2015年8月21日(金)

 朝鮮半島西部戦線に異常あり!砲撃戦から局地戦、全面戦に拡大するか!

 北朝鮮が本当に韓国に砲弾を撃ち込んだ。韓国の拡声器による放送や米韓合同軍事演習を「容赦しない」「座視しない」と再三警告を発していたが、いつものように単なる脅しに過ぎないと受け止めていた韓国政府は大きな衝撃を受けている。

 北朝鮮は今回、拡声器の放送再開を理由に砲撃したわけだが、拡声器放送は今に始まったことではない。そもそもは1962年に開始し、74年に一時的に「南北共同声明」が発表され、中断したことはあったが、1980年に再開され、2004年に完全に中止するまで行われていた。拡声器使用期間中は北朝鮮からの警告や威嚇はあったものの実際に砲撃されることは一度もなかった。それだけにショックは大きい。

 朴大統領の出席、司会のもと直ちに国家安全保障会議が地下バンカーで開かれ、事態の対応に追われたが、すでに砲撃のあった西部戦線だけでなく全線に最高レベルの警戒態勢が敷かれた。軍も警察も予備軍などすべての作戦兵力は命令が下されれば指定された場所に出動し、戦闘態勢に備えることになっている。

 韓国が事態を深刻に受け止めている理由の一つは、韓国本土に打ち込まれたことだ。これまで軍事境界線を挟んだ小銃による撃ち合い、侵入したゲリラや工作員との銃撃戦、海上での艦船による海戦や離島の延坪島への砲撃はあったものの本土への砲撃は朝鮮戦争休戦(1953年7月)以来過去62年間一度もなかったことだ。

 また、北朝鮮の軍事挑発が米韓合同軍事演習の最中に行われたことにも驚きを隠せないでいる。

 北朝鮮が「米韓合同軍事演習は我々に対する奇襲攻撃を画策した戦争練習である」(労働新聞)と非難している米韓合同軍事演習は8月17日に開始され、28日まで行われる。今年の軍事演習には海外駐屯の米兵3、000人を含め米軍3万人と韓国軍5万人の合計8万人が参加する大規模の訓練だ。

 北朝鮮が過去に米韓合同軍事演習期間中に軍事挑発を起こすのは異例だ。朝鮮半島有事に備えた訓練を行っている時に緊張を煽る行動を取るのは愚か極まりなく、米韓からすれば「飛んで火にいる夏の虫」とみていた。挑発があるとすれば、軍事演習後で、リスクが有り過ぎて期間中はないとみていただけに動揺は大きい。

 韓国軍は地雷で二人の兵士が負傷した際に本来なら応戦マニュアルに従い、相手方の陣地に仕返しをすることになっていた。しかし、北朝鮮がどこから、どの部隊が地雷を埋めたか判明しなかったことや、北朝鮮の仕業と特定するまで時間がかかったため報復できなかった。

 当然復讐心に燃えていた韓国軍は「今度挑発したらただでは済まさない、過酷に懲らしめる」と誓っていた。事実、韓民求国防長官は10日に現場を訪れ「北の挑発には果敢に断固対応せよ」と兵士らにはっぱをかけていた。また、北朝鮮にも警告も発していた。それがいとも簡単に無視されたことも韓国にとっては深刻だ。

 問題は、北朝鮮の砲撃の狙いだ。

 北朝鮮は再三にわたって軍事演習と拡声器の放送中止を要請していた。中止すれば、離散家族の再会も、南北首脳会談も含めた南北対話も可能であるとの甘言を弄しながら、韓国側の譲歩を促していたが、5年前の「哨戒艦撃沈事件」「延坪島砲撃事件」に続く今度の「地雷事件」で人的被害を被った韓国政府及び軍は「懲罰」「報復」が先決として、また「軍事演習は対話の前提条件にはならない」(韓国国防部)との立場から安易の妥協、譲歩を拒んだ。

 すると、北朝鮮は一転して8月15日、「軍事演習を強行すれば、我々の軍事的対応は大きくなる」との国防委員会の声明を出し、また一日前の14日には地雷事件の関与を否定する前線西部地区司令部の声明で韓国軍に対して「我々に立ち向かえる勇気があるなら、戦場で軍事的に決着を付けよう」と挑発してみせた。

 北朝鮮からすれば「ビラ撒きは宣戦布告である」とか、「軍事演習を強行すれば、軍事的に報復する」と威嚇してきたことが決してハッタリではないと言ってきた手前、ここで手も出せなければ、足元をみられるとの危機感から砲撃に踏み切ったものとみられる。

 金正恩第一書記の粛清と処刑による恐怖政治が自身の命令や指示に部下を従わせるための見せしめであると言われている。同様に今回の砲撃も見せしめの色合いが強い。ハッタリでないとの本気度を示すことで最高司令官としての虚勢を張り、同時に朝鮮半島での緊張を高めることで国内の結束を図ることにも狙いが隠されているようだ。そのことは、北朝鮮人民軍前線司令部が15日、「心理戦放送を中止しなければ、無差別に打撃を加える」との警告を出していたものの、11か所設置されている拡声器のうち、一か所しか砲撃しなかったこと、それも2発で、決して無差別ではなかったことだ。

 今回の事態が局地戦、全面戦争に拡大するかどうかは、北朝鮮側の次の一手にあると言っても過言ではない。人民軍総参謀部は砲撃後に「48時間以内に拡声器放送を中止しなければ、追加的軍事行動を開始する」との電文を韓国国防部に送っていた。

 韓国政府も軍も北朝鮮の脅しに屈して、このまま拡声器放送を止めることはない。となると、北朝鮮が次に軍事行動を起こせるかどうかだ。

 今回の事態を受けて、北朝鮮でも党中央軍事委員会非常拡大会議が招集される。韓国同様に「1号戦闘勤務態勢」に突入することになるだろう。

 北朝鮮は25日に「先軍の日」を迎える。

 金正恩第1書記は3年前の「8・25慶祝宴会」では演説し、韓米合同演習について「我慢にも限界がある」と述べ、全面的な反攻撃戦に向けた作戦計画を検討し、署名していた。

 前線部隊を視察したり、それとも地下バンカーに入るのか、金第一書記の動静から目が離せない。