2009年7月18日(土)

骨抜きの国連制裁委員会の個人制裁リスト

 国連安全保障理事会傘下の制裁委員会がやっと、北朝鮮の個人を対象にした制裁リストを発表した。時間をかけた割には、ブラックリストに載ったのはたったの5人とは。それも全員が下っ端。まさに骨抜き制裁と言わざるを得ない。これでは北朝鮮国連代表部の朴徳勲(パク・トクフン)次席大使が「びくともしない」と言うのは当然かもしれない。

 個人を対象にした制裁リストの作成は安保理制裁決議1874に基づくものだ。「決議1874」は対象基準として「核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連計画に関連のある北朝鮮の政策に責任を有している人物」と定めている。

 この選定基準に基づけば、当然北朝鮮の最高権力意思決定機関である国防委員会からリストアップしなければならない。ミサイル発射と核実験を命令した国防委員長である金正日総書紀、「軍の威力を誇示した」と誇った副委員長の金英春(キン・ヨンチュン)人民武力相、そして金総書紀にミサイル発射と核実験を進言した同じく副委員長の呉克烈(オ・グッリョル)党作戦局長のトップ3人は対象となってしかるべきだ。ところが、議論の対象にもならなかったようだ。これでは制裁委員会自らが「決議1874」を形骸化させていることに等しい。

 北朝鮮は4月5日の人工衛星(テポドン)は「金総書紀が発射命令を下した」と、7月8日の金日成主席死去15周年の命日に公然と公言しているにもかかわらず、国連制裁委員会はまるで「君子危うきに近寄らず」とばかり、最初から及び腰だったというわけだ。

 また、核とミサイル開発の実務責任者である軍需担当の全炳浩(チョン・ビョンホ)党書記(軍需工業部長)と同じく軍需担当の朱圭昌(チュ・ギュチャン)党第一副部長の二人も除外されていた。

 全炳浩と朱圭昌の両氏は、4月5日に金総書紀と一緒にミサイル発射を観察した後、科学者、技術者らと記念写真におさまり、自らが核とミサイルの担当責任者であることを隠さなかった。それにもかかわらず国連制裁委員会はブラックリストに載せられなかったわけだ。

 結局、制裁対象となったのは原子力総局の李済善(イ・ジェソン)総局長と黄錫夏(ファン・ソクハ)局長、それに元寧辺原子力研究所の李済善(イ・ホンソプ)所長の3人と、南川江貿易会社と龍岳山輸出組合(朝鮮リョンボン総会社)の代表の5人だけ。サダム・フセイン大統領を含め89人の個人と206人の組織が含まれたイラクのケースとは大違いだ。

 加えて、資産凍結や渡航禁止の対象にされた原子力関係者の3人は海外に資産もなければ、国外に出ることのない科学者らだ。また、原子力総局など新たに5団体が追加され、制裁リストに挙げられている団体は計8団体となったが、「南川江貿易」や、イランに所在する「香港エレクトロニクス」などはすでに米国から制裁されており、これまた新味がない。

 違反しても罰則がないわけだから、北朝鮮から大量破壊兵器を欲しがっているシリアやイランなどは国連の監視の目を盗んで取引できるし、必要とならば、看板を変えたり、衣替えすれば、いくらでも取引ができることになる。

 安保理の対北朝鮮制裁措置としては初めて個人に対する渡航禁止と口座凍結の措置が取られたことから、実効性とは関係なく、大きな象徴性を持つと言われているが、大物をターゲットにしない限り、実効性も、象徴性もない。