2009年3月2日(月)

人工衛星でも国連決議違反の理由


 北朝鮮がテポドン・ミサイルではなく、試験通信衛星「光明星2号」の打ち上げを示唆していることについて米国務省は2月24日、「宇宙発射体であれミサイルであれ、宇宙発射体開発や長距離ミサイルの生産に向けた一部段階は似通っている」として、衛星打ち上げであっても、国連決議に違反するとの見解を示している。

 韓国外交通商部も2日後の2月26日、「ミサイル発射にせよ人工衛星にせよ実行すれば、北朝鮮は国連安全保障理事会決議第1718号に違反する」と北朝鮮に釘を刺した。ミサイルと人工衛星は同じ原理で発射されるもので、技術的に区分することは困難というのが理由のようだ。

 日本政府も訪中した中曽根弘文外相が3月1日、「仮に人工衛星であっても、発射すれば国連安保理決議違反だ」と発言し、米韓両国と歩調を合わせた。2006年10月に北朝鮮が核実験を行った直後に採択された国連安保理決議第1718号は「北朝鮮が弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを決定する」と明記されている。

 具体的には、北朝鮮に対して@核実験または弾道ミサイルの発射を行わない。Aすべてのその他の大量破壊兵器と弾道ミサイル計画を完全で検証可能かつ不可逆な方法で放棄することを要求している。

 この他にもテポドン・ミサイルならば「双方は、ミサイル問題の解決が米朝関係の根本的な改善とアジア太平洋地域の平和と安全に重要な寄与をすることで見解を同じくした。北朝鮮側は新たな関係構築のためのもう一つの努力としてミサイル問題と関連した会談が続いている間は全ての長距離ミサイルを発射しない」ことを約束した2000年10月の米朝共同コミュニケにも、また「北朝鮮は平壌宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降もさらに延長していく意向を表明した」と記した2002年9月の日朝共同宣言にも違反することになる。

 北朝鮮が主張するようにミサイル開発と発射は自主権及び自衛権に属するが、北朝鮮は1987年に発効したミサイル技術統制体制(MTCR)に加盟していない。

 弾道ミサイル拡散を防止するためのMTCRの国際行動指針は北朝鮮など非加盟国がミサイル開発を放棄した場合、その代価を与えることも盛り込まれている。非加盟国である北朝鮮、インド、パキスタン、イラク、リビアなど弾道ミサイル拡散憂慮国を念頭に置き、弾道ミサイル(宇宙発射体)開発プログラム放棄国家に対するインセンチブとして協力措置を講じていることが特徴となっている。

 これら憂慮国が希望する民間宇宙航空技術に対する技術協力や安全保障の提供などについては具体化されていないが、「協力を要請する国家と提供する意思と能力のある国家間の事案別協力を斡旋する」と明記されている。但し、ミサイル問題の透明性を高めるための信頼構築措置としてこの指針を受け入れる国に対して 弾道ミサイル(宇宙発射体)開発プログラムに関する情報を毎年公開することと発射関連情報を事前通告することを規定しています。

 従って、米国は1990年に制定したMTCR履行法に基づきMTCRに加盟しない国家間で射程距離300キロメートル、弾頭重量500キログラム以上のミサイル及び部品を輸出入した場合、双方の国に対して一方的な貿易制裁措置を講じている。テロ支援国指定が昨年10月12日に解除されたにもかかわらず経済制裁が今なお科せられている理由の一つが、北朝鮮がMTCRに加盟していないことにある。

 それだけではない。北朝鮮は「人工衛星」の打ち上げ国が負うべき義務を果たしていない。例えば、1967年に発効した宇宙条約にも調印していない。同条約は発射した物体が他国に損害を与えた場合、打ち上げ国が国際的責任を負うことを定めているが、北朝鮮は条約に加盟していない。従って、北朝鮮のような未加盟国には人工衛星の打ち上げ資格はないというのが米国の主張だ。

 さらに、北朝鮮は国際電気通信連合(ITU)に衛星発射の登録申請をしていない。ちなみにイランは3月2日に人口衛星を打ち上げる前にITUに事前登録していた。事前に登録しないまま、発射すれば、衛星であっても国際法違反となる。ITUは衛星などに使用される周波数分配や調整の役割を担う国連専門機構で、加盟国は衛星発射2〜7年前に衛星周波数、軌道などの計画を登録することになっている。衛星間の衝突を防ぐため事前登録手続きを経て周辺国との意見の調整を得る必要があるからだ。

 北朝鮮は国際民間航空機構(ICAO)にも衛星やミサイル発射計画を通報していない。北朝鮮はICAOには加盟している。加盟国には飛行中の他国の民間機に危害が及ばないよう空の安全を保障する義務がある。まして、日本の領空を飛来すれば、領空侵犯となる。

 ところが、北朝鮮はこうした国際社会の憂慮、批判に対して完全無視を決め込んでいる。金明吉駐国連公使は「国連安保理決議第1718号を認めていないし、念頭にもない」と言っていた。北朝鮮のウエブサイド「我が民族同士」(2月28日付)は、国際社会の憂慮に対して「一考の価値」もないと報じていた。

 北朝鮮の「衛星発射」が国連の制裁決議の違反となり、新たな制裁決議が科せられるかどうかは、中国及びソ連の対応にかかっている。しかし、中国は日中外相会談の場で「地域の平和と安全を脅かす行動をとるべきではない」と暗に北朝鮮に自制を伝えたと報じられていたが、「国連決議違反」であるとの中曽根外相の見解に対しては明確な認識を示さなかった模様だ。

 北朝鮮は1月23日に訪朝した王家瑞・中国共産党中央対外連絡部長に対してもまた、2月17−19日にかけて訪朝した武大衛外務次官に対しても「心配にはおよばない」「脅威とはならない」と答えたようだ。

 また、ロシアに対しても最近、北朝鮮大使がロシアの外務次官との会談で同様の発言を行ったと伝えられている。ちなみに、ロシアは2001年7月に当時プーチン大統領が訪ロした金正日総書記との間で交わした「ロ朝共同宣言」の中で「北朝鮮のミサイル計画は平和的計画を帯びており、北朝鮮の主権を尊重する国には脅威とならない」と、北朝鮮のミサイル開発を擁護していた。

 日米韓3国が人工衛星であっても「国連決議に違反する」との立場から北朝鮮に自制を求めているものの、中ロが曖昧な態度どころか人工衛星ならば黙認するとの立場を取っており、また国連も先般のイランの人工衛星に対して非難決議も制裁決議もしなかったことからどうやら北朝鮮は既定方針とおり、ミサイル発射を強行する構えのようだ。