2013年4月12日(金)

劇的妥協か、それとも見切り発射か!

 北朝鮮のミサイル発射をめぐる米朝の睨みあいが続いている。

 北朝鮮がムスダンミサイルを日本海に面した東海岸の基地に移動させてからほぼ1週間。9日は金正日国防委員長就任20周年、11日は金正恩第一書記就任1周年、13日は金正恩国防委員長就任一周年、そして15日には金日成主席生誕日と北朝鮮の記念日が続いていることから、北朝鮮がどのタイミングで発射しても不思議でないとして、日米韓3か国は今か、今かと、イージス艦などを配備し、警戒している。

 北朝鮮は昨年の人工衛星と称するテポドンの発射の際には事前通告したが、今回は、事前通告どころか、東海岸へのムスダンミサイルの移動すら認めてない。ところが、昨日、対韓宣伝機関である祖国平和統一委員会の名で「ミサイルが発射待機状態にあり、その目標座標が米本土及びグアムなど米軍基地である」ことを明らかにした。

 発射するのか、しないのか、すべては最高司令官である金正恩氏の胸三寸であるが、気になるのはその金正恩氏の動静だ。4月1日に開かれた最高人民会議への出席を最後に忽然と姿を現した。

 金第一書記の公式活動が10日以上途絶えたのは過去2か月間でたった一度しかない。2月3日の党中央軍事委員会拡大会議出席から16日の金正日総書記誕生日の宮殿参拝までの13日間だ。そして、この期間、即ち12日に3度目の核実験が行われている。

 金正恩氏だけでなく、軍首脳らの動静にも異変が起きている。9日の金正日総書記の国防委員長就任20周年の記念行事にも、昨日(11日)行われた金第一書記就任一周年の記念大会にも政治局常務委員の崔龍海軍総政治局長、政治局委員候補の玄永哲軍総参謀長、金格植人民武力相ら軍トップスリーが出席していないことがわかった。9日の行事は、金正日国防委員長就任20周年行事であるにもかかわらず金正恩氏の叔父にあたる張成沢氏を含む4人の国防副委員長らも全員欠席していた。

 考えられるのはただ一点、軍首脳らが平壌の地下バンカーにある最高司令部室に金正恩氏とともに行動を共にしている可能性だ。正恩氏専用列車が平壌から東方面に移動したとの情報も流れていることから、一説では、ミサイル発射に立ち会うのではと囁かれているが、万一の場合、攻撃の対象になりかねない危険地域に金正恩氏が入ることはあり得ないのではないだろうか。いずれにせよ、最高司令官の金正恩氏の手がミサイルの発射ボタンにかかっていることは間違いない。それでも、ボタンを押さないのは、米国からの最終回答を待っているものとみられる。

 米国と北朝鮮との間には、「ニューヨークチャネル」と呼ばれる意思疎通のラインがある。デービース北朝鮮担当特別代表と北朝鮮の韓成烈国連公使との間のホットラインで、今も、危機を回避するための交渉が断続的に行われている。

 米国は当初、「悪事を重ねる北朝鮮とは交渉を行わない」との立場を堅持していたが、北朝鮮が4月2日に封印した核施設への再稼働を表明したことから徐々に態度を変え始めた。
 これ以上、北朝鮮を刺激するのは得策でないとの判断から北朝鮮を牽制するため米韓合同軍事演習に参加させたステレス戦闘爆撃機F−22のマスコミへの公開中止を皮切りにカリフォルニアで予定されていたICBMの発射実験の延期、ペンタゴンで予定されている米統合参謀本部議長と韓国合同参謀本部議長の協議の延期、さらには米韓合同軍事演習のハイライトであった9日の上陸作戦のマスコミへの公開も中止した。

 さらには、「北朝鮮を孤立させる」として国連で北朝鮮制裁決議を主導したライス米国連大使も4月6日、「北朝鮮の挑発行為は想像を超えている」と危機感を露わにしたうえで「米国は北朝鮮を攻撃する考えはない」と、事態の鎮静化に乗り出している。

 北朝鮮の「想像を超える挑発」に米国は今では、挑発を止めれば、即ちミサイル発射を自制すれば、北朝鮮との交渉に応じる用意があると、対話、交渉のハードルを下げている。
 韓国もまた、北朝鮮が不可侵宣言の破棄に続く、開城工業団地の閉鎖、そして韓国滞在の外国人の避難勧告などの「脅し」が株の下落など経済に悪影響を及ぼしていることや国民の間に不安が広まっていることから、柳吉在統一部長官、さらには朴槿恵大統領までが北朝鮮に対話を呼びかけている。柳統一部長官にいたっては「北朝鮮が提案する事案も協議する用意がある」と発言し、譲歩まで示唆している。

 今日からケリー国務長官がソウル、北京、東京を相次いで訪問し、北朝鮮問題を協議する。おそらく、ニューヨークチャネルを通じて出された北朝鮮の条件も話し合われるだろう。

 ケリー氏は15日には帰国し、オバマ大統領に報告するが、米国の対応次第では、妥協が成立し、ミサイル発射騒動が劇的に収拾する可能性もある。

 その一方で、オバマ政権からの回答が不満なら、16日にもボタンを押す可能性も多分にある。14日に行われる平壌マラソンなど一連の金日成生誕行事は15日に終わり、16日には外国人訪問者はこぞって帰国することになっている。

 米朝の対立は最終局面に入ったが、土壇場で劇的な妥協が図れるのか、それとも見切り発車となるのか?どうやらケリー国務長官がその鍵を握っているようだ。