2015年2月20日(金)

 「家康」の安倍総理と「秀吉」の朴大統領、どちらに軍配?

今年は日韓国交正常化50周年の年だ。国交条約締結日の6月22日に向け、記念行事など祝賀ムードを演出したいところだが、慰安婦問題から端を発した双方の溝が深く、政府レベルでも、国民レベルでも盛り上がる気配はない。

それもそのはずで、昨年12月に実施された内閣府の「外交に関する世論調査結果」によると、「韓国に親しみを感じない」が66・4%に達していた。前年の8.4%増だ。内閣府の世論調査が行われて以来、日本人の対韓好感度は過去最低のようだ。

韓国も同様だ。年明けの1月2日に世論調査が行われたが、これまた韓国人の69.5%が「日本に好感持てない」と回答していた。「嫌韓」と「嫌日」感情がぶつかり合っている状況下にあっては2002年の日韓共催W杯のようなエールの交換や連帯はとても期待できそうにもない。こうした沈滞ムードを一変させるには安倍総理と朴槿恵大統領がにこやかに会って、がっちり握手するのが一番だが、今はとても首脳会談ができる状況にはない。

「首脳会談開催には慰安婦問題で日本が誠意を示すことが先決、前提である」というのが韓国側の一貫した立場である。そのことは、今年1月中旬に来日した徐清源・韓日議員連盟会長が安倍晋三総理に「日本がまず元慰安婦の女性の名誉を回復するのに最善の努力を尽くしてもらいたい」と要望したことからも明らかだ。朴大統領自身も2月13日に訪韓した自民党の二階俊博総務会長一行に「元慰安婦の名誉回復を図る納得できる措置が早期に取られなければならない」と日本側に注文を付けていた。

これに対して安倍総理は慰安婦問題については「筆舌に尽くしがたい辛い思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む」と同情の念を示しながらも、この問題は1965年の日韓条約(請求権協定)で解決されたとの認識に立ち「政治問題化、外交問題化すべきではない」と「外交懸案化」している朴政権にくぎを刺している。

安倍総理は韓国側の「前提条件付対話」についても「課題があれば、まず会って話をすべき」と、「無条件対話」を譲らない。先日の国会での山口那津男公明党代表の質問に対する答弁でも「前提条件を付けずに首脳レベルでも率直に話し合うべきだ」と自説を曲げなかった。この日韓両首脳による綱引き、どう決着が付くのだろうか。

朴大統領は安倍総理よりも二つ年上だ。よく言えば、原則の人、悪く言えば、強情な人との評価がある。片や、安倍総理も良く言えば、信念を曲げない、悪く言えば,頑な人との見方がある。意地のぶつかり合いに加え、どちらも先に折れるわけにはいかない事情がある。

朴大統領は「元慰安婦などの問題が解決しない状態では、首脳会談はしない方がましだ。首脳会談をしても得るものがない」と繰り返して言ってきた手前、慰安婦問題で成果がない限り無条件で応じるわけにはいかない。

経済再建のためにも、北朝鮮の核問題への対応や米国を軸とした共通の安全保障の観点からも日韓首脳会談の早期開催は望ましいが、へたに妥協すれば、国民の支持をさらに失いかねない。そうでなくても、朴大統領の支持率は急落一途で、30%を割ってしまい、今やレームダック寸前にある。

そのため朴大統領としては、中国との連携や米国の後押し、さらには二階氏ら日本国内の親韓派を通じてプレッシャーをかける一方で、野田民主党政権下での「内定」を縦に安倍政権に譲歩を、政治決断を迫る戦術のようだ。

野田民主党政権下での「内定」とは、来月に出版される李明博前大統領の回顧録「大統領の時間」に詳細に書かれているが、日本国総理が慰安婦被害者に手紙を送って謝罪し、日本政府の予算で補償することが柱となっている。「衆議院が解散されたため合意に至らなかった」(李前大統領)ことから、朴政権としては前政権の「約束事」を安倍政権が継承、履行するよう迫る方針のようだ。

一方、安倍政権としても、韓国側が首脳会談開催の前提条件としていた河野談話と村山談話の継承を表明し、また領土問題でも国際司法裁判所に提訴しないなど韓国側に一定の配慮をしてきたことからこれ以上の譲歩は安倍政権の「正統性」が問われかねないとして、応じられない立場のようだ。安倍総理の支持率は朴大統領と違い50%以上もあり、安定しているものの慰安婦問題で譲歩すれば、安倍政権を支える保守層の離反を招くとの危惧があるようだ。自信過剰にもみえるが、強気の姿勢を崩さないところをみると、いずれ朴政権が条件を取り下げさせるだろうとの自信めいたものがあるようだ。

周知のように中国の習近平体制も韓国同様に日中首脳会談には前向きではなかった。しかし、安倍総理が昨年11月に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に出席したことで約25分という短時間ながら習近平主席との「会談」ができた。

歴史問題で対日共同歩調を取っていた中国が一足先に日中首脳会談に応じたことは朴政権に少なからぬインパクトを与えた。いつまでも前提条件にこだわっていると、日本は中国との関係を先に進めるかもしれないとの動揺と疎外感を与えることに成功した。

また、昨年6月の日朝合意に基づく北朝鮮による拉致被害者の再調査結果次第では、安倍総理の平壌電撃訪問、金正恩第一書記との日朝首脳会談の可能性も想定される。このことも朴政権の焦りを誘いだせる。「中国カード」「北朝鮮カード」をちらつかせながら、朴政権が折れるのをひたすら待つ戦術のようだ。

朴槿恵大統領は昨年11月13日、ミャンマーの首都ネピドーで開かれた東南アジア諸国連合と日中韓の首脳会議で、「遠くない将来に日中韓外相会談が開かれ、これをもとに3カ国の首脳会談も開催できることを希望する」と述べた。日中韓3か国首脳会談は日中、日韓関係が悪化したため2012年5月の北京を最後に一度も開催されてない。次回のホスト国は韓国である。

年内にソウルで3か国首脳会談が開かれれば、北京での習近平主席同様にホストの朴大統領も否が応でも日韓首脳会談を受け入れざるを得ないと安倍政権が展望しているならば、その前に朴政権の前提条件を受け入れることはなさそうだ。

朴大統領が「鳴かないなら、鳴かせてみよう」の豊臣秀吉の立場なら、安倍総理はさしずめ「鳴くまで待とう」の徳川家康の心境のようだ。