2016年2月22日(月)

 処刑された李永吉総参謀長の後任にロートル復活の謎

李永吉前総参謀長(左)と李明秀新総参謀長


発売中の「フラッシュ」(3月1号)に編集部から依頼され、金正恩政権下で解任、粛清、処刑された党・軍・政府幹部らのリストを作成し、掲載した。問題の李永吉総参謀長(大将)については解任間違いなしとみていたが、囁かれているように「軍内に派閥をつくり、分派活動をした」理由でやはり処刑されていたようだ。

李永吉大将は金正恩政権下の2013年に5軍団長から作戦局長に起用され、58歳で総参謀長に抜擢されたことから金第一書記の腹心とみられていた。それが、処刑とは、何とも哀れ極まりない。

後任の李明秀総参謀長(大将)も生粋の軍人である。経歴をみると、3軍団長から1997年に作戦局長に就任している。李永吉将軍の大先輩でもある。

李明秀総参謀長は1996年の総参謀部副参謀長の時から金正日総書記の部隊視察の常連であった。総参謀部時代は趙明録軍総政治局長、金英春軍総参謀長に次ぐ軍部3位の実力者だった。

金正日政権の最後の年の2011年4月に警察にあたる人民保安部部長に就任したが、僅か2年で交代となり、2013年4月には党政治局員、軍事委員、国防委員のすべてのポストから解任されていた。解任理由は定かではないが、当時79歳と高齢のことからお役御免の引退説が流れていたが、82歳になって復活したところをみると、高齢による引退は事実でないことがわかる。

それにしても、金第一書記はなぜ、この機会に若返りせず、20歳以上も年上のロートルを再び登用したのだろうか?これもまた謎だ。

総参謀部の上部機関は国防委員会である。国防委員会のトップは委員長の金第一書記で、その下に政治局員常務委員の黄炳誓次帥、政治局員の李勇茂次帥、そして政治局員候補の呉克烈大将3人の副委員長がいる。76歳の黄と90歳の李の両副委員長は軍総政治局長と元軍総政治局長の先輩後輩の間柄である。3人の中で総参謀長を歴任したのは今年86歳の呉副委員長のみだ。

呉副委員長は空軍司令官から軍参謀部に入り、1979年から1988年まで9年間総参謀長のポストにあった。中国国際戦略学会の厳江楓副会長はかつて訪中した自民党の加藤紘一元幹事長に「国防委員会の呉克烈副委員長は人望があり、軍を統括している。呉氏の下で不協和音が生じることはあり得ない」と明言していたほどの実力者である。

もしかすると、李英鎬次帥(2009年2月―2012年7月)に玄永哲大将(2012年7月―2013年5月)そして李永吉大将(2013年8月―2016年2月)も呉副委員長が総参謀長に推挙した可能性も考えられなくもない。総参謀部から、それもトップ3人が金第一書記に逆らい、解任、処刑されたとなると、呉副委員長の立場は危ういと言わざるを得ない。

発射場の東倉里から列車で戻った金正恩第一書記が平壌駅で花を手にして整列して出迎えていた党幹部らにはにこやかに応対していたものの呉克烈副委員長には全く見向きもせず、無視したのは、監督不行き届きを問題にされたのかもしれない。となると、5月の党大会で呉副委員長は「引退」に追い込まれるかもしれない。

一体、処刑された3人の総参謀長を推薦したのは誰なのか?また、82歳の老将軍を総参謀長に据えたのは誰なのか?北朝鮮の軍部の動向を占う意味でも興味津々だ。