2010年4月14日(水)

韓国哨戒艦沈没事件の全容

 韓国海軍所属の哨戒艦が沈没した事件は、まだ原因が解明されていないが、仮に北朝鮮による犯行ならば、韓国政府は1983年のラングーン爆破事件、1987年の大韓航空機事件に匹敵するテロ事件とみなし、断固対処する方針を固めている。

 韓国政府は、軍事報復以外の政治、外交、経済的懲罰を検討しているが、渡り蟹漁のシーズンとなる5月から6月初旬にかけては1999年、2002年と過去に二度海戦が勃発しているため、現場の軍の対応次第では軍事衝突の危険性もなくはない。

 今回の韓国哨戒艦沈没事件がどういう展開となるのか、検証してみる。

 ▲事件発生

 3月26日午後21時20分頃、海軍哨戒艦「天安艦」(全長88m、1200t、乗組員104人)が原因不明の沈没。1、2分で艦尾が海底に沈む。現場の水深20〜30メートルほどでそれほど深くない。死者・行方不明者46名。生存者58名。  

 ▲発生当時の状況

 @船体の後方スクリュー部分に穴が空いて浸水している。
 A短時間に哨戒艦が真っ二つに折れる。
 B船体内で起きたミスあるいは暗礁との衝突など単純な事故による可能性は低い。
 C「天安艦」の乗組員で生存者の一人は3月27日、事故説明会の場で「船の内部爆発や、座礁した可能性はない」と内部事故を否定。「天安艦」と同級の軍艦に乗船していた海軍将校も、「内部事故の場合、機関爆発や魚雷爆発の可能性が高いが、沈没する軍艦の状況から機関爆発でもない。魚雷爆発の場合は連鎖的に爆発が起こるが、そのような様子も見られなかった」と話し、外部から何らかの衝撃があったものとの見方を示した。
 D過去に韓国がばら撒いた機雷で回収できなかったものか、米韓連合軍の合同訓練への警戒感から北朝鮮側がまいた機雷が流れてきた可能性もある。そのため、3月28日に開かれた青瓦台の安保関係閣僚会議では「機雷により沈没した可能性が最も高い」と推定された。
 E事故翌日の3月27日から救助に当たっている救助隊員の証言から、二つに割れた哨戒艦の断面が滑らかな一直線であることが明らかになった。造船技術関係者によると、老朽で溶接面が割れる場合があり、その場合、接合部分が切断したように一直線になる可能性があると指摘していた。
 韓国メディアは67年前の第二次世界大戦当時、アメリカのタンカーT−2Tankerが停泊中に二つに割れた事故や、1998年に貨物船がオランダからカナダに向かう航海中に船体の中央から2つに割れて沈没した事故を「疲労破壊」の事例として取り上げ、疲労破壊の可能性もあると報じた。
 哨戒艦「天安」は1989年から任務に当たっており、99年南北交戦当時に後尾を爆撃されたこともあるが、人命被害等はなかった。普段から水漏れがあり、3回ほど修理に出されたことも判明している。加えて「天安艦」の頻繁な出港などで疲労が重なっていたことから瞬時に破壊・沈没したのではとの見方も出た。
 F爆発が起きた直後の21時25分頃、「天安艦」の艦長(チェ・ウォンイル中佐)は第二艦隊司令部への一報で「攻撃された」と報告。21時28分に第2艦隊司令部に救援を要請。21時32分に高速艇5席が現場付近に到着し、救援活動が始まる。この時点で生存者が58名いることが確認された。
 G第二艦隊司令部は26日夜、「天安艦」沈没後に海上警戒態勢をA級に格上げ発令し、現場のペクリョン島から南側34km離れたテチョン島付近で警戒中の束草艦(1200トン)を21時42分、北方限界ライン(NLL)南端に前進配置した。
 H現場に接近した「束草艦」は22時40分頃(56分との説もある)、射撃統制レーダー上に42ノット(時速75km)の速度で北上する未確認物体を捕捉。「束草艦」は逃走する「未確認物体」を北朝鮮の艦船と判断し、第二艦隊司令部から発砲許可を得て、午後23時から5分間にわたって射程距離12kmの76mmの艦砲を130発発砲した。76mm艦砲は自動操縦で命中率が高いが、当たらなかった。

 ▲潜水が難しい地点

 ペクリョン島一帯は水深が浅い。魚や蟹を獲る網が仕掛けられていて一歩間違えると網にかかると座礁する。1998年に北朝鮮の潜水艇が東海岸の江陵沖で網に絡み座礁した経緯がある。

 ▲救援艦「束草艦」が発砲した謎?

 韓国軍合同参謀本部は26日には「北朝鮮の艦船と推定される物体を砲撃、消失させた」と発表。しかし、27日には「鳥の群れがレーダーに写ったのを北朝鮮の舶と間違い、発砲してしまった」と訂正。しかし、4月1日は再びこの「北上する物体」を「北朝鮮の艦艇であると判断した」と発表。

 当時ペクリョン島の空軍レーダーには鳥の群れは映ってなかった。75kmの速度も速すぎる。鳥は北上する時期だが、鳥の速度は60km程度だ。

 ▲爆発規模について

 韓国地質資源研究院の資料によると、爆発力については、地震波で計算された爆発規模はTNT(通常火薬)で180kgと推定された。機雷と魚雷が船の水深10m地点で爆破されたと仮定して、空中波規模で計算した場合は、地震波のそれよりも44%も強力なTNT260sに該当。空中音波の場合、現場から177km離れた金浦でも21時30分41秒、220km離れた江原道の鉄源でも21時32分53秒に観測された。

 従って、魚雷の攻撃ならば、軽ではなく、重量の魚雷の可能性が高い。北朝鮮の半潜水艇は搭載可能な魚雷の弾頭は50kg程度。しかし、サメ級の小型潜水艦(300トン級)ならば、最大で300s、水深30メートルでも可能とされている。

 軍当局は残骸から火災の痕跡がないことから内部爆発の可能性はないと判断している。しかし、沈没の原因は外部爆発か、外部の衝撃によるものか、明らかでない。

 機雷や魚雷の可能性はあるが、火薬の臭いがせず、爆発とみるには衝撃度が弱いとの見方もある。「天安艦」が積んでいた魚雷が流出し、爆破したとのではとの主張もあるが、軍当局は否定している。

 ※生存乗組員の証言では、沈没に先立ち「ドカーン、ドーン」と爆発が2回あり振動で体が浮いたというが、ブリッジで夜間前方監視に当たっていた当番兵によると機雷や魚雷などに見られる水柱は確認できなかったという。

 ▲金泰栄国防長官の発言

 3月29日(国会国防委員会で)

 「政府も国防部も北朝鮮の介入可能性がなかったと言ったことはない」

 4月2日(国会国防委員会で)

 「3月24日から27日まで北朝鮮の3か所のうち1箇所ではっきり確認できなかった潜水艇が2隻あった。しかし、その地域は、事故現場からは随分離れていた。北朝鮮の潜水艇は速度が遅い機種で、米国の最新潜水艦のように長い間、潜水する能力もない」

 「過去北朝鮮軍は3千発の機雷を使用した。我々も1975年に(敵の)上陸を防ぐため機雷を設置したことがある。専門家らは1950年代の北朝鮮の機雷が爆破した可能性はないとみている。我々が設置した機雷も除去されており、爆破の可能性はない」

 「機雷と魚雷とも可能性はあるが、魚雷のほうが実質的ではないかと思っている。但し、ソナー担当兵は魚雷の接近は確認できなかったと言っている」

 ▲金鶴松国家国防委員会委員長の発言

 3月31日(記者会見で)

 「関係機関に確認した結果、北朝鮮のキリン島の海軍基地から半潜水艇4隻が動いていた」

 4月5日(記者会見で)

 「北朝鮮側は黄海南道のビパッコ基地からサメ級潜水艦(325トン)2隻が23日6回、24日3回、26日1回出入りしていた。しかし、潜水艦がどこへ行き、どのような活動をしていたのか完全にはわかってない。事件当時の26日は、潜水艦1隻が基地と交信していたことが確認されている。しかし、他の1隻については事件当時の行方はわかってない」

 「哨戒艦の下の部分は溶接部分に沿って切り落とされているが、上の部分は鉄板が割かれた状態になっていた。この破壊力をみれば、疲労破壊ではなく、魚雷か機雷によるものというのが軍の説明である」

 「魚雷の場合、ソナー(音探知機)を通じた発見の可能性は水深30メートルでは探知確率は70%以上あるが、軍艦のエンジンの音を聞いて、追尾する新型音響感応魚雷は探知がとても難しい。北朝鮮はこれを持っていると軍はみている」

 ▲元世勲国家情報院院長の発言

 4月6日(国会情報委員会で)

 「米国と情報を共有しているが、事故前後に北朝鮮に特異動向はなかった」

 ※「特異動向」は衛星探知や傍受では把握されなかった。

 「北朝鮮の関連性の有無を断定することは困難だ」

 「仮に北朝鮮がやったなら、海軍部隊や偵察局の単独ではないはずで、金正日総書記の承認なくしては不可能だ。今回はそうしたことに関連する動きはなかった」

 ▲李明博大統領の発言

 4月1日(青瓦台でハンナラ党議員らとの会食の場で)

 「証拠もなく、(北朝鮮関連説)を言えば、ロシアや中国など周辺国から証拠を出せと言われれば、どうするのか。北朝鮮の機雷も沈没の可能性の一つに過ぎない。一方的に推測するのはよくない。予断を持たず、科学的で客観的な証拠を持って言わなければならない」

 「私は船を造ったことがあるから知っているが、波で折れることも、高波から急落下して簡単に壊れることもある。事故の可能性もある」

 「私も最初は鳥の群れをみて撃ったと聞いておかしいと思ったが、当日は北に向かっている鳥も、また南に向かっている鳥もいたそうだ。鳥の群れが多かったと聞いている」

 4月2日(青瓦台でハンナラ党幹部らとの定例会合の場で)

 「北朝鮮と国際社会が見ているのでこのような事件を契機に冷静に原因を調査し、国家の力量を高める契機にしなければならない。G20の国家である我々も事前予断することなく、正確に事故の原因を待つ成熟した国家の姿を示さなければならない」

 「現場に行ってみたが、こっちとあっちでは気温も違い、風邪も強く、温度差も著しい。波はないと聞いていたが、随分と揺れた」

 4月7日(大韓老人会会長らとの午餐の場で)

 「適当に原因を調査して、発表したら罪を犯した者が認めないかもしれない。先進国の専門家と国連まで加えて調査を徹底的に行い、事故原因については誰も否認できないようにしたうえで、政府は断固とした措置を取る」

 「南北が分断している国境の下で起きた事件なのでより鋭敏で、多くの国々が関心をもってこの事件を鋭意注視している」

 ※「罪を犯した者」とは北朝鮮を指しているのではとみらえている。

 ▲鄭夢準ハンナラ党代表の発言

 4月7日(最高重鎮連席会議の場で)

 「沈没に北朝鮮が関わっているのかわかるのにそんな時間はかからない。北朝鮮の仕業とわかった場合の対応策を今から考えておかなければならない」

 ※鄭代表はある種の物証を根拠にこの種類の発言をしたのではないかとみられている。

 ▲野党自由先進党のパク・ソンヨン議員の発言

 4月2日

 「政府は4月の南北首脳会談のため真実を隠蔽、縮小しようとしている」

 「軍当局は北の犯行とみなしているのに青瓦台は事件初日から『北朝鮮との関係ははっきりしない』と北朝鮮の可能性を徹底的に遮断している」

 「事故発生後、近くにいた束草艦が水没した兵士の救助をせず未確認物体を追跡し、撃破射撃をしたことは戦時作戦に突入したからである」

 「束草艦には潜水艇や半潜水艇を追跡する対艦レーダーはあるが、空を飛ぶ物体(鳥)を追跡し、確認する対空レーダーはない」

 ▲野党民主党の要求
△引き上げ後に切断部分を公開すべきである。
△海軍戦術指揮体系の記録を公開すべきである。
△沈没船TOD動画部分を公開すべきである。
△生存者に証言させるべきである。
△交信日誌を公開すべきである。
△引き揚げ後の第一次調査に民間と国際専門家を加えるべきである。

 ▲交信日誌を公開しない理由

 「天安艦」は海軍第二艦隊司令部と交信していた。金泰栄国防長官は3月31日「交信日誌は今回の事件と全く関係のない作戦状況も含まれているので、そのまま公開するのは難しい。私が直接確かめてみたが、当時の状況を正確に究明する核心的な内容はなかった。ただ、一部状況を推定できる内容は含まれていた」と語った。また、イ・ギシク合同参謀本部情報作戦次長は「交信日誌は軍事作戦と関連したすべての内容が含まれている軍事機密である」と公開できない理由を説明した。

 ▲人民軍偵察総局の犯行か?(韓国軍当局の話として世界日報が10日報道)

 「偵察総局長は人民軍上将のキム・ヨンチョル。実行は海軍8戦隊司令部が遂行した軍事作戦ではなく、偵察局の犯行である。作戦は南浦海岸の下に位置するピパコッ潜水艦基地。金上将は第3海戦後の昨年11月13日、韓国側に通知文を贈り、無慈悲な軍事報復を示唆していた」

 「根拠の一つとして、天安艦沈没後、北朝鮮側に特別な動向がみられなかったということは、潜水艦を利用したからである。北朝鮮は3度の交戦で韓国の海軍を圧倒できないと判断し、西海8戦隊司令部ではなく、偵察局を使ったのではないかとみられる」

 ※元世勲国家情報院長も4月6日、国会情報委員会で「仮に北朝鮮がやったなら、偵察総局がやったかもしれない」と言っていた。

 ▲北朝鮮の沈黙

 北朝鮮は事件発生以来、公式立場を一切表明していない。過去の立場とは好対照。南北交戦があった1999年と2002年の時は素早い反応だった。2002年の時は5時間35分後に「南朝鮮(韓国)軍が西海上で我が人民軍警備艦に総砲撃を加え、厳重な軍事挑発を行ったので自衛措置を取った」との声明を出した。また、昨年11月10日の第三次海戦でも衝突から4時間53分後には「最高司令部の報道」を出して、「南朝鮮海軍が我が領域で厳重な軍事挑発を行った」と批判していた。 

 しかし、その一方で、内部的に人民武力部は4月4日に「沈没の原因を我々に結び付けようとしている」として全軍に警戒態勢を敷くよう命令を出しているようだ。

 ▲沈没艦の引き揚げ時期

 艦尾は4月15−18日の間 艦首は4月23−26の間

 ▲軍の発表に関する世論調査(ハンギョレ新聞の調査、4月10日)

 「信用できない」(59.8%)「信頼できる」(34.9%)

 ▲合同調査で原因究明

 韓国国防部が英国政府とオーストラリア政府に合同調査への参加を打診したところ、両国が参加の意思を伝えてきたと明らかにした。

 英国とオーストラリアの専門家らは、爆発音とともに船体が二つに割れた原因を分析するシミュレーション作業や破片の精密分析作業などに参加する予定。

 国防部は、李明博大統領が国連に合同調査への支援を要請するよう指示したことを受け、国連加盟国のうち関連技術と専門家を有する国に支援を打診。

 米国は5日に海上兵器分析要員、海上遭難分析要員、爆薬専門要員らの派遣を約束した。

 政府はまた、合同調査終了後、国連関連機関や海上事故に関する調査技術の水準が高い先進国に調査結果の検証を依頼する案も進める計画だ。