2016年12月30日(金)

 トランプVS「韓国のトランプ」 米韓は対立か、協調か

トランプ次期大統領と「韓国のトランプ」こと李在明市長


来年1月20日には共和党のトランプ氏が米国の第45代大統領に就任し、トランプ政権が正式に発足することになる。

「米国ファースト主義」のトランプ次期大統領は「世界の警察官にはならない」と公言していた。米国の得にならないこと、即ち国益にならないことはやならいと宣言したことに等しい。米国と同盟関係、あるいは良くも悪くも利害関係にある国々との関係に異変が起きることは避けられそうにもない。韓国も経済、安全保障の面で「トランプ旋風」の影響をもろに受ける国となるだろう。

トランプ次期大統領はオバマ政権下で決まった米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備について「役に立たない」と「無用論」を主張していた。

また、駐韓米軍についても「米軍が駐留してもこれから韓国で平和を維持されるだろうという保障がどこにあるのか」と述べ、防衛費を韓国が増額しなければ、韓国から駐韓米軍を撤収させることも辞さないと主張している。増額しなければ、「これからは自分で自分を守れる」と言って、韓国政府を慌てさせている。

さらに、北朝鮮についても「北朝鮮が持続的に挑発のレベルを高め、核能力を拡張しているのにオバマ大統領はただ手を拱いて見ていただけだ」とオバマ政権の「戦略的忍耐政策」を批判したうえで「金正恩と北朝鮮核問題について対話することに何ら問題はない」と公言し、北朝鮮との対話に前向きの姿勢を示している。

但し、核を放棄するよう説得できる可能性については「10〜20%程度」と決して楽観視していないが、対話が進展すれば、米朝史上初の首脳会談もあり得なくもない。しかし、失敗すれば、16年前の「北朝鮮が実質的な脅威を与える前に、我々が先に無法者を狙って精密打撃するべきだと考える」との発言が現実味を帯び、朝鮮半島は一触即発の状態に置かれるだろう。

(参考資料:トランプ大統領当選で北朝鮮とは電撃和解か、それとも戦争か!

トランプ大統領の誕生で激震が走るかもしれない韓国では仮に国会で弾劾された朴槿恵大統領が4月までに憲法裁判所で罷免されれば、上半期中に大統領選挙が行われ、新政権が発足する。弾劾が棄却されても、12月には大統領選挙があるのでどちらにせよトランプ大統領には新大統領が相手することになる。

仮に次の大統領が世論調査の支持率で3番手に付けている「韓国のトランプ」と称されている李在明(イ・ジェミョン)京畿度・城南市長(52歳)が番狂わせの結果、なった場合はどうなるか?

(参考資料:次期大統領候補「韓国のトランプ」の支持率がソウルではトップ! )

二人を比較すると、富豪のトランプ氏とは異なり李在明氏は貧しく育った。ビジネスマン出身に対して弁護士出身とキャリアも違い過ぎる。年齢も1946年生まれのトランプ氏に対して1964年と18歳も離れている。共通点は二人とも泡沫候補扱いだったことと、歯に衣を着せぬ大胆な発言にあるのかもしれない。支持者からすれば溜飲を下げる「サイダー」のようなものだが、反対者からすれば、それが「暴言」にも聞こえる。

大胆発言では引けを取らない李在明氏はトランプ氏の韓国関連発言を一体どのように受け止め、対応しようとしているのか、彼の対トランプ発言を簡単に列挙してみる。

「THAADの韓国配備」について

「THAADの配置に反対だ。THAADは首都圏の防御に寄与しない。結局、中国が懐疑的にみているように米国の世界ミサイル防御(MD)戦略に従属することになる。米韓関係は従属的関係であってはならない。THAADの配備は従属的関係に近い。この問題で我々は中国からは経済制裁、米国からは安保脅威を強要されている。対策もなく配備し、中国から経済制裁を受けるようなことになってはならない」

「駐韓米軍負担増額」について

「(トランプ次期政権が)増額を要求するなら、我々は逆に削減を求めるべきだ。駐韓米軍は固定された軍隊ではない。迅速機動軍隊である。米国が必要だから駐屯しているわけで、いつでも出ていけるようになっている。代わりに、我々は米軍に臨時に駐屯するための基地を提供しているわけだ。当初の米韓安保条約には韓国の防衛費負担はなかった。それが1990年からつくられた。ドイツは18%、日本は50%、韓国は77%も負担している。我々は不当に多く負担している問題からまず提起すべきだ。朴槿恵政権は米国が要請する前から増額すべきと言い始めている。米国が出ていったら防衛できないから米国の要求に応えるべきというのはあまりにも無責任だ。国益中心の自主的なバランス外交を行うべきだ。フィリピンのドゥテルテ大統領の軍事・外交面での等距離外交は一考に値する。フィリピンが中国と経済、軍事協力を行うと言ったら、米国は特使を派遣した。フィリピンは危機を完全に機会に変えた。」

「駐韓米軍撤収」について

「(トランプ発言に)不安を感じる人がいるかもしれないが、逆にこれをチャンスと捉えるべきだ。自主国防をする絶好の機会となる。戦時作戦権を回収し、対北抑止力確保のため強力な国防力を構築する機会となる。全世界で作戦権のない国は韓国だけだ。どんな弱小国でも作戦権を持っている」

(参考資料:トランプ次期大統領の「北朝鮮(金正恩)関連発言」

「北朝鮮との関係」について

「対北制裁一辺倒のオールインは危険だ。アメとムチの両方が必要だ。対話と交渉を並行した一覧表を持っておくべきだ。制裁と圧迫で相手を降伏、滅亡させることができなければ、相手は現実的には存在するわけだから、お互いにウィン・ウィンの方向に持っていくのが外交だ。こちらが一方的に利益を得て、相手が一方的に損を見るというのは不可能だ。相手の存在を認め、相手が得するようにすることで我々がもっと多くの利益を得ることができる。米朝平和協定も米朝国交正常化も検討すべきだ。北朝鮮に利益を与えないようにするため韓国がより大きな損失を被るのは愚かなことだ。開城工業団地も金剛山観光の再開も我々の安全保障上必要だ」

トランプ次期大統領の発言と共通する面もあれば、対立する面もあるが、比較的穏健な他の大統領候補に比べれば、仮に李在明大統領候補が当選するようなことになれば、米韓関係、朝鮮半島に激震が走ることだけは間違いなさそうだ。