2009年3月26日(木)

「人工衛星」を発射する朝鮮宇宙空間技術委員会とは?


 北朝鮮が公言したとおり、独自開発したロケット「銀河2号」で試験通信衛星「光明星2号」の打ち上げに成功した場合、運搬ロケットの性能と、推進燃料の開発、衛星に使用される部品及び衛星管制能力などが改めて注目されることになる。人工衛星の打ち上げには、多段式(三段式)ロケットのブースター分離技術、固体(固形)燃料をエネルギーにしたロケットエンジン、数千度の高熱に耐えられる特殊金属やセラミック素材の製造技術等先端技術を要するからだ。実際に人工衛星を独自開発できる技術を保有している国は世界には20数カ国しかない。

 運搬ロケットの推進には固形燃料と液体燃料が使用されるが、前回の「光明星1号」の時は、第一、第二段には液体燃料が、そして最後の3段目には固形燃料が使われていた。液体燃料と違い、固形燃料を使用する場合は、ロケットを発射台に立てる必要がなく、移動も可能で、発射までの時間も大幅に短縮される。そのため大陸弾道弾ミサイルなど軍事用には多くは固形燃料が使われている。今回、発射台に燃料を積んだタンクローリが見られないことから、独自に開発してきた固形燃料を使用するのではとの観測も出ている。
 また、人工衛星に使用される部品は極限の温度差や無重力状態に耐えられる精密性と強度が求められるが、現在の北朝鮮の軍事化学技術ではこうした部品の独自開発には限界があるとみられている。

 さらに、地球軌道を旋回している様々な人工衛星と軌道が重複しないよう固有の軌道を探す技術力も人工衛星開発に必要な分野だが、北朝鮮がこうした技術を保有しているのかも疑問視されている。

 人工衛星は当然のことだが、科学者、技術者らエキスパートがいなければ、実現できるものではない。労働新聞は1998年8月の「光明星1号」(テポドン1号)の試射の後、「金正日同志の指導で創設され、育成されてきた」と伝えていたが、それが、まさに「4月4−8日までの間に人工衛星を打ち上げる」ことを公表した「朝鮮宇宙空間技術委員会」だ。

 「朝鮮宇宙空間技術委員会」の存在が公になったのは、11年前の1998年8月31日のテポドン・ミサイルの時。北朝鮮の対南宣伝放送機関である「韓国民族民主戦線」が3か月後の1998年11月、「朝鮮の衛星が(地球を)正常に回っている」との番組放送の中でこの委員会が、労働党と内閣の指導を受け、ミサイル、運搬ロケット、衛星などの研究開発、製作、実験などを主管していることを明らかにした。

 また、それよりも1ヶ月前の10月25日、中国の人民日報が発行する国際週刊誌「環球時報」に「光明星1号」の発射に携わった同委員会の金鍾成技術局副局長ら専門家3人らの平壌特派員によるインタビューが掲載されたことがあった。ところが、同盟国である中国の記者であっても写真撮影も録音も一切許可しなかった。

 インタビューで金副局長は、北朝鮮が80年代初期に衛星発射に使用される3段階ロケットを開発したこと、90年代初めにはすでに衛星発射のための一切の準備作業を完了していたこと、さらに、「先端技術専門人材の育成、発射場の建設、運搬ロケット及び搭載衛星に必要な技術と設備などを完全に自力で備えた」と誇らしげに語っていた。

 このインタビューから5日後の1998年11月30日、「光明星1号」の発射に貢献した科学者160余人が賞状され、学位を授与されているが、中でも科学院土の肩書きを持つ権東煥、姜海哲、金幸京博士ら3人を含め7人が「英雄称号」を授与されていた。そして、彼らのトップに立つ人物が、金総書記の科学部門の諮問役として知られる徐相国博士だ。
 徐博士は、北朝鮮国内では「科学の天才」として知られる人物で、ソ連留学中はあまりの優秀さに驚いた指導教官が、ソ連に留まるよう説得したとのエピソードがあるほどの秀才だった。

 帰国後、徐博士は国防科学院研究士を経て、金日成総合大学物理学部講座長に就任した。また、1966年には「金日成勲章」を受章されている。

 今回使用される運搬ロケット「光明星2号」はテポドン・ミサイルを改良したものと推定されているので、仮に宇宙軌道への侵入に成功すれば、北朝鮮は米本土に達する長距離弾道ミサイルの開発能力を保有することになる。長距離弾道ミサイルは弾頭に小型核兵器を搭載できるので「人工衛星」の打ち上げに成功すれば、核を運搬する戦略的手段を手にすることになる。