2013年8月26日(月)
北朝鮮の柔軟変化は戦術転換か、路線転換か
 「朝鮮半島の分岐点となる」位置付けていた8月にやはり注目すべき変化が起きている。
 一つは、北朝鮮が韓国との対話、関係改善に積極的に乗り出していることだ。
 注目されていた開城工業団地の再開問題は7度目の交渉の結果、電撃合意した。
南北共に譲歩した結果と評価されているが、貴重な収入源を失いたくないとする北朝鮮側の逼迫した
経済事情が反映した結果でもある。そのことは、朴槿恵大統領が8月15日の光復節演説で呼びかけた
南北離散家族の再会に応じることを条件に5年間途絶えている金剛山観光事業の再開を提案したことからも頷けられる。
 金剛山事業は李明博政権下の2008年7月の韓国人観光客射殺事件で中断したままだが、
順調だった07年には韓国人観光客は35万人に達し、北朝鮮は入山料だけで年間2038万ドルの収益があった。
開城工業団地の労働者5万3千人の賃金収入8000万ドルを加えると、北朝鮮はこの二つの事業の復活だけで
年間1億ドルの外貨が手に入る。
 開城工業団地の再稼働に続き9月には離散家族の再会(25−30日)も実現することになったが、
金剛山事業も北朝鮮が韓国側の要求事項(責任を認め、謝罪し、再発防止を約束する)に応じれば、
10月には再開されるかもしれない。
 もう一つの変化は、8月19日から実施されている韓国で実施されている
「乙支フリーダム・ガーディアン(UFG)」と呼ばれる米韓合同軍事演習に北朝鮮が異例にもさほど反発していないことだ。
 北朝鮮はこれまでUFGを非難し、それなりの対抗措置を取ってきた。特に、昨年は金正恩第一書記が
「我慢にも限界がある」として、全面的な反攻撃戦に向けた作戦計画を検討し、署名した経緯がある。
 しかし、今年は、音なしの構えだ。25日の「先軍の日」の記念日前日に行われた中央大会での
崔龍海軍総政治局長の演説でも一言の言及もなかった。それもこれも、米国との直接交渉を望んでいるからにほかならない。
 その米国は、北朝鮮に囚われている米国籍の韓国人の釈放のためオバマ政権が近く政府高官を
派遣することを検討していると伝えられている。また、注目のカーター元大統領が来月9日の北朝鮮の建国記念日に
合わせて訪朝するとの情報もある。
 米政府高官が、人権問題を担当するキング特使になるのか、定かではないが、
中国も先の米中国防相会談で常万全国防相がへ―ゲル国防長官に対して「核問題を解決するには今が絶好の機会だ」
として北朝鮮との対話を強く促していることもあって、北朝鮮の核問題での対応次第では、米朝協議が再開される可能性も出てくる。
 日本にとっての関心事である拉致問題をめぐる日朝の動きは、5月に訪朝した飯島勲内閣官房参与は参議院選挙後に
「第二幕が開き、9月中旬頃には(拉致問題で)大きな進展がある」との見通しを語っていたが、今のところ変化は見られない。
 唯一、動きがあったのは、朝鮮総連本部の競売が予定よりも遅れて、10月上旬(3〜10日)
に再入札が行われ、22日に落札されることになったことだ。
 北朝鮮が拉致問題と総連本部の競売問題をバーター取引する考えならば、これまた来月には
何らかの肯定的な変化が見られるかもしれない。
 北朝鮮による一連の変化が単なる戦術の転換によるものか、それとも路線、戦略の転換によるものか、
今後の情勢は大きく変わってくる。
 崔龍海軍総政治局長が上述の演説で3月に党中央委員総会が決めた核抑止力強化と経済建設を同時に進める
「平進路線」について一言も触れなかったことから路線を転換したのではとの楽観論も一部にはあるが、
「先軍の日」の25日に開かれた党軍事委員会拡大会議では「国の自主権と安全を強固の守り、
党の先軍革命偉業を進めるうえでの指針となる重要な決定」が下されている。
 重要な決定の内容については明らかにされてないが、金正恩第一書記が出席した会議では
「革命武力の戦闘力を一層高め、国の防衛力を強化するための実質的な問題」が話し合われたとのことだ。
 今年2月3日に開かれた同じ党中央軍事委員会拡大会議では「国家の安全と自主権を守る上での
綱領的な指針となる需要な結論を下したとして、9日の後の12日に3度目の核実験を強行している。
 戦術転換なのか、路線の転換なのか、もうしばらく様子を見る必要がある。