2016年7月30日(土)

 知られざる脱北者の実態

「最後の勝利」を目指した「200日戦闘」のキャンペーン


脱北者が2001年の三桁の583人から2002年に四桁の1千人台(1,142人)に跳ね上がってからの過去13年間で最も多い年が2009年の2,927人で、最も少なかったのが昨年(2015年)の1,276人である。

過去最高の年の2009年は4月に「衛星」と称するミサイル「テポドン」の発射が、5月には2度目の核実験が強行され、国連の経済制裁と外交圧力に直面した年でもあった。

中国で脱北の支援している米国の民間団体「北朝鮮人権委員会」が2004年8月から2005年9月にかけて中国に逃避、潜伏していた脱北者1,346人を対象にアンケート調査を実施したことがある。脱北者の実態を浮き彫りにしており、実に興味深い。

まず、北朝鮮での出身地では最も多いのが中国との国境に近い「咸鏡北道」で76%。また北朝鮮での職業は62%が「労働者」で、35%が「農民」であった。学歴については「高卒」が52% 、「小卒」が44% で、「大卒」は僅か1%に過ぎなかった。

脱北理由については「経済的な理由」が96%と圧倒的で、「政治的迫害が理由」は4%と意外と少なかった。

「北朝鮮でどうやって生計を維持していたのか?」との問いには「配給」がたったの3%で、「市場で食料を調達していた」が全体の62%に達していた。外国からの援助米については「軍隊に配給されている」と答えた人が94%に達し、支援物資が貧者に回っていないことも判明した。

アンケートには「収容所生活を体験したことは?」との質問もあったが、「ある」と答えた人は10%と全体の1割だったが、「収容所での餓死や拷問死を聞いたことは?」の質問では餓死については「知っている」が90% 、「拷問死」についても75% が知っていた。

最後に「中国からどこに行きたいか?」の質問では「韓国に行きたい」が64%と最も多かったものの「米国に行きたい」も19% 、「このまま中国にいたい」も14% もあった。しかし、「日本」と答えた人は一人もいなかった。

この時の調査から10年が経過していることから脱北理由などについては若干変化があるものと思われるが、本質的には今も変わらないだろう。

また、韓国に定住している脱北者の半分は既婚者ではあるが、離婚者が15%に上っていることも脱北者12,777人を対象に所管の統一部が昨年に調査をした結果、判明した。

それによると、既婚者は全体の48.4%で、そのうち配偶者の45.2%が同じ北朝鮮出身者であった。中国人配偶者が28.3%と続き、韓国人配偶者は全体の4分の1の25.6%に留まっていた 。

なお、家族2人連れて、北朝鮮から脱北し、第3国への亡命を求め、現在潜伏中と韓国で報道されている将軍級の軍人(人民武力部少将)に数十億円の所持金があるようだが、とても本人の個人資産とは考えられず、公金横領の可能性も考えられる。

今から10年前、当時野党だったハンナラ党の議員が統一部に提出を求めた国政監査資料によると、2000年から2005年6月まで韓国に亡命した脱北者4,080人のうち10.7%にあたる436人が北朝鮮や潜伏中の中国、あるいは逃亡地の第三国で犯罪を冒していた。

それによると、殺人10人、人身売買23人、麻薬密売10人、強姦・強盗・窃盗など151人、公金横領21人となっていた。あくまで自己申告によるもので、実際にはもっと多いものと推定されていた。

韓国に無事辿り着いた脱北者が韓国社会に出てまず突き当たる壁は、韓国社会の脱北者に対する偏見と差別だ。「親兄弟を捨てた薄情者」から「裏切り者」、あるいは「何か悪いことをして逃げてきたのでは」との「風評被害」に悩まされるのが一番辛いようだ。

次に、就職の壁だ。学歴がないことがハンディーとなっている。「中高卒」であっても、北朝鮮で取得した技能や資格が韓国社会で全く役立たず、希望の仕事にありつけず、結果として3K(危険、きつい、汚い仕事)に従事させられるケースが多い。ある統計では、成功者は10人に1人いるかいないかと云われているぐらい、脱北者にとって韓国は「狭き門」である。

韓国の与党議員が4、5年前に90年以後亡命した脱北者308人に対してアンケート調査を行ったところ、脱北者の平均収入は韓国一般サラリーマンの半分で、さらに生活苦から14%が韓国で窃盗、強盗などの犯罪に手を染めていたことも判明している。

昨年の統一部への国政監査でわかったが、北朝鮮にUターン亡命した脱北者も16人もいた。それによると、2001年に1人、2012年と2013年にそれぞれ7人、2014年に1人で、このうち4人は再度脱北し、韓国に亡命してきている。

参考資料 雪崩現象を起こす脱北者の急増は体制崩壊の兆しか?