2015年12月11日(金)

 北朝鮮はすでに水爆を保有しているのか!?

金正恩第1書記が12月9日に平壌市の平川革命事績地を視察した際「我々の首領様(故金日成主席)がここで轟かせた歴史の銃声のおかげで今日、我が祖国は国の主権と民族の尊厳を固く守る自衛の核弾、水素弾(水素爆弾)の巨大な爆音をとどろかせる強大な核保有国になり得た」と水素爆弾について言及したことが物議を呼んでいる。すでに保有しているかのような発言だったからだ。これは意外だ。水爆はこれからだと思っていたからだ。

北朝鮮の原子力研究院院長が今年9月15日に「米国と敵対勢力が無分別な敵視政策を今後も続けるならば、いつでも核の雷声で応える万端の準備ができている」と4度目の核実験を仄めかしたことからもしかして4度目の核実験は水爆実験ではないかと予測していた。北朝鮮が昨年3月30日の外務省声明で「核抑止力をより強化するための新たな形態の核実験も排除しない」と「新たな形態の核実験」という言葉を使っていたからだ。それだけにすでに保有しているとの金第一書記の発言には正直驚いた。

金第一書記の「水爆発言」に韓国側の反応はこぞって否定的だ。韓国情報当局は「核弾頭の小型化にも成功していないのに水爆製造技術を持てるはずはない」との見解を示す一方、統一部当局者も「発言の形式やタイミングからして、ブラフィング(bluffing、見えすいた脅し)に見える」と一笑に付していた。専門家である科学技術政策研究院の李春根専任研究委員も技術的な観点から「北朝鮮が水素爆弾を保有しているとみるのは難しい」とコメントしていた。米国も、ロシアも韓国同様に懐疑的だ。

ホワイトハウスのアーネスト報道官は記者会見で「現時点で我々が持ち合わせている情報では、疑問を抱かせるものだ」との見方を示していた。ロシアもまた上院国防委員会のクリンチェビッチ第一副委員長が「ハッタリの可能性が高い。秘密裏に水爆は製造、保有できないからだ」とその理由を説明していた。

意外なのは、米国務省の反応だ。「北朝鮮はすべての核兵器と核関連活動を放棄しなければならない」との原則的な立場を表明しただけで水爆保有の有無については「情報事項に関する言及は不可能」と直接的なコメントを避けたからだ。

金第一書記の「水爆発言」は士気を高めるための国内向け、あるいは米国を交渉に引っ張り出すための修辞語との見方が一般的だが、仮に保有が事実ならば、北朝鮮はいつ、水爆の実験をやったのだろうか?

北朝鮮は一昨年(2013年)国防委員会の声明(1月25日)で「高い水準の核実験を行う」と示唆していた。そして、18日後の2月12日に3度目の核実験を行った。この時の実験は一般的にはウラン型の核実験が行われたと推定されていた。

その根拠となったのは、北朝鮮が2009年6月に安保理制裁決議「1874」に対抗して、ウラン濃縮作業の着手を宣言し、3か月後には国連安保理議長に宛てた手紙で「ウラン濃縮試験の成功」を主張していたからだ。さらに1年後の2010年11月に遠心分離機を備えた近代的なウラン濃縮工場が稼動していたことを訪朝したヘッカー米スタンフォード大教授(元ロスアラモス国立研究所長)ら米国の核問題専門家らによって確認されていたことも根拠の一つとなっていた。

過去2回(2006年と2009年)の核実験はプルトニウムを使った実験だったことから3回目はウラン型爆弾の核実験が一般常識だった。しかし、今もって、この3度目の核実験が何の実験だったのか不明のままだ。

北朝鮮はすでに5年前の2010年5月に「核融合に成功した」と発表していた。核融合は水素、リチウムなどの質量の小さい原子核が融合して大きな原子になる現象を指す。原子核の種類によっては莫大なエネルギーを放出する。核融合は言わば、水素爆弾を作る基礎でもある。さらに、米国のシンクタンク、科学・国際安全保障研究所(ISIS)は北朝鮮が延辺の核団地でトリチウムを生産していた可能性を指摘していた。高純度の液体トリチウムも水素爆弾の原料の一つとしても利用される。

「核融合に成功した」との北朝鮮の発表にロイター通信は「太陽が2つ空に昇ったら、信じてもよい」と嘲笑するソウル国立大学の核専門家クン・Y・スー氏の意見を載せていたが、皮肉なことに当時、韓国に亡命していた故・黄ジャンヨプ元労働党書記だけが「成功した可能性は十分にある」と「反論」していた。

黄元書記は「北朝鮮の実態を何も知らない連中らが不可能と言っている。彼らは一体どれだけ北朝鮮の技術力を理解していると言うのか。北朝鮮の大量殺傷兵器(WMD)技術はすでに相当のレベルに達しており、間もなく水素爆弾の製造が始まったと発表するかもしれない。一度に発表しないのは、国際社会の報復を恐れているからだ。北朝鮮は当初から水素爆弾も研究していた」と、語っていた。

過去に水爆を実験した国は米国、ロシア(旧ソ連)、英国、フランス、中国、インドなど6か国だが、米国は原爆から7年後、ロシアは6年後、英国は5年後、フランスは6年後、そして中国は1964年の初の原爆実験から3年後の67年に水爆実験を行っている。インドに至っては、1998年5月11日に3回、1日置いて13日に2回同時に複数の実験を行ったが、11日の3回の実験の一つが水爆実験だったとされている。一回目(2006年)の実験から6年経過したわけだから他の原爆保有国ができて北朝鮮にできないはずはないとの見方も当然成り立つ。

以前にも触れたが、万が一、水爆にまで手を伸ばせば、国連安保理が認めようと認めまいと、北朝鮮は名実共に「核保有国」どころか「核大国」となり、今以上に放棄させることは困難となるだろう。