2016年12月1日(木)

 国連の新たな制裁に北朝鮮はどう出る!?

米国を標的にした長距離弾道ミサイルと金正恩委員長


国連安保理の対北朝鮮制裁決議(「2321号」)が9月9日の5度目の核実験から82日目して採択された。今年1月6日の4度目の時は「2270号」の採択(3月3日)まで57日間要したが、今回は随分と長引いた。手間取ったことがわかる。

(参考資料:国連安保理の北朝鮮制裁決議はなぜ遅れているのか

前回の決議は船舶と航空機の規制、原油供給の規制、資源取引の規制、全ての武器取引の禁止、金融取引の制限拡大、不法行為の外交官追放、贅沢品の規制対象の拡大が盛り込まれたことから「過去20年で最強の制裁決議」(サマンサ・パワー駐国連米大使)と評価された。しかし、北朝鮮は決議を無視し3月から10月にかけて弾道ミサイルを25発乱射し、9月9日には5度目の核実験を強行した。

今回の新たな制裁決議「2321」は核・ミサイル開発のための資金源を断つことに主眼が置かれている。その結果、北朝鮮の主要外貨獲得手段となっている石炭収入が7億ドル規制された。北朝鮮は昨年中国に石炭1,960万トンを輸出し、10億5千万ドル手にしていた。

前回の決議では鉄、鉄鉱石、金、チタニウム、バナジウム鉱石が輸入禁止品目に加えられたが、今回も新たに銀、銅、ニッケル、亜鉛が輸出禁止品目に加えられ、さらに年1億ドルの収入が遮断される。年間30億ドルの輸出総額から8億ドル(約907億円)の収入減は北朝鮮にとってはダメージになるのは言うまでもない。加えて、北朝鮮の外貨獲得手段である銅像など大型造形物の輸出も禁止される。

金融制裁も強化され、加盟国は原則として北朝鮮との貿易のために公的・私的な金融支援をしてはならないと規定された。さらに国連加盟国内にある北朝鮮公館の職員数を減らすよう求めるとともに、北朝鮮の在外公館員の口座を1人1口座に制限している。この他に海外への労働者派遣制限、北朝鮮船舶への制裁と貨物検査の強化や北朝鮮の対外関係への圧力強化も盛り込まれた。

制裁対象人物や機関も拡大し、北朝鮮の駐エジプト大使ら個人11人、「統一発展銀行」など10団体の資産凍結と渡航禁止の対象に加えた。制裁を受ける北朝鮮の個人はこれで39人、団体は42に増えた。また、北朝鮮が決議に従わずさらに挑発(核実験やテポドン発射)をすれば、国連加盟国としての資格を停止するとの警告も発している。

こうしたことから韓国の尹炳世外相は今回の決議について「最も強力で包括的な制裁」と評価している。しかし、今回も金正恩委員長は制裁対象から外されている。

(参考資料:国連安保理は金正恩委員長を制裁対象者に指定できるか

安保理決議(1718号)では制裁対象人物は「北朝鮮の核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連の計画に関係のある北朝鮮の政策に責任を有している(北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者を含む)者」と定められている。となると、真っ先に金正恩国防委員長がリストアップされなければならない。その理由は、水爆実験は金正恩国防委員長が12月15日に決断し、また長距離弾道ミサイル「光明星」の発射も「2月7日に打ち上げろ」との命令を出しているからだ。北朝鮮は金第一書記の直筆のゴーサインも公開している。それなのに今回も制裁対象から外されている。

北朝鮮の制裁対象は今回、個人11人と団体10が追加され、個人39人、団体42に増えたものの、その数はイラクと比べればはるかに少ない。サダム政権下のイラクに対する経済制裁では制裁委員会が作成したブラックリストにはフセイン大統領を含め89人の個人と205の組織、団体がリストアップされていた。このようなレベルの制裁決議で果たして北朝鮮の核、ミサイル開発を止めることができるのだろうか?

国連安保理は北朝鮮の初の核実験(2006年)と2度目の核実験(2009年)への制裁として制裁決議「1718号」と「1874号」を採択し、制裁を科した。

韓国現代経済研究院の報告書(「国連安保理制裁の影響」、2009年6月発表)によると、国連によるこの二つの制裁で「北朝鮮は少なくとも15億ドル相当、最大で37億ドル相当の経済的損失を被る」と予測された。当時の北朝鮮の国内総生産(GDP)は195億ドル(2008年基準)であることから損失額はGDPの7.6%〜18.9%を占め、北朝鮮にとっては大きなダメージであった。しかも、経済制裁と同時に船舶検査が強化され、武器、麻薬、偽タバコの密輸が遮断され、年間10億〜15億ドル相当の損失が加算された分析されていた。

しかし、北朝鮮はその後も、3度の核実験と3度の衛星と称する事実上の長距離弾道ミサイル(テポドン)を発射している。むしろ、国連の制裁決議は北朝鮮にとっては核実験の口実となってきているのが実情である。ちなみに北朝鮮が史上初の核実験を強行した2006年の中朝貿易は輸出入総額で20億ドル前後。今の3分の1程度に過ぎなかった。

過去のケースでは「国連安保理が米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害したばかりか、我が共和国の最高利益である国家と民族の安全を直接侵害する道に入った」として自制するどころか、むしろ北朝鮮は核とミサイル開発に拍車を掛けてきた。

初の核実験(2006年10月9日)は安保理が人工衛星と称したテポドンを非難する決議(7月15日)が採択されてから86日後に、2度目の核実験(2009年5月25日)も同じくテポドン発射を非難した安保理議長声明(4月13日)から42日後に、そして3度目(2013年2月12日)も前年のテポドン発射への制裁決議(1月23日)から20日後に強行していた。

4度目の核実験(2016年1月6日)は国連の制裁決議が直接的な引き金となっていないが、5度目(2016年9月9日)は国連安保理の3月3日の「過去20年来最強の制裁」及び「ノドン」や「ムスダン」、さらにはSLBMなど弾道ミサイルの発射への安保理の非難声明を口実にしていた。

決議から核実験まで最短で20日であることから12月中の6度目の核実験に踏み切る可能性も否定できない。

北朝鮮は今年3月から弾道ミサイルを25発発射しているが、10月20日の「ムスダン」以来、1発も発射していない。中距離(ムスダン)あるいは長距離(KN−08)ミサイルを11月7日の米大統領選挙にぶつけるのではと警戒されていたが、それも見送っている。再三にわたって示唆していた6度目の核実験も自制したままだ。

しかし、北朝鮮の外務省は5度目の核実験(9月9日)から2日後の9月11日、「我々の尊厳と生存権を保衛するため核武力の質量的強化措置を継続する」と公言し、さらに2日後の17日付の労働新聞は「米国の核脅威と制裁圧力が続く限り、それに伴う我々式の自衛的対応措置も連続的に取ることになるだろう」との記事を掲載していた。国連総会第一委員会(軍縮・安全保障委員会)(10月6日)の場でも北朝鮮の代表が「自衛的な核戦力を質的、量的にさらに強化する」と6度目の核実験を示唆していた。

今月17日は故金正日総書記の命日(5周忌)である。この日はまた、北朝鮮が経済再建のため大々的キャンペーンを展開してきた「200戦闘」の最終日にあたる。さらに、30日は金正恩最高司令官就任5周年と記念日が続く。

北朝鮮は「宇宙制服の活路を開いていく」と述べ、衛星打ち上げ目的で長距離弾道ミサイルの発射を示唆していた。金委員長自身も9月19日、停止衛星運搬ロケット用の新型エンジン噴出試験に立ち会った際「衛星を多く製作し、発射して、数年内に停止衛星保有国にせよ」と指示していた。北朝鮮が「200日戦闘」の総仕上げ、成果としてテポドンと称される人工衛星を打ち上げることは十分あり得る。

前回同様に北朝鮮外務省が「さらなる自衛的措置を取る」との声明を出せば、弾道ミサイルの発射、もしくは6度目の核実験に踏み切るだろう。

(参考資料:新たな追加制裁で北朝鮮の核実験、ミサイル発射は止まるか!