2014年3月7日(金)

北朝鮮のミサイル乱射の狙いは?

 北朝鮮が連日、ミサイルを発射している。

 米韓合同軍事演習が始まった3日後の2月27日を皮切りに3月3日、そして4日と、発射された数はすでに13発に達している。4日の一日だけで7発も連射していた。しかし、これは驚くべきことでも、異例なことでもない。過去にも何度もあったことだ。

 例えば、2006年7月5日にミサイル7発が日本海上に向け発射されていた。

 1発目が今回と同じ江原道安寧郡旗対嶺(キッテリョン)所在の発射場から午前3時32分に発射され、続いて4時4分、5時、7時12分、7時31分、8時17分、及び午後5時22分に計7発のスカッド及びノドンミサイルが発射されていた。

 午前5時の3発目はテポドン2号で、40秒後に爆破し、日本海上に墜落したものの7発の中には旧ソ連の潜水艦発射ミサイルSSN−6改良型の新型中距離弾道ミサイル2発が含まれていた。

 翌年の2007年にも5月25−6月27まで計7発発射している。

 5月は短距離ミサイル1発で済んだが、6月は7日に黄海に向けて短距離ミサイル2発、19日に日本海に向け短距離ミサイル1発、27日もこれまた日本海に向け短距離ミサイルKN−02を3発発射していた。そしてこの年の10月9日に北朝鮮史上初の核実験を行っている。

 北朝鮮のミサイル発射実験は2008年にも3月に3発、5月に3発、そして10月に2発行われたが、一連の実験は2009年4月5日のテポドン発射に繋がっていた。

 テポドンミサイルが発射され、さらに2度目の核実験が行われた2009年5月にも6発のミサイルが発射されている。

 具体的には、25日に日本海に面した元山から地対艦短距離ミサイル(2発)が、26日には同様に日本海に面した咸興から地対艦と地対空(3発)が、そして29日には過去2度テポドンミサイルが発射された舞水端基地から地対空新型ミサイル(射程250kmの旧ソ連製SA−5改良型)1発が発射されている。

 今回は3月4日の一日だけで7発発射していたが、一日に7発も、初めてのことではない。

 テポドンの発射と核実験があった年の2009年7月には2−4日まで11発発射されていたが、最終日の4日だけで断続的に7発発射されていた。その内訳は、5発が100〜150kmの短距離ミサイル、そして2発がスカッド・ミサイルだった。

 日本海に向けて発射されたスカッドはいずれも発射台から約420kmの同じ地点に着弾したと報道されていた。この年は10月12日にも5発発射されていた。

 そして、昨年の2013年には3月4日に北朝鮮は日本海で7発の短距離ミサイル連続発射を行っていたが、最後の2発は400km先海上の目標物に正確に着弾している。米軍の軍事衛星記録データ分析によると、海面すれすれに飛行したマッハ2.5の超音速巡航ミサイルだったことが判明し、米軍を驚かせたとのことだ。

 一連の北朝鮮のミサイル発射は「米韓合同軍事演習を牽制するため」との見方が一般的だが、牽制だけなら数発程度のデモンストレーションで済むはずだ。巷間言われているように台所事情が苦しいならば、わざわざ無駄撃ちする必要もない。

 韓国側の発表では、2009年4月5日のテポドン発射で約3億ドルの費用がかかったと推定されている。2009年も5月(6発)7月(11月)と併せて17発発射されているが、これまた3億4千万ドルの費用がかかっている。

 また、一昨年の2013年4月13日に打ち上げに失敗した衛星と称するミサイル発射には8億5千万ドルの資金が投じられたとされている。食糧に換算すると、コメ140万トンに相当し、2,400万の国民の食糧不足分(年間70万トン)を2年間は解消できる額だ。

 麻薬取引や武器売却などをめぐる国際社会の監視が強化され、加えて国連の強力な経済制裁に直面している最中、北朝鮮は一体、膨大なミサイル開発費用をどう工面しているのだろうか。

 北朝鮮が地下資源の宝庫であることはあまり知られてない。国土の80%に地下資源が埋蔵されていて、その価値は2010年12月の韓国統計庁の発表では日本円で500兆円以上と見積もられている。特に北朝鮮は昔から産金国として名高く、最大で2千トン埋蔵されている。 

 一般的に知られてないことだが、米国の金融制裁措置によりマカオの銀行にある口座(総額で2千5百万ドル=当時のレートで30億円相当)が凍結され、「北朝鮮の外貨事情は逼迫した」と伝えらえていた2006年、北朝鮮は判明しただけでも1、300kgの金塊を密かにタイへ輸出し、約33億円(当時の相場)の外貨を手にしていた。2006年と言えば、7月にテポドン、10月に初の核実験が行われた年でもある。

 また、対中輸出の急増による外貨獲得も見逃せない。

 昨年(2013年)の中朝貿易は10.4%増で過去最高の65億4,700万ドルを記録した。北朝鮮の対中輸出額は29億1200万ドルと17.2%も増えている。

 対中鉱物輸出に限っては、2002年の5千万ドルから2010年には8億6千万ドルと17倍も急増している。過去数年間、鉄鋼原料は歴史的な高値を記録していた。北朝鮮の鉄鉱石の埋蔵量は30〜50億トンと推定されている。これら鉱物資源の輸出によって得られた資金が大量破壊兵器の開発など軍需部門に最優先に回されているのである。

 食糧不足とエネルギー不足、そして外貨不足という3大不足を抱える北朝鮮が気でも狂ってない限りサイルの乱射はあり得ない。間違いなく、性能向上のため、目的意識を持って一発、一発、狙いを定め行っているのだろう。

 朝鮮半島有事に備えた日米韓への対抗手段としての自衛力の向上と同時に目指す先は、「人工衛星の打ち上げ」と称する大陸間弾道ミサイルの発射にあるようだ。

 北朝鮮は3月中の完成を目指し、急ピッチで黄海に面した東倉里のミサイル発射基地を拡充している。完成すれば、発射台は従来の35メートルから17メートルも長くなる。

 発射台が伸びたことで明らかなことは、北朝鮮が遅かれ早かれ、2012年に発射されたミサイル(長さ30メートル、重さ90トン)よりも規模の大きいテポドンの発射に踏み切るということだ。

 問題は、その時がいつになるかだ。