の公聴会で証言し、「解決のロードマップ(行程表)見出して欲しい」と期待を表明していた。 と同時に「解決は、愛する者を失った家族にとって幸せでないケースもあるだろうが、 家族は何があったのか説明を受ける権利がある」と発言していた。

 「幸せでないケース」とは穏やかではない。思えば、ブッシュ大統領は昨年面会した横田早紀江さんに 「娘さんはまだ生きていると思うか」と、ぶしつけな質問をしていたが、今回のヒル発言といい、 拉致被害者は生存していないとでも米国は思っているのだろうか。

 中国も拉致問題では口では「理解している」「同情している」と言っているが、 訪中した自民党の丹羽総務会長に対して載秉国外務次官は日本の譲歩による政治決着を求め、 また共産党の王家瑞対外連絡部長も「交渉ごとには譲り合いも必要だ。譲るところは譲るべきだ。 妥協点を見出さないと解決は難しい。相互の理解と信頼が大事であり、ひたする圧力を かけるだけでは効果的な前進は得られない」と、「北朝鮮に(解決に向けて)働きかけて欲しい」と 要請していた丹羽総務会長を逆に説得していた。

 中国の言う「妥協」「政治決着」が何を指すのか、これまた意味深長だ。米国も中国も暗に 日本の譲歩を示唆しているようだ。

 拉致問題は、政府が認定した安否不明者12人以外に特定失踪者の問題が解決して初めて 全面解決と言える。政府が昨年北朝鮮に捜索を依頼した特定失踪者は認定者の3倍にあたる36人に上る。 北朝鮮は特定失踪者については今もって誰一人認めていない。拉致された可能性の 高い特定失踪者の中から一人でも脱北すれば、すべてが分かるのだが、実は、昨年8月にタイに 集団亡命した145人の中に特定失踪者の子供が一人含まれているとの未確認情報があった。 1969年に失踪したAさんの娘で、Aさんについては脱北者による北朝鮮での目撃証言もある。

 この未確認情報によれば、Aさんの娘は咸興から2003年に脱北し、2005年まで 黒龍江省海林の養鶏場に潜んでいた。しかし、鳥インフルエンザーの影響で仕事を失い、 その後ハルピン、長春を転々とし、06年初期まで長春の山奥のガマ油の養成場で働いていた。 その後そこを出たものの、茂山と隣接した中国側の領地に人身売買され、身ごもり、出産したとも言われている。 どのような経緯でタイへの集団亡命に合流したのか定かではないが、彼女が本当にAさんの娘ならば、 特定失踪者の決定的な「証人」となる。

 日本から脱北支援団体の関係者らがタイで脱北者の実態調査を行っているが、彼女の存在がつかめるかどうか。 いずれにしても内外の世論を盛り上げるため日朝作業部会を前に何らかの情報が飛び出すのだろうか。