2016年12月30日(金)

 朴槿恵大統領の犯罪を立証できるか

 朴槿恵大統領に対する特別検察官(パク・ヨンス特別検事)の捜査が12月21日から始まっている。捜査期間は70日。さらに30日間の延長(3月30日)も可能だが、これには大統領の承認を要するため実質的には2月28日までの間に決着を付けなければならない。

 特別検察官の調査は、検察特別捜査本部が朴大統領を崔順実被告やアン・ジョンボム被告(前大統領政策担当首席秘書官)やチョン・ホソン被告(前大統領行政秘書官)、チャ・ウンテク被告(音楽・映像プロデューサー)らと「共謀した」と明示し、「容疑者」扱いにした特別捜査本部の調査結果を引き継ぎ、証拠を固め、朴大統領の共謀容疑を立証、起訴することにある。

 「ミル文化財団」と「Kスポーツ財団」の設立を主導し、企業に巨額の資金拠出を迫った崔順実被告やアン被告らの起訴状には「大統領と共謀」とした記述されている。チャ被告の起訴状だけでも5回にわたって朴大統領の「共謀」に関する記述がある。

 調査を終えた特別捜査本部は朴大統領の容疑のうち「99%は立証可能」(捜査チームの長であるノ・スンクォン第一次長の非公開ブリーフィング)と自信を仄めかしていたが、特別検察官は大統領が相手だけに容疑を完璧に立証しなければ、朴大統領退任後に起訴して、有罪に持ち込むことはできない。

 特別検察官の調査は大統領の職権乱用と公務上の機密文書の漏えいと人事介入の三点に絞られているが、憲法裁判所での朴大統領弾劾可否の決め手は職権乱用による収賄容疑にあると見る向きもある。大法院(最高裁判所秘書室長)やソウル高等裁判所での判事を歴任したチョ・デヒョン前憲法裁判所裁判官は韓国の某紙とのインタビューでその理由について次のように語っている。

 「今回の弾劾審判の最大争点は職権乱用と第三者収賄罪となるだろう。機密文書流出と『セウォル号7時間』は弾劾の理由に大きな影響を与えないものと予想される。収賄罪についてはこうみている。統治権力を持った大統領が大企業総帥らを呼んで、寄付金を要請し、総帥らは企業の不利益を予防するため寄付を拒否することができなかったならば、統治権力の乱用で収賄罪は十分に適応できる。大統領の職務と権限は広範囲にわたっているため特定の恩恵と直接連結していなくても、賄賂の職務関連性が認定されるというのがこれまでの慣例だ。統治権力を乱用した大統領は弾劾の必要性を否定できないだろう」

 朴大統領には▲昨年10月の「ミル文化財団」、今年1月のスポーツ支援財団「Kスポーツ財団」の発足にあたり、大企業から774億ウォン(約73億円)を強引に拠出させた容疑▲チャ被告のポスコ系広告会社の株式の不正取得や崔容疑者が所有する広告企画会社「プレイグランド」への現代自動車の広告発注への影響力行使の容疑▲第一企画スポーツ総括社長に圧力をかけ崔被告のめいのチャン・シホ被告が運営するセンターに16億2800万ウォンを後援させた容疑▲サムソングループに崔被告の娘(ユラ)の乗馬訓練に巨額の資金を拠出させた容疑▲現代自動車に働きかけ、崔被告の知人の会社であるKDコーポレーションに現代自動車関連納品させた容疑▲CJグループに圧力を掛け、イ・ミギョン副会長の退陣を強要した容疑など様々な容疑がかけられている。

 一連の容疑について朴大統領側の弁護人団は憲法裁判所に回答書を提出しているが、その中で職権乱用と収賄容疑については次のように反問している。

 収賄容疑について

  ―「ミル文化財団」や「Kスポーツ財団」事業は大統領の国政遂行のごく一部で、朴大統領は私益を得てない。
  ―財団は公益事業で、朴大統領は企業人らに代価を条件に基金を依頼したのではないので賄賂授受の行為は認定されない。
  ―財団と大統領と崔被告は別個で、財団の私有化は不可能なことから財団が受けとる基金を賄賂と同一視できない。

 第三者収賄罪

  ―大統領は崔順実被告の私益を認識できなかった。
  ―大統領はKDコーポレーションの現代自動車納品関連で経済的利益を得たことはない。崔被告とも共謀もしておらず、崔被告が金品を受け取っていたことも知らない。仮に崔被告がこの会社の代表から金品を授受したとしてもそれだけで朴大統領への第三者収賄罪は成立しない。

 権力乱用罪

  ―大統領が企業らに強制的に財団への出金を要求したことはないし、出金企業関係者らも検察の調査で自発的な募金だったと陳述している。
  ―企業の不正請託が立証されてない。漠然と「善処してくれるだろう」との期待から崔被告に金品が供与された場合、黙示的な意思表示による不正な請託とはみなされない。
  ―強要は企業らの意思に反する行為であり、賄賂は自発的な行為であることからそもそも両立しない。大企業の財団拠出金に関連して賄賂授受に該当するとしながら、強要罪に該当するというのは矛盾している。
  ―個別企業の納品、広告など私企業の営業活動は公務員である朴大統領や経済首席秘書官らの職務の範囲に属さないので職権乱用罪も成立しない。
  ―朴大統領は暴行や脅迫を指示していないのでどのような脅迫があったのか特定されてない。従って強要罪も成立しない。
  ―大統領が中小企業の困難を積極的に解決するよう関係首席秘書官らに指示するのは構成業務の一環であり、第三者賄賂授受の故意はない。

 特別検察官は検察がすでに押収したアン被告の手帳から朴大統領が具体的な募金金額や民間企業に直接人事介入するなど違法・脱北行為があったことを突き止めているようだ。また、朴大統領が大企業らの総帥らを個別に呼び、募金を要請し、企業側の頼みごとや懸案に便宜を払ったことについても調べがついているようだ。SKグループとCJグループに対しては会長らの恩赦、サムソングループに対してはサムソン物産と第一毛織の合弁特恵、そしてロッテやハンファグループに対しては免税店認可等々である。

 サムソン副会長ら疑惑の渦中にある財界総帥らはすでに出国禁止措置が取られており。近々本格的な調査が行われる。青瓦台への強制捜査も視野に入っており、少なくとも1回は朴大統領の対面調査も行われる。

 憲法裁判所の結審のタイムリミットは6月6日、崔順実裁判の一審判決は5月19日までである。仮に、それまでの間に「朴大統領は黒」との特別検察官による調査結果が出れば、「崔順実裁判」の結果を待つまでもなく、憲法裁判所は朴大統領を罷免することになるだろう。