2013年7月4日(木)

 北朝鮮がめまぐるしく動いている。

  ブルネイで開かれたASEAN地域フォラーム(ARF)に朴宜春外相を派遣し、 活発なロビー外交を展開する一方で、2日には中国に金正日総書記の中国語専属通訳 だった金成男党副部長(国際担当)を派遣した。

  金成男副部長は、先月崔龍海軍総政治局長に随行して訪中したばかりだ。 訪中目的が6か国協議再開に向けての意見調整なのか、 7月27日の朝鮮戦争休戦協定60周年(戦争勝利記念日)式典への 中国首脳の出席要請なのか、それとも金正恩第一書記の訪中打診なのか、定かではない。

  また3日には金桂寛第一次官をロシアに派遣した。

  金桂寛第一次官はチトフ第一外務次官、モルグロフ外務次官らと会談し、 北朝鮮が唱える6カ国協議の無条件再開への協力を呼びかけるものとみられる。 無条件再開に同調した中国に続き、6か国協議のメンバーであるロシアの支持を取り付け、 北朝鮮による非核化への行動が前提条件とする日米韓を圧迫する考えのようだ。

  そして、昨日突如、韓国に対して開城工業団地に進出している韓国側企業と 開城工業地区管理委員会関係者の訪朝を認める意向を伝えてきた。

  朴槿恵大統領の訪中での発言を問題視し、1日に対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会が 朴大統領を名指し批判してからわずか2日後の措置だ。 「梅雨による団地の設備や資材の被害と関連し、団地への訪問を許可する」とし、 韓国側が訪朝する日付を通知すれば、遮断している通行や通信など必要な措置を速やかに取るとしている。

  北朝鮮の突如の豹変は、二つの理由が見え隠れしている。

  一つは、開城工業団地に入居する韓国の企業が緊急会見を開き、 「稼働中断がさらに続く場合、残された機械や設備を北朝鮮から他の地域に移転させたい」と 南北当局に通告したことに慌てたことだ。機械や設備などが搬出されれば、元もこうもない。 ここが潮時とみて、年間8千万ドルの外貨を獲得できるドル箱でもある開城工団の閉鎖をこれ以上、 長引かせるのは得策ではないと判断したことだ。

  もう一つは、開城工団問題で韓国に融和姿勢を示すことで、6か国協議再開条件をめぐって 米国と共同歩調をとっている韓国を軟化させたいとの狙いもあるようだ。

  そして、その先には、「未練はない」と言ったものの、首席代表の格をめぐって実現に 至らなかった南北高位級会談を仕切り直し、実現させ、米朝協議に繋げたいとの思惑もあるようだ。 それも可能ならば、「輝かしい成果」で迎えなければならない7月27日までに。

  そのことは、北朝鮮当局が15年の労働教化刑が確定した韓国系米国人、ペ・ジュンホ氏の 労役生活を写真付きで、朝鮮総連の機関紙・朝鮮新報(電子版)を通じて公開したことからも伺い知れる。

  ペ氏は「健康状態が悪化している」と語り、米朝両政府に対し「早期に帰してもらいたい」と訴えている。

  米朝高官会談にも応じないばかりか、ブルネイでの外相接触も拒む米国を動かすための切り札として、 北朝鮮は「人質」カードを切ったといえる。