2016年4月29日(金)

 「ムスダン」3度失敗の理由は何か

北朝鮮の緒中距離弾道ミサイル「ムスダン」


北朝鮮は昨日(4月28日)、中距離弾道ミサイル「ムスダン」を午前、午後と発射して、いずれも失敗したようだ。金日成主席の生誕日に行った4月15日の失敗に続き3回連続で失敗したことになる。

3発とも日本海に面した元山付近から移動式発射台を使用して発射された模様で、一回目は午前5時半に発射され、9秒後に空中爆破。二回目は午前6時40分に発射され、数秒後に海上に落下。そして3回目は約11時間後の午後7時26分に発射されたもののこれまた1分ぐらい飛んで、空中爆発したようだ。

「ムスダン」は旧ソ連の潜水艦発射型弾道ミサイル「SSN−6」を北朝鮮が90年代に手に入れ、地対地ミサイルとして独自開発したミサイルである。射程距離は推定4000kmで、核弾頭搭載可能な中距離ミサイルである。

北朝鮮は「ムスダン」を2010年10月の労働党創建65周年の軍事パレードで披露目したが、「ノドン」や「テポドン」とは異なりこれまでに一度も発射されたことはなかったが、過去に一度だけ、発射の動きがあった。「2013年の危機」の時だ。

当時、脅威に感じているB−2ステルス核戦略爆撃機が米韓合同軍事演習に投入されるやこれに反発し、日本海に面した東海岸基地に北朝鮮がムスダンを配備し、戦略ロケット部隊に発射待機の指令を出した時だ。その際、対韓宣伝機関である祖国平和統一委員会は「ミサイルの目標座標はグアムなど米軍基地である」と米国を威嚇した。

金正恩第一書記はこれまで一連のミサイル発射実験にほとんど立ち会っている。そして、立ち会った3月3日の新型放射砲、3月10日の射程500kmのスカッド、3月18日の射程1300kmのノドン、3月21日の放射砲実戦配備の最終テスト、4月1日の新型迎撃誘導ミサイル、そして4月23日の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験はいずれも「成功した」と北朝鮮は発表している。

しかし、4月15日の「ムスダン」については発射したとの報道もない。金第一書記が他のミサイル発射に立ち会っていて、グアムを標的にした、それも初の「ムスダン」の発射に立ち会わない筈はない。発表しないのではなく、失敗したから発表できなかったものと思われる。失敗しているならば、28日の2度の発射についても発射の事実を公表することはないだろう。

問題は、北朝鮮が何の実験を試みた結果、失敗したのかだ。失敗の原因としては米韓とも触れてないが、1回目は発射台もろとも素っ飛んだことや2度目、3度目も発射から直ぐに爆発、落下していることからエンジントラブルの可能性が考えられる。

北朝鮮は3月24日に高出力固体ロケットエンジン地上噴射実験を行い、「成功した」と発表している。北朝鮮はこれまで射程120kmの単距離ミサイルKN−02には固体燃料を使用していたが、スカッドやノドン、ムスダンそしてSLBMには液体燃料が使用されてきた。しかし、先のSLBMの発射実験は固体燃料が使われ、行われた。固体燃料用エンジンを使って発射し、「弾頭と本体の切り離しと設定された高度(30km)での弾頭起爆装置の動作の確実性を担保するための実験が行われた」と、北朝鮮は発表している。

金第一書記は3月15日に「早い時期に核弾頭装着が可能なあらゆる種類の弾道ロケット(ミサイル)試験発射を断行せよ」と指示していた。こうしてみると、今回も同様に固体燃料用エンジンを使用し、弾頭と本体を切り離し、一定の高度での弾頭起爆装置の動作の確実性を担保するための実験だった可能性も否定できない。

スカッドやノドン、そしてSLBMの発射は成功しているだけに3度にわたる「ムスダン」の失敗は金第一書記にとって想定外の出来事だろう。高出力固体ロケットエンジン地上噴射実験が成功した際に金第一書記は「敵対勢力を無慈悲に打ちのめすことのできる弾道ロケットの威力をより高めることができた」と豪語したが、3度の失敗で米国から「使い道のないシロモノ」「何の脅威にもならない」と「欠陥品」扱いされてしまったわけだから面子が潰れた格好となった。

今回の再発射は、1回目の失敗から2週間しか経過してない。失敗の原因を究明し、再発射までは最低でも数カ月から半年は要するとされていた。ちなみに2012年12月のテポドン再発射は4月の失敗から8カ月間要した。来月6日の党大会開催に間に合わすために無理をしたのではないだろうか。

北朝鮮は「ムスダン」を役50機保有している。面子にかけて、党大会開催前の成功を目指し、さらに発射実験を繰り返すのか、それとも原因が究明され、太鼓判が押されるまで待つのか、4度目の発射は金第一書記の判断次第だが、5度目の核実験が意外と早まるかもしれない。