2013年10月1日(火)

核開発の断念はあっても「衛星」は止めない

 北朝鮮は公言とおり、昨年12月に発射した人工衛星「銀河3号」(長距離弾道ミサイル「テポドン3号」)よりも規模の大きい「銀河9号」の開発を着々と進めている模様だ。

 米ジョンズホプキンス大学国際関係大学院傘下の米韓研究所が運営する北朝鮮研究サイト「38ノース」は平安北道東倉里の西海衛星発射場を捉えた衛星写真を分析した結果、北朝鮮が7月、8月と2度、ロケットエンジンの燃焼実験を行っていたと分析した。

 今年3月末から4月にかけても同様のテストが行われていたことが 同サイトによって確認されているが、テストされたものが「銀河3号」の改良型2段推進体、もしくは新たに開発中の大型ロケットの推進体のどちらかの可能性が高いとのことだ。

 エンジン燃焼実験がこれまでよりも一層強力だったことや北朝鮮が「銀河3号」よりも規模の大きい「銀河9号」の開発を宣言していることから、「銀河9号」のエンジン燃焼実験の可能性がより高いとみられている。

 「銀河3号」は昨年4月に西側のマスコミに初めて公開されたが、全長30メートル、直径2.4メートル、重量は90トンだ。北朝鮮が「3号」から5段階飛び越え、一気に「9号」と命名していることから、3倍規模の大きさを連想する向きもある。

 3倍となると、単純計算で、全長90メートル、直径7.2メートル、重量は270トンとなり、重量を除いて日本のロケットH−2A(2段式で高さ53メートル、直径4メートル、重量289トン)を上回るが、展示された模型を見る限り、「3号」の2倍程度の規模のものを開発しているのではないだろうか。

 一連のエンジン燃焼実験が、本気で開発し、打ち上げるためのものか、それとも、米国を交渉のテーブルに引っ張り出すための策術なのか、議論が分かれるところだが、前者の可能性のほうが極めて高い。

 核については6か国協議共同声明で一度は、放棄を約束していることや、今でも「非核化は金日成主席、金正日総書記の遺訓である」と公言していることから米国の見返り次第では凍結、破棄する可能性は十分に考えられる。しかし、国際社会が長距離弾道ミサイル「テポドン」とみなしている「人工衛星」についてはその可能性はゼロに等しい。

 北朝鮮は人工衛星については「宇宙開発は我々の自主権の権利行使である」と主張している。

 ミサイル発射を非難した安保理議長声明に反発した外務省声明(2012年4月18日)では「平和は我々にとって何より貴重だが、民族の尊厳と国の自主権はより尊い」と述べ、翌日、宇宙空間技術委員会の名で人工衛星打ち上げの継続を宣言していた。

 また、最高指導者の金正恩第一書記は、昨年12月23日、成功打ち上げの祝賀宴で科学者らに「より強力なロケット」の開発を指示し、さらに今年元旦の新年辞ではそのロケットの名を「銀河9号」と命名していた。そして、2月11日に開かれた労働党政治局及び政治局員候補会議では「地球衛星と威力のあるロケットを引き続き発射する」ことを決定している。

 北朝鮮は昨年の2月29日に米国と交わした合意で「実りある会談が行われる期間は長距離ミサイルの発射を行わない」ことを約束したにもかかわらず、昨年4月、12月と、二度発射を強行した。米国からすると、明らかに約束違反ということになるが、北朝鮮はミサイルと人工衛星は別物との認識に立っている。また、6か国協議共同声明には「人工衛星(ミサイル)を発射してはならない」との合意はないと主張している。

 北朝鮮による黒鉛型原子炉の再稼働は米国との直接交渉を目指すための戦術としていることは自明だが、それもこれも核放棄を交換条件に人工衛星と称する「銀河9号」を受け入れさせることに狙いがあるようだ。

 北朝鮮は2006年、2009年、そして2012年と3年置きに打ち上げてきた。順当なら、「銀河9号」は2015年ということになるが、金正恩第一書記は「一気に開発して、打ち上げろ」と号令を発している。もしかすると、早ければ、金正日総書記の3年の喪が空ける来年ということもあり得なくもない。