2013年7月19日(金)

  不可解な「北朝鮮貨物船臨検事件」

 

   キューバから出港した北朝鮮の貨物船「清川江号」がパナマ運河で臨検でされ、 ミサイルや関連部品、さらにはミグ21戦闘機など兵器が発見された事件は、拿捕したパナマ政府が 国連安保理に調査を依頼したことで北朝鮮対国連の図式に取って代った。

   北朝鮮の貨物船が制裁決議に反するかどうか、仮に違反行為が明らかになった場合に北朝鮮と キューバ両国に科せられる制裁措置などすべては安保理に委ねられることになる。

   北朝鮮とキューバ両国は、新たな武器の輸出入ではなく、旧式武器の修理のための移送であると 主張しているが、修理の名目であれ、旧式であれ何であれ、北朝鮮には武器の搬出、取引そのものが 禁じられていることから両国の弁明が認められる可能性は極めて低い。

   荷揚げした北朝鮮船員らも、「違法行為」であることを認識していたからこそ、積み荷をパナマ当局に 申告せず、かつ砂糖袋の下に隠したのだろう。また、パナマ海運当局の立ち入り検査に激しく抵抗し、 阻止しようとしたことが隠蔽の証と言えなくもない。

   それにしても、この事件には解せないことが幾つかある。

   パナマ当局は、「清川江号」が麻薬を運んでいるとの情報を得たので臨検したとところ、 武器等が見つかったと主張している。麻薬が臨検の理由なら、「清川江号」がキューバに 向かってパナマ運河に入った6月1日の時点で停船を命じ、臨検してしかるべきだ。

   おそらく、麻薬の疑いは口実で、この貨物船がキューバから武器を運んでいることを キャッチしたうえでの臨検であろう。想像の域は出ないが、米政府が素早い反応を見せたところをみると、 武器運搬情報はおそらく米国から持たされたのだろう。案の定、貨物船の中から麻薬は発見されなかった。

   北朝鮮が武器の運搬のため麻薬密輸で「前科」のある貨物船を使用したことも解せない。 米国などから「要注意の船」「怪しげな船」とマークされている船を使えば、それも国交のない、 親米国パナマの運河を通れば、臨検にあうことは素人にもわかることだ。

   さらに、貨物船がキューバに入港したその日にハバナで金格植軍総参謀長率いる人民軍代表団が ラウル・カストロ議長に会い、両国の軍事協力の強化の必要性を強調していた。  まして、代表団の中に李炳哲防空司令官が含まれていれば、戦闘機やミサイル関連の取引が あると睨まれてもおかしくはない。これだけの状況証拠が揃っているのに、米国の監視の目をくぐって、 パナマ運河を取れると思っていたとしたら、北朝鮮は間が抜けているとしか言いようがない。

   本当に、北朝鮮外務省が主張するようにミグ21戦闘機や地対空ミサイルSA−2の修理が目的ならば、 技術者をキューバに派遣すれば済む話である。それにもかかわらず、拿捕、押収されるリスクを 犯かしてまでも貨物船を使用して、運搬しようとしたのにはやはり他の目的があったとみるべきであろう。

   一説では、ミサイルの部品不足に困窮している北朝鮮が部品調達のためキューバの旧式ミサイルなどを安価で買って、 再利用することが狙いとの見方も出ているが、北朝鮮は今ではミサイルの部品も自力で開発、 調達できる能力を有している。テポドン2号、3号、さらにはグアムを射程に収めた ムスダンミサイルや米本土に到達可能な3段式長距離ロケットKN−8を開発している北朝鮮が ミサイルの問題でキューバに依存することはあり得ない話だ。

   現に、地対空ミサイルをとっても、SA−2(射程距離48km)だけでも1000基保有しており、 さらに改良型のSA−3(13〜35km)、SA−5(射程距離260〜300km)、 SA−7(最大距離3.7km)も保有している。SA−16(4.5km)は 北朝鮮が独自に開発した弾道誘導ミサイルである。この他に地対空ミサイルと AA−8,AA−11空対空誘導弾も保有している。

   そうすると、今回のミサイル運搬の狙いは、SA−2など旧式ミサイルの改良にある可能性が高い。 キューバにそうした技術と設備がないため北朝鮮に運ぶことになったのではないだろうか。

   パナマ政府の要請に応じて、国連調査団が8月5日にパナマに入り、調査を行うが、その結果を待ちたい。