2008年4月14日(月)

経済制裁延長と小泉オフレコ発言

 日本政府による対北朝鮮経済制裁が今年10月まで継続されることになった。北朝鮮による核計画の申告が期限切れの4月13日までに行なわれなかったことや、拉致問題が進展しなかったことがその理由だ。

 町村信孝官房長官は記者会見で「(北朝鮮が)拉致、核、ミサイルといった諸懸案の解決に向けた具体的な行動を取る場合はいつでも、一部または全部を終了することができる」と表明していたが、聞き方次第では「解除したいのに解除できない。なんとかしてもらいたい」と聞こえなくもない。

 制裁措置の効果については聞かれた福田康夫首相は「北朝鮮が解除を望んでいるなら、効果があるということだ」(11日)と言っていたが、拉致問題の進展を促すのが制裁の目的なわけだから結果が出なかったということは逆に言うと、効果がないということではないでだろうか。結果が出なかったから延長せざるを得なかったのだろう。国際社会にも協調を呼びかけている手前、日本政府としては口が裂けても「効果がない」とは言えないだろう。「効果がない」と言えば、経済制裁の延長を正当化することもできない。

 効果が上がるまで制裁を続けるならば、ついでに拉致被害者家族の会が求めるように輸出の全面禁止、北朝鮮の港に寄航する第三国の船舶の入港禁止措置を加えたらどうだろうか。確か、日本政府は中山恭子首相補佐官をはじめ「北朝鮮が誠意を示さなければ、進展がなければ、新たな追加も辞さない」と何度も北朝鮮に警告を発してきたはずだ。どうして、制裁を追加しないのだろうか。制裁に効果があると信じているなら、この機会に断固踏み切ったらどうだろうか。

 そう考えると、小泉元純一郎元総理は実に正直な人だ。2006年3月6日の参議院予算委員会で「私が訪朝した2002年時とは随分違う。韓国や中国が経済的に支援しているなかにあって日本だけが経済制裁して効果があるとは思えない」とすでに予告していた。現実には、小泉さんの予想とおりで、北朝鮮は音を上げていない。本当に制裁が効いているならば、もうとっくにギブアップしてもよさそうなものだ。

 その小泉元総理は4月10日夜、盟友の山崎拓自民党前副総裁らと懇談した際「国交正常化の実現には首相が決着をつけるしかない。自分はもう行くつもりはなく、行くのは首相だ」と述べたそうだ。このオフレコ発言には続きがあって「でも、福田政権ではだめだろう。もっと強い政権でないと」と言ったと伝えられている。これが事実ならば、山崎さんらの「小泉担ぎ出し」は完全に失敗に終わったということだ。「貧乏くじ」は引きたくないというのが小泉さんの本心。

 注目すべきは、小泉さんが「福田総理が行くべきだ」と促しながらその一方で「福田政権ではできないだろう」と言っていることだ。「拉致を認め、被害者を帰す」(一度目)「子供たちを引き渡す」(二度目)との感触を得たからこそ訪朝できた小泉さんの時とは違って、拉致問題で北朝鮮から「土産」が担保されない以上、福田さんが行ける筈もない。何の保証もなく、行けば、政権の自爆につながりかねない。

 小泉さんのオフレコ発言の本音は「国交正常化をすれば、拉致問題は解決する」の発言にあるようだ。これ即ち、「拉致問題の解決なくして、国交正常化はない」との政策を修正し、国交正常化を優先させて総理が訪朝しない限り、拉致問題の解決は無理で、それは福田さんにはできないだろうという意味に聞こえなくもない。とは言うものの、面子上、これまでの「看板」をそう簡単に下ろすわけにはいかない。そこで、「拉致問題と国交正常化を同時に解決」という名目によるアプローチが浮上する。

 小泉総理の下で拉致問題を動かした田中均・元外務審議官は3日、自民党の朝鮮半島問題小委員会(衛藤征士郎委員長)で拉致問題について自らの見解を述べていたが、解決に向けて「客観的な事実を解明、究明する仕組みを作るべきだ」と、国連などの第三者機関を交えた調査団を設ける必要性を指摘したそうだ。

 田中氏は昨年5月に韓国で行なった講演でも「重要なのは、日本の要求が死亡した人を生き返らせろということではなく、拉致、失踪事件に対する真相の究明にある点にある」と語っていた。そう言えば、高村外相も昨年10月、記者会見で「拉致した人間がもし亡くなったと言うなら、それが事実であると認識するような責任説明をしてもらわないと納得できない」「(拉致被害者の生存について)はっきりさせるのは北朝鮮の責任だ」と、言っていた。「全員生存、全員帰国」から1歩も、二歩も後退した感が否めない。

 町村官房長官は制裁解除の条件として北朝鮮が「具体的な行動を取る場合」と言っていたが、日本が「何人かの拉致被害者が帰国すれば、進展になりうる」(高村外相)と思っても、「拉致問題は解決した」との立場の北朝鮮が一人、二人であっても「生存者の存在を認める」可能性はゼロに近いのが現状だ。現状のままでは、再調査に応じる、あるいは日朝合同調査に応じるということで制裁を解除するようなことになりかねない。