2014年4月30日(水)

やるのか、やらないのか、北朝鮮の4度目の核実験

 北朝鮮が4度目の核実験を強行するのか、それとも、米韓合同軍事演習を牽制し、オバマ政権を揺さぶるための心理作戦の一環なのか、見極めの付きにくい状況が続いている。

 北朝鮮が3月31日に外務省声明を出して、中長距離ミサイルの発射と4度目の核実験を示唆していたことから そのタイミングは、23−26日のオバマ大統領の日韓歴訪の前後ではとみられていたが、オバマ大統領が離韓してから30日現在、ボタンは押されてない。

 北朝鮮が恐れていた「キー・リゾルブ」と「フォーイーグル」と呼ばれる2か月間にわたる米韓合同軍事演習は4月18日に終了している。戦闘機100機以上動員した最大規模の米韓合同空軍訓練「マックスサンダー」も4月25日には終っている。

 核実験について言うなら、咸鏡北道吉州郡豊渓里にある実験場では地震波探知など計測装備や、計測装備と地上統制所を繋ぐ通信ケーブルなども設置され、坑道の入り口も閉じられ、朴槿恵大統領曰く「いつでもできる核実験が行える状態にある」とのことだ。

 それでもこのまま踏み切らなければ、核実験場での一連の動きは心理戦の一環、カモフラージュということになる。過去のケースからして偽装の可能性も考えられなくもない。事実、北朝鮮は過去に2度、核実験を匂わしながらも、やらなかった前例がある。

 一度は、2010年10月から11月にかけてで、今回同様にオバマ大統領の訪韓(11月10日)に合わせてであった。また、2012年にも4月から5月にかけて同様の動きを示したことがある。当時、ゲーツ国防長官が中止を求める一方で、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)が北朝鮮に対する共同声明を出し、核実験の自制を求めていた。いずれも単なるアドバルーン、デモンストレーションで終わっていた。従って、今回も、やらない可能性もある。

 しかし、その一方で、陽動作戦を駆使し、発射を強行した過去もある。

 昨年2月の3度目の核実験の時は「米国などは3回目の核実験と早合点し、実行すれば先制攻撃すると騒いでいる」との談話を発表し、西側の「核騒動」を一笑しておきながら実際には4日後に核ボタンを押している。

 また、一昨年12月12日のテポドン(人工衛星)の発射の時も、4日前に朝鮮宇宙航空技術委員会の名で発射延期を示唆し、かつ直前に発射台から一旦、ミサイルを取り外すようなしぐさをしながら、意表を突く形で発射を強行している。

 ボタンを押すのか、押さないのか、当事者である北朝鮮以外は誰にもわからないのが実情だ。そして、その決断は、金正恩第一書記の胸三寸にある。

 その金第一書記は4月1日の白頭山での演説で北朝鮮を「政治的に抹殺し、経済的に孤立させ、軍事的に圧殺しようとする米国の敵対政策は変わらない」として「米国の敵対政策を軍事力で粉砕しなければならない」と軍司令官らにはっぱをかけていた。

 日韓歴訪でオバマ大統領が圧力と制裁の既存の対北政策の継続を鮮明にした以上「米国との総決算のための戦い」(金第一書記)の一環として、中長距離ミサイルの発射実験も4度目の核実験も躊躇うことなく行うかもしれない。最高司令官としてこのまま何もしなければ、弱気の表れと映るからである。

 時系列でみると、北朝鮮は3月14日、最高権力機関である国防委員会を通じて「自衛的核抑止力を誇示するため追加的措置を連続的に取ることができることを肝に銘じるべきだ。我々はすでに多種化された我々の核打撃手段の主たる的が米国であることを隠さない」との声明を出し、2日後の16日に党中央軍事委員会拡大会議を開き、「国の防衛力を強化するための重大問題」を討議、決定している。

 そして、2週間後の3月30日には外務省声明を通じて「より多種化された核抑止力をそれぞれ異なる中長距離目標に対してそれぞれ異なる打撃力で活用するための様々な形態の訓練」を行うとミサイル発射を予告し、「米国がこれを再び挑発といいがかりをつけてきた場合、敵らが想像もしにくい次の段階措置も全部用意できている」と述べ、その次の段階措置として「核抑止力を一層強化するための新たな形態の核実験も排除しない」と宣言している。

 外務省声明をよく読めば、核実験よりもまずはミサイル発射が先行している。実際、これまでの過去3回の核実験を振り返ると、核実験の前にテポドンミサイルが先行していた。1度目の2006年の時は7月(5日)にテポドン、10月(9日)に核、2度目の2009年の時は4月(5日)にミサイル、5月(25日)に核実験、そして3度目は2012年12月(12日)にテポドン、13年2月(12日)に核実験と続いた。韓国国防部報道官も4月24日の定例会見で、北朝鮮が中長距離ミサイルを奇襲発射する可能性を示唆していた。

 ミサイルの場合、人工衛星と称するテポドンではなく、一度も発射したことのない米国を標的に定めた長距離ミサイル「KN−08」の発射がありえるかもしれない。「KN−08」は地下に格納された移動式ミサイル発射台が使われるので、直前まで探知されにくい。

 北朝鮮が3月26日にノドンミサイルを発射してから1か月過ぎたのに国連安保理は依然として法的拘束力のある決議も、議長声明を出せないでいる。過去の一連の安保理の対北朝鮮決議では北朝鮮に対して「二度と弾道技術を使った発射をしてはならない」と勧告していた。

 また、違反すれば、「さらなる重大な措置を取る」と警告していた。それなのに北朝鮮は2月27日に射程300kmの弾道ミサイル4発、3月3日に射程500km以上の弾道ミサイル2発、そして3月26日にノドンミサイルを連射している。一度ならず、立て続けに三度も違反しているわけだから北朝鮮にとっては覚悟の上の乱射なのだろう。

 北朝鮮はこれから行うミサイル発射訓練を米国や国連安保理が「挑発」として非難すれば「核抑止力を一層強化するための新たな形態の核実験も排除しない」と言明している。まるで核実験のための口実というか、大義名分を待っているようでもある。そのことは4月4日の李東一国連次席大使の「米国の敵対政策がレッドライン(禁止線)を超えたら」との言葉に集約されている。

 いずれにせよ、ボタンを押せば、昨年同様に米国と「一触即発」のチキンレースが再現されることになるだろう