2015年11月17日(火)

 北朝鮮―フランス―シリアの奇異な三角関係

北朝鮮の朝鮮中央放送が事件発生から2日目の15日の夜になってやっとパリで発生したテロ事件について初めて伝えた。

放送は「フランスのパリで去る13日、テロ攻撃事件が連続して発生し、多くの人命被害があった。国際テロ組織であるイスラム国(IS)はパリでの連続テロが爆弾と自動銃で武装された自らの組織メンバーが断行したと主張している」と伝えた上で、フランス政府の対応や各国政府が今回のテロを強烈に批判していることも併せて伝えていた。

しかし、国際社会に向け「いかなる国家及び個人に対するいかなる形態のテロにも反対する」との「反テロ宣言」を行っているにもかかわらず北朝鮮当局はこの件ではまだ公式な声明を出してない。またロシアを含めこれまでにテロで被害に遭った国々に対しては金正恩第一書記や金永南最高常任委員会委員長、あるいは朴奉柱総理や李スヨン外相の名でお見舞いや慰労の電報を送ってきたが、今回はまだ、オランド大統領やバルス首相宛に送ったとの報道はない。

その理由の一つは、フランスが北朝鮮を承認せず、国交がないことだ。北朝鮮はEU諸国の中ではアイルランドを除くと唯一、フランスとだけ国交がない。

北朝鮮は訪朝歴のあるフランソワ・ミッテラン党首率いる社会党が1981年に政権を握ったことで早期国交を期待したが、北朝鮮の総代表部が3年後の84年に設置されただけでミッテラン大統領任期(〜1995年5月)中の国交が叶わなかった。

北朝鮮は2000年に入って、1月のイタリアとの国交を皮切りに英国、オランダ、ベルギー、スペイン、ドイツ、ギリシャなどEU諸国と相次いで国交を結んだが、それまでの間EU諸国の中で最も交易が盛んだったのは、ドイツに続いてフランスであった。

一例として、北朝鮮の2000年のEUにおける貿易パートナー上位5か国をみると、ドイツ(7千7百万ドル)、フランス(3千4百万ドル)、スペイン(2千8百万ドル)、英国(2千6百万ドル)、オランダ(1千8百万ドル)であった。一般的には知られてないが、経済不振の象徴として平壌のど真ん中に君臨している未完成の105階建ホテル「柳京ホテル」も最初はフランス企業が受注し、金日成主席の生誕80周年(1992年)の完成を目指して建設に着手したものである

また、フランスのラファージュ(Lafarse)社は平壌サンウォンセメント会社の半分を所持しているエジプトのセメント大手のオラスコム社を2008年に150億ドルで買収し、この年の9月にはラファージュ社の総帥が訪朝し、金英南委員長と会談し、北朝鮮でのセメント生産に協力することを表明していた。

北朝鮮は、2001年4月には外務省の崔秀憲次官を派遣し、また同年9月には訪朝したドミニック・ジラルアジア州局長を団長とするフランスの外務省代表団に国交樹立を要請したもののフランスは北朝鮮の人権問題や核問題が改善されない段階では時期尚早として、2009年に平壌に文化事務所を開設に応じただけで、ミッテラン政権同様に社会党政権であるにもかかわらずオランド政権も北朝鮮との国交樹立には前向きではないとされている。北朝鮮がフランスに意外に冷淡なのはそのせいかもしれない。

フランスへの対応と好対照なのがシリアへの対応である。金正恩第一書記は同じ日の15日、シリアの「革命」(クーデター)成功45周年を祝って、アサド大統領に祝電を送っている。

シリア情勢は、北朝鮮にとってエジプト、リビアよりも大いに気になるところだ。その理由は、イランを除けば、シリアこそが中東にあって北朝鮮の唯一同盟国であるからだ。その砦が今まさに、崩れ落ちようとしているだけに心配ではいられないのかもしれない。

シリアと北朝鮮は1973年のイスラエルとの第4次中東戦争で北朝鮮がシリアに援軍を派遣するなど加勢したことが縁となっている。シリアは北朝鮮への義理と恩があって、中東諸国の中にあって唯一韓国を承認していない。

両国の関係は、先代のハーフィズ・アサド大統領と金日成主席とが義兄弟のような関係を結んだこともあって、今も強い絆、連帯感で結ばれている。シリアの執権党、バース党がモデルにしたのが、朝鮮労働党であることはあまり知られてない。労働党の指導の仰いだ結果、今日までバース党一党支配による長期独裁体制を築くことができたとも言えなくもない。

北朝鮮にとってアサド政権のシリアは、かつての兄弟国であったチャウシェスク政権下のルーマニアのようなものだ。

両国とも世襲体制下にある。2代目の金正日総書記が長男で、バッシャール・アサド大統領は次男であることが唯一異なる点だが、金家とアサド家はそれぞれ67年、45年と長期にわたって政権を維持しているという点では同じだ。

両国は、先代の志を継ぎ、現在も政治、軍事的関係を強化している。2007年9月にイスラエルが奇襲攻撃し、破壊したシリア北部に建設中の核施設が北朝鮮の支援によるものとの疑惑が高まったことは周知の事実である。また、北朝鮮にとってシリアは武器、ミサイル売却の顧客でもある。

シリアのアサド政権がひっくり返り、仮に親米と化せば、北朝鮮にとっては痛手である。北朝鮮が祝電を送って、アサド政権をバックアップするのも至極当然かもしれない。