2013年10月23日(水)

知られざるモンゴル―北朝鮮コネクション

 朝鮮総連中央本部の土地・建物の再入札で、東京地裁は本日(22日)、50億1千万円で落札したモンゴル系企業への売却許可決定を延期した。延期の理由として、このモンゴルの貿易会社、「アヴァール・リミテッド・ライアビリティー・カンパニー」が実体のないペーパーカンパニーの疑いがあることが指摘されている。

 それにしても、なぜ、朝鮮総連の物件にモンゴルの会社が登場するのだろうか。

 モンゴルと北朝鮮との間には国交があり、長年友好関係にある。両国共にレアメタルなど鉱物資源は豊富にある。それにもかかわらず貧困である。モンゴルは海がなく、内陸であるが故、北朝鮮は国連の制裁により貿易が著しく制限されていることが主たる理由だ。

 そのため両国ともに国境を接している中国に経済的に依存せざるを得ない。結果、両国とも経済は中国人や中国資本に牛耳られていると言っても過言ではない。現実に地下資源の多くを安価で中国への供給を余儀なくされている。

 中国への経済的従属、隷属を回避するには、両国共に貿易を多角化、資源供給先を多様化する必要がある。まさに「脱中国」と「貿易の多元化」という点で、両国の利害関係は一致する。

 両国の関係は、2007年に北朝鮮No.2の金永南最高人民会議常任委員長がモンゴルを訪問し、海上運輸協定を結んでから盛んになっている。前年に小泉純一郎総理がモンゴルを訪れ、貿易の拡大で合意しているが、モンゴルは北朝鮮と海上運輸協定を結んだことで日本海に出られるようになった。そして、5年後の2012年11月にはウランバートルを訪問した崔泰福政治局員兼最高人民会議議長に対してエルベグドジ大統領は日本海に面した羅津港の賃貸を要請している。

 中国とロシアとの3角地帯にある羅先市を「経済開発特区」に指定している北朝鮮は両国の協力を得て国際中継貨物拠点、輸出加工、保税物流など国際交易基地とする構想を抱いている。その拠点となる羅先港の5つの埠頭のうち第一埠頭は中国、第三埠頭はロシアが独占使用権をすでに手にしている。モンゴルがこの港を使用できれば、日本、北米、韓国、中国南部に貿易ルートを拡大できる。

 モンゴルからの投資家の訪朝も目立ち始め、2008年2月にはホム有限会社のD・ミツカ取締役社長が訪朝したのを皮切り、2010年4月には外相一行に随行して経済人らが訪朝している。その中には実業家に変身した元横綱朝青龍も含まれていた。そして一行が視察した羅先市で道路、運輸、建設などで協力する文書が交わされている。

 この年の秋に平壌で開催された国際商品展覧会には中国、ロシア、スイス、シンガポールなどに交じってモンゴルも初参加している。

 両国の経済交流は特に今年は顕著で、6月にはモンゴルの製油会社「HBOil」が1千万ドルで北朝鮮の「勝利精油所」の株を20%で取得している。モンゴルの精油会社が外国の資産を購入したのはこれが初めてである。また、7月4日にはモンゴル政府、技術・郵政及び通信局代表団が、15日にはモンゴル大統領民族安全及び対外政策顧問が、そして9月23日にはモンゴル政府経済貿易代表団が相次いで訪朝している。

 今月29日から31日までウランバートルで羅先経済特区開発と密接に繋がる広域豆満江開発計画に関する国際会議も開かれる予定である。

 さらにモンゴルは北朝鮮からの出稼ぎ労働者も積極的に受け入れている。

 両国の間で2008年7月に交わされた労働者派遣協定に基づき、2011年7月からウランバートルの建設現場に北朝鮮は労働者を派遣している。2013年4月の時点で1,749人の労働者が月600〜700ドルで働いている。モンゴルに在住する外国人労働者(12,064人)の15%を占めており、モンゴルは北朝鮮にとっては貴重な外貨獲得先となっている。

 朝鮮総連本部を落札したモンゴルの貿易会社の背後にこうした北朝鮮―モンゴルコネクションが存在するのか、またそれを拉致問題の解決策として日本政府が暗黙了解しているのか、あるいは、モンゴル政府も、日本政府も全く与り知らないところで、朝鮮総連に通じる地下人脈が動いているのだろうか、いずれわかるだろう。