2009年4月1日(水)

北朝鮮に報復能力はあるのか?


 北朝鮮が打ち上げた「人工衛星」を日本が長距離弾道ミサイルと称して迎撃した場合果たして北朝鮮は報復できるのだろうか?

 朝鮮中央通信は昨日の論評で、北朝鮮が「人工衛星」と称して発射の準備を進めている長距離弾道ミサイルを日本が迎撃した場合、戦争行為とみなし、「最も強力な軍事的手段によってすべての迎撃手段とその牙城を無慈悲に粉砕する」と反発していた。3月9日にも陸海空を束ねる朝鮮人民軍総参謀部が同様の内容の声明を発表していた。

 人民軍総参謀部は声明の中では「平和的衛星に対する迎撃行為に対しては最も威力のある軍事手段により即時に対応打撃で応える」「我が革命武力は躊躇なく投入されたすべての迎撃手段だけでなく、迎撃陰謀を企てた日米侵略者と南朝鮮(韓国)の本拠地に対して正義の報復打撃戦を開始する」と迎撃を「宣戦布告」とみなし、攻撃を加えることを宣言していた。

 北朝鮮の威嚇が単なるハッタリか、実際に行動に移すのか、予測するのは難しい。ただ気になるのは、米韓合同軍事演習を理由に全軍に発令した「戦闘動員態勢」を演習が3月20日に終了したにもかかわらず今なお解除されていないことだ。迎撃に報復すれば、北朝鮮ミサイル基地への米国による猛烈な反撃は避けられず、それに応戦すれば、局地戦争、全面戦争に発展すると想定しているからだ。

 しかし、日本による迎撃は、切り離されたブースターが誤って日本の領土、領海に落下する場合に備えての、国民の生命と安全を守ることを目的とした自衛隊法82条に基づくものだ。「飛翔体」の落下は、厳密に言えば、領土、領海、領空侵犯に該当するので、迎撃は国際法的にも許される。北朝鮮も、そのことは十分に認識しているはずで、従って北朝鮮による報復は、日本が検討している落下物への迎撃を指しているものではなさそうだ。
 北朝鮮が言う報復とは、「人工衛星」が宇宙空間に向かって上昇中に迎撃された場合を指す。例えば、第一段のブースターが切り離される前後にイージス艦のSM−3で「人工衛星」が撃ち落された場合は、報復の可能性は極めて高いと思われる。

 報復の最大の理由は、「報復する」と大声をあげながら、実際に行動に移せないとなると、今後二度と日本や米国、韓国に対して威嚇や恫喝外交が通用しなくなるからだ。同時に米国の軍事的圧力に屈すれば「100戦練磨の将軍様」と喧伝してきた金正日総書記の威信が完全に失墜するからだ。弱腰、臆病とのレッテルを貼られれば、軍をこれ以上掌握するのは困難。へたをすると、軍から見放されます。後継者問題にも影響を及ぼしかねない。

 まして、労働新聞は数日前(3月28日付)に「我々は勝つ」との見出しの長文の「正論」を掲げたばかりだ。「正論」はその中でこれまでの対米外交戦の勝利は「敵が鉄砲を抜けば、我々は大砲で」と、強硬には超強硬で対処してきた金総書記の胆力があったからだと褒めたたいたばかりだ。最高司令官兼国防委員長の威信を保つためにも報復に打って出ざるを得ないだろう。金総書記としては引くに引けない。

 北朝鮮は過去に何度も一触即発の危機を経験してきた。古くは、1966年の「プエブロ号事件」、71年の「EC−121撃墜事件」、76年の「板門店ポプラ事件」から94年の「第一次核危機」、06年の「第二次核危機」と世界最強の米国とチキンゲームを演じてきたが、その都度、北朝鮮は「報復には報復で、局地戦争には局地戦争で、全面戦争には全面戦争で応える」と応酬してきた。

 「報復には報復」という意味は、「やられたら同じようにやり返す」という意味で、迎撃されたら、迎撃したところを同じ手段を使って叩くという考えだ。

 万一に備えたイージス艦による迎撃は、少なくとも北朝鮮の陸地から300km離れた日本海から行なわれる。ということは、海上のイージス艦に向けスカット・ミサイル(300−500km)が使われるものと思われる。仮に、日本本土の基地から迎撃された場合は、その基地に向けてノドン・ミサイル(1000―1300km)が使われることになる。艦艇とIL28爆撃を使えば、射程距離100kmの艦対艦、空対艦短距離ミサイルでのイージス艦への攻撃も可能だ。

 北朝鮮は1984年以来14回ミサイル発射実験を行ってきた。1984年5〜9月にかけてスカッドBを、1990年6月と91年7月にスカッドCを、93年5月にはノドン1号、そして98年8月にはテポドン1号の発射実験を行ってきた。
 韓国に亡命した北朝鮮ミサイル将校の安善国氏によれば、1993年に能登半島に着弾したノドン・ミサイルは「目標物と着弾地点との誤差が半径で500メ−トルと、基準に合格し、1回の実験で試射に成功した」そうだ。大方の予想に反して、精度が高いとのことだ。

 北朝鮮は2006年7月に東海岸でテポドン2号と同時にノドン・ミサイル、スカッド・ミサイルを連続して発射した。また、07年6月には東海岸でKN−02反距離地対地ミサイル発射実験を行い、昨年3月にも西海岸で3発から6発の短距離ミサイル発射実験を行なっている。射程距離46kmの艦対艦ミサイルと見られていますが、誘導弾の性能及び運用能力の向上が目的だったと言われている。

 北朝鮮は2007年4月25日に行なわれた朝鮮人民軍創建75周年の軍事パレードで新型中距離弾道ミサイル(IRBM)を初めて公開した。「先進的な技術を使った全く新しいミサイルシステムである」と言われているこの新型ミサイルは、ソ連が潜水艦発射用として開発したSSN−6モデルを改造したもので、射程距離3000−4000kmとみられている。沖縄だけでなく、グアムまで射程圏内に入ります。新型ミサイルは舞水端里基地に配備されたことから米国は「ムスタン・ミサイル」と命名しているようだ。すでに、昨年に実践配備されたとの情報もある。

 北朝鮮はすでに1000基以上の弾道ミサイルを保有している。昨年4月、英国の世界的軍事コンサルティング業者である「ジェーンズグループが発刊する「ジェーンズ国家別安保評価報告書」によれば、スカッド・ミサイルが600−800基、ノドン・ミサイルなど中距離ミサイルが150−200基、その他50の長距離ミサイルを含め1千基余りのミサイルがすでに実践配備されている。また、最近の米議会調査局の資料によれば、2006年までに20基のテポドン2を生産していると指摘している。

 北朝鮮には報復の能力はあるようだが、後は、本気で報復するかどうか、金総書記の意思にかかっている。