2016年7月9日(土)

 韓国の財閥総帥らにとっては「前科も資産のうち」?

ソウル拘置所に護送される辛英子ロッテ福祉奨学財団理事長


韓国財閥5位のロッテグループの創業者の長女、辛英子ロッテ福祉奨学財団理事長が7月7日に横領、背任容疑などで逮捕された。

姉逮捕の翌日に弟の辛東彬(日本名:重光昭夫)ロッテグループ会長に出国禁止措置が取られた。辛会長の検察への召還は時間の問題とされ、姉同様に逮捕もあり得ると報道されている。

一昨年12月には財閥8位の韓進グループオーナの長女である趙顕娥大韓航空(KAL)副社長が「ナッツリターン事件」(航空保安法違反)で逮捕され、懲役1年の実刑判決が下されたのはまだ記憶に新しい。

昨年もLG社長がサムソンからサムスンのショールームを訪れたLG家電事業部の最高責任者がサムスンのドラム式洗濯機のドアを壊したとして器物破損と営業妨害で告訴されたことに対して「性能をチェックしただけ」として逆にサムソンを証拠捏造と名誉棄損で告訴するという「恥ずべき事件」が起きている。

韓国では財閥の評判はすこぶる悪い。財閥のオーナーもその2世、3世も横暴で傲慢との風評や「富を独占している」という理由だけではない。財閥の多くが時の権力と癒着し、違法行為や脱法行為を繰り返し、成長してきたとみているからだ。そうしたことから「財閥の連中らは金儲けのためなら何でもやる悪い奴ら」と庶民の財閥を見る目は厳しい。

今から約20年前に韓国の週刊誌「週刊朝鮮」が実施した調査では驚いたことに韓国の30大財閥総帥のうち73.3%にあたる22名に前科があった。前科記録がない総帥は8人に過ぎなかった。30大財閥の前科累計は36犯で、一人当たり1.2犯の割合だ。

確かにここ数年をみても、2013年にはLG創業者の弟の長男にあたるLIGグループの具滋元会長が中堅建設会社のLIG建設が経営破綻直前の状況にあることを知りながら健全経営を装い、総額2000億ウォンを超えるコマーシャルペーパー(CP)を発行し、投資家に損害を与えたとして懲役3年の判決が言い渡されている。

一昨年も、背任などの罪で1審、2審で実刑判決を受けて拘置所生活が続いていたハンファグループの金升淵会長に対して、「懲役3年、執行猶予5年、300時間の社会奉仕活動」という判決が下されている。

昨年もCJグループの李在賢会長が1600億ウォン規模の背任、横領、脱税で懲役2年6カ月、罰金252億ウォンの実刑判決を受けたばかりだ。

前出の週刊誌の調査によると、財閥の総帥らが違反した法律の種類は大統領選挙法から都市計画法、刑法など全部で19に達する。

最も頻度が高いのは刑法上の贈賄容疑で全体の20%(6名)がこれに該当している。「利権を得るには権力者への賄賂が欠かせない」との悪しき慣習が背景にあるようだ。

次に建築法の違反が16%、即ち5名いる。その理由は、相当数の財閥が建設、土木関連事業を経営母体としている企業が多いからだ。

三番目に多いのが業務上の横領や外換管理法違反。業務上横領が多いのは「会社の金、即ちオーナーの金」という韓国的財閥風土から総帥自身の個人的な用度で会社の金を使うケースが多いことに尽きる。外換法は財閥総帥らが脱不法的方法を駆使して、財産を海外に持ち出したことで適用された法律である。

ちなみに当時、前科記録が最も多い財閥の総帥はHグループのJ会長とKグループのK会長で、それぞれ前科5犯となっている。J会長は業務上横領、窃盗、産業安全保険法と建築法違反などだ。

また、DグループのK会長は贈賄贈与で起訴され、建築法と都市再活用違反などで罰金刑宣告を受けたほか、不起訴となったが、私文書偽造、環境保護法違反、暴力行為などで7回も捜査されていた。財閥の中には20回以上も司法当局に名前が挙がる不明様な記録を持つ総帥もいる。

認可、許可の過程から賄賂を贈らなければならないし、建物一つ完成させるには数百の寸志(袖下)を準備しなければならないし、また激動する情勢に対応するには政界に「保険」をかけなければならないことから財閥の前科も不可避となっているようだ。

盧泰愚大統領への献金問題で検察に引っ張られたある財閥の総帥が「この国でビジネスをやろうとすれば、前科者になるのを覚悟しなければならない」と語ったのは今でも語り草となっている。

どうやら財閥の総帥らにとっては「前科も資産のうち」なのかもしれない。