2016年8月26日(金)

 北朝鮮 原子力潜水艦もすでに保有!?

SLBM発射成功後の潜水艦上での記念写真。真ん中の白いシャツ姿が金正恩委員長


北朝鮮が「北極星―1号」と称する潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を初めてテストしたのが昨年5月。150mしか飛行せず、空中爆破し、失敗に終わった。それが、僅か1年数カ月で500km飛び、設定された目標地点に着弾した。

仮に、垂直でなく、角度を斜めに発射すれば、また燃料(固型)を多めに装填すれば、飛行距離は1000km〜2000kmになると韓国国防部は分析していた。

それにしても北朝鮮の短期間でのSLBMの成功は信じがたい出来事だ。SLBM発射能力を有する国は米国、ロシア、中国、フランス、英国の常任安保理5か国とインドの6か国に限られているからだ。

一般に知られてないが、潜水艦に限っては北朝鮮の戦力は韓国のそれを大きく上回っている。潜水艦・潜水艇保有数は78隻で、72隻の米国を上回り、数の上では世界1位である。

ロメオ級(1800トン)20数隻、サメ級(300トン)38余隻、それに潜水艇(130トン級)十数隻保有している。一方の韓国は1800トン級6隻と1200トン級9隻合わせて15隻と、北朝鮮の5分の1の水準である。ちなみに3位は中国69隻、4位はロシアで63隻である。(日本は16隻)

それでも韓国海軍は「性能は我々の潜水艦のほうが良い。潜水艦に備えられた各種武器体系も上だ。何よりもソーダー(SODAR)の性能が違う。我々の潜水艦はほとんど音を出さない。北朝鮮のロメオ級潜水艦はディーゼルの旧式で、一日一回は水面に浮上し、バッテリーを充電しなければならない。潜水艦が水面に出てくれば、P−3Cのような対潜哨戒機で直ぐに補足し、魚雷攻撃できる」と自信満々だ。

ところが、韓国海軍の哨戒艦「天安」(1220トン=乗員104名)が2010年3月、北朝鮮の潜水艦によって撃沈されている。接近されていることも、狙われていることも気付かず魚雷一発で海底に沈んでいったことは記憶に新しい。

北朝鮮の潜水艦侵入を探知できなかった典型的なケースとして古くは1996年に起きた北朝鮮の江陵潜水艦浸透事件がある。

北朝鮮のサメ級潜水艦が東海岸からNLL(北方限界線)を越え韓国の江原道・江陵に浸透したのが9月14日。折しも9月16日〜18日まで韓国海軍の海上機動訓練が行われ、駆逐艦、戦闘機、哨戒艦の他、潜水艦の探知を主な任務とするP3C哨戒機とリンクスヘリ(LYNX)が動員され、対潜水艦訓練も行われていた。ところが、韓国領海に浸透してから4日目の18日に座礁していた北朝鮮の潜水艦を発見したのは韓国軍の最先端探知機ではなく、海岸沿いを走行していたドライバーだった。

それだけではない。昨年8月に「拡声器放送」で一触即発の状態となり、北朝鮮が準戦闘態勢に突入した際に北朝鮮の72隻の潜水艦のうち約50隻が密かに出航し、姿を晦ましたが、韓国海軍は最後まで行方を追えなかった。

今回SLBMの発射に使用されたのは2000トン級新型潜水艦である。SLBM搭載能力が1発と限定されていることから北朝鮮はロシアから購入した退役のゴルフ級潜水艦(3000トン級)をベースに現在3000トン級以上の潜水艦を秘密裏に開発している。

ゴルフ級はSLBMを3発装着できる。ゴルフ級から発射されるSLBMは「R−21」で最大射程距離は1、420km、弾頭重量は1,180kgである。潜航能力は70日に達する。太平洋に出航すれば、ハワイやグアムなど米国の戦略要衝地を射程圏中に置くことができる。

注目すべきは、北朝鮮が1993年にロシアから原子力潜水艦を購入した可能性があることだ。軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス」(2005年4月8日号)によれば、巡航ミサイル搭載の攻撃型潜水艦だ。

内部告発サイト「ウィキーリークス」は2010年12月2日に米国の駐上海領事館が2008年9月26日に作成した公文書を公開したが、その内容は「北朝鮮の海岸にこれまで知られてない秘密海底核施設があるとの極秘情報を中国が入手した」というものだった。情報が事実なら、原子力潜水艦の建造を指しているのかもしれない。

今から4年前の2012年7月14日の「You Tube」に金光鎮人民武力部副部長(当時)が朝鮮革命博物館で金正日総書記に北朝鮮で建造されたとされる原子力潜水艦の模型の前で説明する動画が配信されたことがあった。

画面に現れた北朝鮮の新型原子力潜水艦はロシアのデルタ型原子力潜水艦(デルタ4級潜水艦)と酷似していた。

この映像を分析したある軍事専門家によると、ロシアのデルタ4級潜水艦はミサイル垂直発射台空間が展望塔になっているのに対し、北朝鮮の新型原子力潜水艦は弾道ミサイル垂直発射台空間が展望塔の前にあったとのことだ。

また、北朝鮮の新型原子力潜水艦の長さは140mと、167mのロシアのそれより少し短く、水中排水量は1万トン程度。乗務員は100人ぐらいで、2ヶ月以上も潜航可能な潜水艦であるとのことだ。

北朝鮮はSLBM発射実験をやる以前の2013年3月5日の声明で「我々式の精密核打撃手段は人民軍戦略潜水艦であり、人民軍戦略潜水艦の精密核打撃対象は米国の急所である」と言及していた。

北朝鮮は現在、自前の軽水炉を建設している。仮に小型加圧軽水炉もつくれるなら、攻撃型核推進潜水艦も不可能な話ではないが、事実ならば衝撃的だ。「核能力を保有した軍事大国の戦列に堂々と入った。米本土と太平洋作戦地帯は今、我々の手中にある」とのSLBM発射成功を祝った金委員長の豪語もあながちハッタリとは言えなくなるからだ。