2015年10月20日(火)

 安倍総理が日朝・拉致問題仲介役のモンゴルへ

 安倍晋三総理は今月22日から28日までの日程で中央アジア5か国を歴訪するが、最初の訪問国のトルクメニスタンを訪れる直前に短時間ではあるがモンゴルに立ち寄るかもしれないとの情報が駆け巡っている。

 中央アジア歴訪は第一次安倍政権下の2006年の初訪問から9年経つが、モンゴルは2年前の2013年3月に行ったばかりである。慌ただしいスケジュールを割いてまで当初外遊の予定になかったモンゴルに行かなければならない何か緊要でもあるのだろうか?

 仮にモンゴルへの非公式訪問が事実ならば、この約2年半の間エルベグドルジ大統領が数回訪日していることもあってその答礼という意味合いも考えられる。また政治、経済、安全保障など幅広い分野で両国の関係をより緊密にすることが目的なのかもしれない。しかし、北朝鮮と友好関係にあるモンゴルが拉致問題で日朝間のメッセンジャー役を担っている現実を考えると拉致問題絡みではないかと思わず勘ぐってしまうのも致し方ない。

 モンゴルがそもそも日朝の橋渡しを買って出たのは、前回2013年の訪問の際、安倍総理がエルベグドルジ大統領に直接、拉致問題に関する理解と支持を求めたのが始まりだ。

 昨年3月に横田滋・早紀江夫妻と孫のウンギョン(ヘギョン)さんとの再会がモンゴルでセットされたのもエルベグドルジ大統領が安倍総理に「最大限の支持」を約束したことによる賜物である。また、拉致交渉と密接な関係にある朝鮮総連中央本部の土地・建物の再入札で突如モンゴルの会社が割って入ってきたのもそうした流れの中で北朝鮮―モンゴルコネクションが蠢いたからにほかならない。

 拉致問題の解決を使命とする安倍総理がモンゴルに掛ける期待は実に大きいものがある。エルベグドルジ大統領が2013年9月に来日し、翌10月に訪朝したが、この時も拉致問題での積極的な仲介を要請していた。今年もエルベグドルジ大統領は5月に来日したが、安倍総理は再度、拉致問題での協力を要請していた。

 モンゴルとの間で太いパイプを築いた安倍総理は中国での外務省の非公式交渉とは別に今年5月には側近の今井尚哉首相秘書官を、7月には谷内正太郎国家安全保障局長をモンゴルに派遣し、モンゴルを通じた解決の道を探ってきた。一部報道では5月の時は、日朝政府間の極秘協議が首都、ウランバートルで行われたとも伝えられた。

 谷内局長と7月に会談したモンゴル国家安全保障協議会のエントフゥブシン事務総長が「拉致問題解決のためモンゴルが仲介役を果たし、日朝の関係改善に協力していくことになった。(拉致問題については)今後、モンゴル政府を通じた交渉を提案、主導したい」と語ったことからもわかるようにエルベグドルジ大統領自身も安倍総理の要望を受け、今年7月初旬に北朝鮮に大統領特使(ダンビン・カノヤグ外務次官)を派遣し、金正恩第一書記に親書を伝達している。

 大統領は親書で「具体的な提案をした」ことを明かしているが、その後、特使から帰国報告を受けた大統領は「北朝鮮は信頼できる状況にある。拉致問題が解決する可能性も見えている」と述べ、事態の進展を楽観的にみていた。

 エルベグドルジ大統領は「(日朝交渉が常時開催できる)事務所を必要なら提供する用意がある」とか「日本と北朝鮮の首脳レベルの会談について希望があればウランバートルで開催できる」と公言しているが、現状は無理でも、北朝鮮の出方次第では近い将来その可能性が全くないとは言えない。要は、北朝鮮がモンゴルの仲介をどう評価しているかだ。

 エルベグドルジ大統領は先月、北朝鮮の建国記念日(9日)に金第一書記宛に祝電を送っているが、その中で「朝鮮半島と地域、国際的平和と安定を強化するうえで貴方と協調することになったことについて嬉しく思っている」と述べていた。文面通りならば、金第一書記はモンゴルと協調して朝鮮半島と地域、国際的平和と安定を強化することに同意したということだ。ちなみに北朝鮮の建国記念日には他の国々の首脳からも多数祝電が寄せられていたが、金第一書記の返電について朝鮮中央通信は唯一、モンゴル大統領宛の返電だけを個別に紹介し、その他について「世界各国の首脳に返電した」と十把一からげで伝えていた。北朝鮮がモンゴルとの関係を重視している証左でもある。

 「やっとつかんだ対話の糸口を離さない」と語る安倍総理は「北朝鮮から前向きな行動を引き出す上で、何が最も効果的かを検討しつつ、解決に向けて全力で取り組む」と決意を語っているが、膠着状況を動かすには、安倍総理が金第一書記と直談判し「嘘偽りのない、誠実な調査結果」を提出するよう説得するのも一つの手である。

 安倍総理は従軍慰安婦などの懸案を抱える日韓関係について「隣国であるが故に難しい問題も存在するが、そうした問題があるからこそ、首脳同士が胸襟を開いて会談していくことが必要だ」と昨日(19日)、視察先の福島県で語っていたが、拉致問題を抱える日朝関係でも是非同様に対応してもらいたいものだ。